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投資基準8選 Part3"PMF"


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はじめに

 YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の大久保です。ツイッターもぜひフォローください!今回は投資基準8選のうち、3つ目のPart”PMF(プロダクトマーケットフィット)”についての記事です。投資基準8選をサクッとおさらいしたい方はコチラを是非ご一読ください。また、PMFに関わるプレゼン参考資料はコチラのシリーズも合わせてご参考ください。
 すでにPMFについては語り尽くされている感がありますが、記事化します(PMFと検索すると多数の素晴らしいブログが出てきます)。"The Criteria(本ブログ)"観点でのPMFは、冒頭図のように山に例えると、登山口を発見するイメージです。また、独自の定義としてPMFを下記に定義してます。

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本記事では、PMFの重要性から、世の中にある様々なPMFの定義、VCの投資判断におけるPMFの評価の仕方、そして、"The Criteria"版PMFについて記していきます。

PMFの重要性

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 CBinsightが100社以上に行ったアンケートによると、スタートアップが失敗する理由第1位は「マーケットニーズがなかった」だそうです。資金不足やチーム力不足、競合に負けた、等の理由を差し置いてのNo1 の理由であることは意外かもしれません。一見、当たり前、かつ、誰もができていると思う「ニーズの発見」が最も難易度が高いのです。このニーズの発見の重要性を表しているのがPMF(プロダクトマーケットフィット)なのです。

世の中的 PMFの様々な定義

 でわ、PMFとは一体何なのでしょうか、元々は著名VCのマークアンドリーセンが唱えた概念とされてます。PMFに関する定義について下記列挙しますが、人によって定義はばらばらであることが分かります。実際に資金調達する際にVCから「PMFしてないですねー」等言われることがあるでしょう。その際は、ぜひ、「あなたの言うPMFの定義は何ですか」とVC担当に訪ねるのが良いと思います。人によって定義がバラバラだからこそ、認識合わせが重要になります。ただ、どのVCにとっても共通する認識としては、「PMFは成功のための必須条件であり、かつ、達成していなければ成長が見込めない」と言う点です。細かい定義はバラバラですが、発言の趣旨としては最重要項目(特にシリーズA前)となることは認識しましょう。

▽著名投資家のPMFの定義
●Paul Graham 
PMFとは単に、人々が欲しいと思うのものを作ること。make something people want.

●Mark Andreessen 
良いマーケットと、そのマーケットを満足させるプロダクトが存在する状況がPMF。

●Michael Skok 
「Day1 からプロダクトが市場全体にフィットすることはない。MVSは潜在顧客のうちのあるセグメントが持つニーズと、提供しようとしているプロダクトがあってるかに焦点を当てるのが重要」と付け加えている。

●Clement Vouillon 
PMFとは、プロダクト(バリューのある一連のfeature)が、顧客(ニーズを規定する人々)に響いている状態であり、マーケティングなどによってコンバージョンさせる方法を理解できている状態だという。

●Andrew Chen 
PMFとは、ユーザーが自分自身がそのプロダクトを欲していると認識しており、そのプロダクトに対して満足してる、happyである状態のことをさす。

●Eric Ries 
PMFとは「あるプロダクトに対して広範囲の人々がひびきあい使っている状態」という。マーケティングなしでも急速な成長を見せる状態のこと。

●Sean Ellis 
ユーザーに対し、「もしこのプロダクトがもう使えなくなったとしたらどう思いますか」とたずねて、30%の人が「とてもがっかりする(very disappointed)と答えたらPMFだという。この数字自体は若干恣意的であるものの、100社くらい比べて得た数字であり、パターンであると言える。トラクションで苦労するサービスはこれが40%に達しない。( “The Startup Pyramid”)

参考元

PMFに関連する投資基準

 上述のように定義の違いこそあれど、PMFにまつわる投資基準はいくつかの共通項があります。まず初めに、PMFに関連する各投資家の投資基準を見ていきましょう。

▽著名VCのPMFに関する投資基準
ジョン・ドーア
”ニーズが切迫しているか”
ベンチマーク
”チームが市場の”課題”にフォーカスしていること(解決策ではなく) ”
Keleiner Perkins
"-リテンション、NPS、課金率等の定量指標が異常値"
Khosla Ventures
”ユニークなインサイト、彼らしか知らない事実、特異な点を有しているか”
PayPalマフィア
”何が特異か、彼らだけが知ってる秘密は何か”
Yコン
”この企業は”たくさん”の人が”本当に”愛することのできるプロダクトを作りそうか”
”解決策から考えてはダメ。課題から考えることが最重要”
”良い課題の特徴”
 -多くの人の課題
 -増加傾向
 -高頻度
 -緊急性高い
 -法令等による義務有り
 -現状、解決が高額
”プロダクトが素晴らしく、ユーザーが他人に紹介してしまうほどか "

以上の投資基準を見たときに、気付くのは、課題特定にかなりのフォーカスを置いていると言うことです。一般的に、解決策ドリブンで起業する会社よりも、課題ドリブンで起業する会社の方が成功します。「課題なきところに解決策は存在しない」という格言があるように、課題ドリブンでのプロダクト開発がPMFの上でもとても重要です。また、「少数のLOVE > 多数のLIKE」という格言もあるように、特定のセグメントにFocusすることで、既存の解決策と比較し、より高い価値提供ができていることを立証することも重要となります。

"The Criteria"版 PMFの定義

ここまで、一般論を述べてきましたが、”The Criteria”版 PMFの定義について新ためて説明します。

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PMFというのは”ビジネスサイクル一周が成立することの立証”です。では、ビジネスサイクル一周とはどういうことか。それは、2つの要素に分けられます。A.”価値提供を実現”、し、価値提供に留まらず、B.”ビジネスとして成立”することです。2つの違いが分かりずらいかと思うので例をあげます。

例1. 月100円でラーメン食べ放題サブスク事業
これは、A.価値提供はできていますが、B.ビジネスとして成立しません。(ユニットエコノミクス不成立)
例2. 月5000円で港区サウナ行き放題サブスク事業
これもA.価値提供はできていますが、B.ビジネスとして成立しません。(ユニットエコノミクスは成立したとしても、市場の魅力に欠けます)
と言った具合です。

投資家が納得するであろうPMFを定義の2要素について深堀りしていきます

PMFの要素 A.価値提供の実現

 価値提供の実現とはどういうことか。それは、「誰の(who)、何の課題を(what)、解決しているか(how)」に対して、定性的、定量的に、立証できる状態です。どのように達成するかについては「課題特定」→「ソリューション検証」というステップを意識するのがとても重要です。フレームワークとしては下記のように4STEPに細分化してPMF達成を目指すものもあります。このあたりのPMF達成に向けた具体的なアクションについては、別ブログでまとめたいと思います。

参考)価値提供実現までの4ステップ
Step1. Customer/Problem-fit
 顧客が抱えている課題の立証
Step2. Problem/Solution-fit
 課題に対する解決策コンセプトの立証
Step3. Solution/Product-fit
 解決策のコンセプトがプロダクトに落とし込めているかの立証
Step4. Product/Market-fit
 プロダクトがマーケットに受け入れられるかの立証

また、価値提供の実現をできているのかについての簡易的なチェックは、自らのプロダクトで下記穴埋めを実際にやることです。ここまでシンプルに自分のプロダクトのコンセプトを”結晶化”できている起業家は意外と少ないので、ぜひ、実施してほしいです。これは、名著「キャズム」の裏表紙なのですが、実にVCの投資基準に類似しており興味深いです。

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では、どうやってPMFが達成しているかを投資家は判断するのか。下記に記す。

●顧客の声/先行指標:プロダクト実績が出る前の先行指標としてのデータ

-NPS 50以上が価値提供の実現ライン
  計算方法:「あなたの友人にどれくらい本プロダクトをおすすめしたいですか」と質問。評価を10段階評価してもらう。
  NPS=「9-10点をつけた割合%」ー「1-6点をつけた割合%」の引き算
-Must-Have Score 40%以上が価値提供の実現ライン
  計算方法:「このプロダクトがなくなったらどう思いますか」と質問。「1かなりがっかり 2ちょっとがっかり 3がっかりしない 4まったく気にしない」の4択のうち、”1かなりがっかり”を選んだ人の比率 

●質的KPI/プロダクト実績:UU・PVのような量的KPIよりも、リピート率、CVR、成長率等・滞在時間等のサービスの質を表すKPIを初期では追うべき → バケツの穴がふさぐことが最重要事項

 達成ラインについてはベンチマーク会社の数値を超えていること 
 ※イノベーター層が初期顧客なのでベンチマーク会社の数値は超えたい
     -CVR
  -リピート率
  -チャーンレート
  -DAU/MAU
  -滞在時間
     -課金率
  -営業成約率
  -オーガニック成長率 (週7%以上成長)

この中でも、リテンションレートは重要ですが「何%であれば良い数字なのか?」と言う疑問を湧くかと思います。それに対しての一つの答えが下記です。海外のエキスパート(twitterやpinterest、海外トップVC)への質問をまとめたものとなります。参考になればと思います。

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PMFの要素 B.ビジネスとして成立

 ビジネスとして成立するとはどういう状態か。それは、ユニットエコノミクスが成立し(The Criteria図⑤マネタイズ)、価値提供している市場が魅力的(The Criteria図⑦市場)であるということです。

●ユニットエコノミクスの2つの観点
  1LTV/CAC > 3
    計算方法:LTV=単価×生涯利用回数×粗利率
        CAC=顧客獲得コスト(広告費、営業etc)÷獲得顧客数 
  2Payback Period  6ヶ月以内(BtoC) 12ヶ月以内(BtoB)
    計算方法:CAC÷月次粗利

市場の魅力度については最低限上場が目指せる規模のあるマーケットである必要があります。
 これら2つの要素「A.価値提供の実現」&「B.ビジネスとして成立」が成立することをPMFと定義しても良いのではないかと思います。

おわりに

 今回は8つの投資基準の内、Part3のPMFを記事化しました。真の意味でのシリーズA到達のためには、必ず達成しておきたい項目です。顧客の課題の特定がPMFの第一歩であり肝の部分なので、課題に向き合いPMFを目指したいところです。PMFに関しては日本語・英語含め記事が多数あるので、色々調べてみるのが面白いと思います。

付録:想定質問例

・誰の課題を解決しているのですか?
・既存の解決策と比べてなぜ選ばれるのか?
・競合のソリューションから顧客を奪っているか?
・NPS等の満足度調査・ユーザーの声はどうなっているか?
・解約している理由は何か?打ちては打ててるか?
・どういうヒトが使っているか?ペルソナは誰か?
・ベンチマーク企業に対して質的KPIの異常値が出ているか?
・初期フォーカスしているセグメントはどこか?なぜか?
・ペインは強いか?(緊急性、must-have、高頻度)
・市場に対する自分たちなりのインサイトはなにか?
・初期トラクションの質的KPIは異常値が出ているか?

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【全体概要】VCの投資基準8選 〜VCとのMTGをHackする〜(リンク)
①タイミング(リンク)
②チーム(リンク)
③PMF(Product Market Fit)(本記事)
④競合優位性/勝ち筋(リンク先詳細)
⑤マネタイズ(リンク先詳細)
⑥グロース戦略(リンク先詳細)
⑦市場/ベンチマーク(リンク先詳細)
⑧ROI/投資収益性(リンク先詳細)

参考文献



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