マネタイズtitle

投資基準8選 Part5"マネタイズ"

マネタイズず

はじめに

 YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の大久保です。ツイッターもぜひフォローください!今回は投資基準8選のうち、5つ目のPart”マネタイズ”についての記事です。投資基準8選の総まとめをサクッとおさらいしたい方はコチラを是非ご一読ください。また、マネタイズに関わるプレゼン参考資料はコチラシリーズにまとめてます。
 本シリーズではすでに、③PMFで顧客への価値提供の実現の重要性④競合優位性では、価値提供の上で、なぜ勝てるのかの説明の重要性を説きました。今回は、③、④の上で証明すべき「儲かるのか」という説明の重要性を記事化します。マネタイズポイントの見つけ方とユニットエコノミクスについて主に記します。

マネタイズの論点

マネタイズ論点

 マネタイズという論点を語るときは大きく2つ、"①PL全体の収益性”と”②ユニットエコノミクス”があります。そして、①は更に2つ、”キャッシュポイント/事業の数”と”キャッシュポイント/事業ごとの収益性”の論点になります。例えば、ヤフーだとメディア・コマース・フィンテック事業があり、各事業ごとに収益性も大きく異なります。②も更に2つ、”LTV vs CAC"と”Payback Period"の論点になります。どちらもユニットエコノミクス(1単位の経済性)を説明するための大きな2つの観点となります。よくVCとのmtgでもユニットエコノミクスの話題は出てくるので理解したいです。

①PL全体の収益性について

PL全体の収益性は、大きく2つ、”キャッシュポイントの数”と”キャッシュポイント毎の収益性”です。

▽キャッシュポイントの数について
キャッシュポイントの数が多いほど、また、収益性が高いほど良い状態となります。マネタイズ手法については起業家からも相談を受けますが、それに対する答えは徹底的に既存の企業のマネタイズ手法を調べるということです。特に上場企業はIR資料でマネタイズ手法、マネタイズ規模(売上)・収益性/コスト構造を公開しているので必ず確認しましょう。また、調べ先としては、”同業界”の会社はもちろんのこと、”同ビジネスモデル”の会社も調べましょう。例えば旅行メディアを考える際は、上場している旅行メディア(国内、海外)はもちろんのこと、メディアというビジネスモデル以外で、そもそも旅行業界で一番儲かってる領域はどこか、他業界のメディアビジネスでのマネタイズモデルは何か(飲食、不動産、美容etc)等の研究をすべきです。それによりマネタイズポイントの数を増やすためのアイデアが手に入り、より重層的なビジネスの構築が可能となります。

マネタイズ調査

 新しいマネタイズの発明は難しいため、基本的には”今あるお財布”を奪ってくる戦いです。法人、個人に関わらず,、既にある課題/ニーズに対する解決策にお金を払っているのです。つまりスタートアップは既にある課題に対して支払われてるお財布を、より良い解決策で奪ってくる、のが王道となります。その他、今お財布がない場合でも、売上up、コストdownに効くサービスであればお財布を作ることができるでしょう。(実際は広告費の代替や人件費の代替だったりします)

マネタイズ2パターン

▽キャッシュポイント毎の収益性について
続いてキャッシュポイント毎の収益性です。基本的には同じビジネスモデルであれば同程度の利益率になるでしょう。下図のPL全体構成をユニットエコノミクス的に考えると、LTV(売上-変動費)、オペレーション効率(人件費、その他経費)、CAC(広告販促費)の3つの要素に分解されると思います。上場企業の参考にするビジネスモデルと比較し、上述したLTV、オペレーション効率、CACのどれかが劣ると、収益性は悪くなりますし、どれかが勝ると収益性は高くなります。CAC・LTV・オペレーション効率のいずれかでも、既存成功企業に勝っていれば、積極的にアピールしましょう。

PLのユニット化

②ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスを論じるときに頻出するのが「LTV vs CAC」と「Payback Period」の2つの観点なので、それぞれ説明します。

▽LTV vs CACについて
 LTV(Life Time Value:生涯顧客価値)とCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)の2つの概念を用います。LTVは「1顧客が生涯に渡ってもたらす利益」を表し、CACは「1顧客を獲得するのにかかる費用」を意味します。LTVがCACの3倍以上だと良いと言われています。それぞれの計算式をおさらいしましょう。

▽LTVの計算式
LTV = 「a.顧客あたりの月額売上」×「b.貢献利益率」÷「c.月次解約率」


a × bで月次の貢献利益(=売上ー変動費)を計算できることはわかりやすいです。では、なぜ「月次の貢献利益」を「月次の解約率」で割るとLTV(生涯顧客価値)になるかは、分かりづらいかと思います。ご興味ある方はコチラをご参考ください。
 a.についてはBtoBの場合は企業あたりの売上、BtoCの場合はARPU(Average Revenue Per User:1顧客から得られる平均売上)を利用します。また、サブスクリプション/月額課金型でなくても、LTVは計算可能なので、計算しておくべきです。(例えば3年間LTVのようにすると、LTV=取引単価×3年間の平均取引回数 で求められます。)
 b.については、”利益=手元に残るお金”を計算するための項目です。したがって、売上から変動費(売上増加と主に増える費用 ex.商品原価、アプリ手数料・サーバー費用・決済手数料率・カスタマーサクセス人件費etc)を減した貢献利益の割合を用います。LTVを売上で計算している場合がありますが、利益率で考えることのほうが本質的なので、項目bは考慮しましょう。
 c.については、「当月の解約アカウント数÷当月月初のアカウント数」で計算します。月次解約率(チャーンレート)を考える時、実は4種類あるので、注意しましょう。

画像3

参考までに4種類の大きな分類としては「アカウントor金額 軸」と「アップセルを含むor含まない 軸」の4パターンである。ちなみに、SaaS企業がIR資料で用いるのは「金額×アップセル含む」パターンが多く、最もチャーンレートが低く出る計算方法です。下記はNet Revenue Churn Rateを元にしたシミュレーションですが、ほんの数%の差で事業成長に大きな影響を与えることがわかります。

 LTVの改善方法については、a単価を上げるか、b貢献利益率を向上させるか、c解約率を下げるかの3択です。VCとのmtgでもLTVを各要素に分解して、改善傾向を示せるのが理想的です。その際、なぜ改善したのかの打ち手、再現性/持続性を説明し、今後、さらにLTVが向上するのはなぜか、その打ち手を説明できるとより良いです。

▽CAC(Customer Acquisition Cost)1顧客獲得単価)
CAC = a.獲得に要した費用 ÷ b.獲得顧客数

CACを話す時、2つの概念があります。Blended CACとPaid CACです。Blended CACは計算式内の”b.獲得顧客数”に「オーガニック経由の獲得+広告・営業経由の獲得」を用いるのに対し、Paid CACは式内の”獲得顧客数”に「広告・営業経由の獲得」のみを用います。”a.獲得に要した費用”はBLendedもPaidも同じ数値を用いるので、基本的に、Paid CACのほうが高い数値(悪い数値)になります。"a.獲得に要した費用"にどの費用を算入するのか、についても議論があります。営業費用、広告費用、販促費用等の、新規顧客にかかった費用は算入するのが通常です。ちなみに、CACはCPA(Cost Per Action)、CPO(Cost Per Order)等と呼ぶ人もいます。

▽Payback Periodについて
 Payback Period(回収期間)とは、1顧客に要した費用(CAC)を貢献利益ベースで何ヶ月で回収できるかという概念です。短ければ短いほどキャシャフロー上、良い数値となります。計算式は下記です。

▽Payback Periodの計算式
Payback Period = CAC(1顧客獲得単価) ÷ 1顧客当たり月次貢献利益

この数値はtoCでは3ヶ月以内、toBでは12ヶ月以内が理想的とされます。この数値は先に述べたようにキャッシュフロー上大きな意味を持ってます。下記が、Payback Periodの数値ごとのキャッシュフローのシミュレーションです。

 図を見るとわかるように、Payback Periodの数値を下げることが、事業成長においての、必要資金、スピード、黒字転換時期に好影響を与えます。
 では、どうやってPayback Periodを短縮するのか。大きく2つ、「CACを下げる」か、「1顧客当たりの貢献利益を上げる」かです。前者はオーガニック(SEO、インバウンド、紹介etc)の獲得を増やすor広告の最適化を進める、です。後者は、顧客単価を上げるor貢献利益率を上げる(=変動比率を下げる)です。VCとのMTGでは、Payback Periodの数値が悪い場合は、時系列でPayback Periodが改善していることをアピールできることが望ましく、合わせてなぜ改善できたのかに関する打ち手の振り返り、再現性/持続性の高さを伝えたいです。

おわりに

 今回は8つの投資基準の内、Part5のマネタイズを記事化しました。顧客価値を満たして(③PMF)、競合に勝っても(④競合優位性)、儲からなければビジネスになりません(⑤マネタイズ)。近年赤字上場等も増えてますが、その裏にはユニットエコノミクスの成立が欠かせません。また、ユニットエコノミクス成立なくして、新規獲得への大型投資(マスマーケ、営業人員の拡大)も高リスクです。まずは、自身の事業のユニットエコノミクスの可視化、および、中長期的にPL全体としての収益率の概算/可視化をすることが第一歩です。

付録:想定質問例

・ユニットエコノミクスについて聞かせてください
・CACはいくらですか。blendedですか、paidですか。
・LTVの計算式教えて下さい。売上ベースですが、貢献利益ベースですか。
・Payback Periodは何ヶ月ですか。
・競合と比較し、CAC・LTVの数値はどうですか。
・最終的な収益率はどの程度を見込んでますか。上場企業と比較し妥当ですか。
・業界内で儲かっているプレイヤーはどこで、なぜ儲かっているのですか
・LTVの推移、今後の改善のための打ちてを教えて下さい。

合わせて読みたい記事

【全体概要】VCの投資基準8選 〜VCとのMTGをHackする〜(リンク先詳細
①タイミング(リンク先詳細
②チーム(リンク先詳細)
③PMF(Product Market Fit)(リンク先詳細)
④競合優位性/勝ち筋(リンク先詳細)
⑤マネタイズ(本記事)
⑥グロース戦略(リンク先詳細)
⑦市場/ベンチマーク(リンク先詳細)
⑧ROI/投資収益性(リンク先詳細)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?