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投資基準8選 Part6"グロース戦略"

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はじめに

 YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の大久保です。今回は投資基準8選のうち、6つ目のPart”グロース戦略”についての記事です。投資基準8選の総まとめをサクッとおさらいしたい方はコチラを是非ご一読ください。また、グロース戦略に関わるプレゼン参考資料もコチラシリーズにまとめてます。
 本シリーズ「③PMF」、「④競合優位性」、「⑤マネタイズ」で”ビジネスの1サイクルが成立する”(③顧客に価値提供できてるおり、④競合に勝てて、⑤儲かる)ことをアピールした次に重要になるのが、そのビジネスサイクルを”拡大再生産”できるか、という点です。それが、今回のテーマであるグロース戦略となります。
 本記事ではIPO企業の事例を踏まえて、成長戦略/事業計画の考え方や事業計画の確からしさの説明の仕方等をまとめます。

グロース戦略/成長戦略の考え方

part6_概念図

 YJC愛読本でもある「ビジネス・クリエーション」でも語られているように、成長戦略はシンプルに「①誰に(who=顧客)」「②何を(what=プロダクト)」「③どう(how=マーケ/営業)」届けるのかそして、それを実現するための「④オペレーション(組織・開発・生産体制)」に関して記述することです。
 中でも「Go To Market Strategy」という単語があるように(正直最近知りました。GTMと略すらしい。。)、VCとの面談では①~③が論点になることが多いです。例えば、伝統的なフレームワーク「アンゾフの成長マトリクス」では、①顧客/市場と②プロダクトの2軸を考えることで成長戦略を考えますし、SalesForceの成長戦略の資料(下図)でも①地域による顧客/市場の軸、①業界による顧客/市場の軸、②プロダクトの軸と3軸で成長戦略を記述してます。
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これら2つの事例の2つの要素(①顧客/市場と②プロダクト)に加えて、顧客にプロダクトを「③どう届けるのか」、つまりマーケティング/営業の戦略の策定をあわせた3つの要素を記述することが、グロース戦略の骨子になります。
 また①顧客/市場規模の拡大を考える際に、②のプロダクト開発(ex.)新機能によるARPU向上)や③のマーケティング/営業の強化(ex)海外進出や対象業界の拡大)は密接に関連してくるので①-③を連動させて説明できると説得力が上がります。

成長戦略の3パターン

 上述した考え方をもとにすると成功企業も成長戦略は大きく3つに分類されます。つまり、売上=市場規模×獲得シェアと分解した時の、獲得シェアの拡大(パターン1)と市場規模の拡大(垂直方向のパターン2、水平方向のパターン3)です。

part6_3パタン

パターン1:シェアの拡大
パターン2:バリューチェーンの拡大(バーティカルに拡大)
パターン3:プロダクトの水平展開


○パターン1:シェアの拡大
 SanSanのIR資料にもあるような市場シェアを拡大していく戦略です。現在の市場セグメントにおいて、プロダクト、そして、マーケティング/営業の強化によってシェア拡大を目指します。

画像5パターン2:バリューチェーンの拡大
 同じ業界内で顧客セグメントを拡大することで市場規模の拡大を目指す戦略です。例えば、メディア企業が小売、製造、物流といった領域にも進出していく、であるとか、予約管理SaaS企業が、プロダクト開発によりクロスセル(集客、決済、仕入れ、マーケSaaS)を目指すといった内容です。ピーター・ティールの言う縦に独占せよです。

○パターン3:プロダクトの水平展開
 他業界、地域に顧客セグメントを拡大することで市場規模の拡大を目指す戦略です。例えば、国内でフリマ王者であったメルカリが米国進出した事例や、ポートのように人材メディアが、メディア製作のコアコンピタンスを軸に、金融メディア、医療メディアに進出していくといった事例です。

画像6パターン2、パターン3の説明をする際は、自社の持つコアコンピタンス/アセット(システム、アルゴリズム、ブランド、顧客基盤、営業力、マーケ力etc)が活用できる内容になっていることはしっかり述べたいです。なぜなら、パターン2、3の場合、新しい市場セグメントにおいては後発参入であることが多いためです。

因数分解の重要性

 ここまではグロース戦略の定性的な側面を述べてきました。ただ実際VCと話す際はもちろん定量化・数値化も重要となってきます。定量化する際に、まず意識したいのは事業の売上が何で構成されているかの説明、すなわち因数分解をすることです。因数分解をし、説明すると相手にビジネス構造が伝わりやすいと思います。各社IR資料でも記述してますが、ツクルバ社(下図)のように売上のみならず費用までも因数分解してあると、売上・コスト構造双方が伝わりよいでしょう。

part6_ツクルバ

また、過去の実績の伸びに基づいて今後のKPIの成長戦略を語れるとより説得力が増します。

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実際には、事業計画はエクセルで作るかと思います。レイターステージにもなると10シート、数百行といった膨大なデータ量になることもしばしばですが、共通する考え方は売上を因数分解 → それぞれの要素の成長計画の策定」となるので、主要KPIは常に頭の中にインプットしておくとよいでしょう。

事業計画の蓋然性

 VCとの話の中で、その事業計画本当に達成できるの?といった話が出るかもしれません。シニフィ談でも語られているように事業計画の蓋然性(確からしさ)を説明することは重要となります。起業家の方には”ボトムアップ・アプローチとトップダウン・アプローチ”で整合性が合うのかの検算をおすすめしてます。

○ボトムアップ・アプローチ

通常、事業計画を作る際はこのアプローチです。エクセル上で売上・コストの因数分解を行い各種KPIが成長する前提で将来の売上利益計画を策定する方法です。

○トップダウン・アプローチ
ボトムアップ・アプローチで策定した事業計画・KPI計画が、鳥の目で見たときに、市場において妥当なマーケットシェアか、や、競合/類似企業のKPI数値と比較し現実的かどうかを考える方法です。

これら2つのアプローチで事業計画の精度を高めていく思考は重要です。例えば、ECでいうと、事業計画上の成長速度が、メルカリの成長速度を上回っていたら、難易度は高いでしょうし、メディアでいったら、計画上のPV数がヤフー/グーグルを上回っていたら流石に難しいでしょう、といった話です。これは極端な例ですが、事業計画の蓋然性を伝える際に、例えばメディア事業であれば、「同業界でメディアをやっているA社のサービスのMAUと同じ規模に5年後なってます」、や、SaaSであれば「同業界のSaaS企業B社と同じ導入社数、単価感に5年後なる想定です」といった具合に一つベンチマークになる指標があると、ふむふむいけそう!、とVCもなるでしょう。ただ、難しいもので、現実的な数字にしすぎると魅力的にならないリスクはあるので、それを懸念する場合は、アップサイドシナリオ、保守シナリオ等、複数シナリオの事業計画を用意することをおすすめします。

おわりに

今回は8つの投資基準の内、Part6のグロース戦略を記事化しました。顧客価値を満たして(③PMF)、競合に勝ち(④競合優位性)、儲かるビジネス(⑤マネタイズ)を確立した後は、そのビジネスサイクルを拡大再生産するフェーズです(⑥グロース戦略)。定性面、定量面の双方で成長戦略を連動させ、かつ、確からしさをアピールするためにトップダウン・アプローチ等で検算することで、説得力のあるグロース戦略をアピールできると思います。

付録:想定質問例

・短期的、中期的、長期的な成長戦略は何ですか?
・売上を因数分解するとどういう構造になってますか?
・それぞれのKPIがどういう推移で、今後成長するのはなぜですか?
・プロダクトロードマップはどうなってますか?
・IPO時の財務・KPI計画は、他上場企業の財務・KPIと比較し妥当ですか?
・営業戦略・マーケティング戦略・CRM戦略を教えて下さい
・現在の対象顧客の市場規模、今後対象とする市場規模を教えて下さい

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【全体概要】VCの投資基準8選 〜VCとのMTGをHackする〜(リンク先詳細
①タイミング(リンク先詳細
②チーム(リンク先詳細
③PMF(Product Market Fit)(リンク先詳細)
④競合優位性/勝ち筋(リンク先詳細)
⑤マネタイズ(リンク先詳細)
⑥グロース戦略(本記事)
⑦市場/ベンチマーク(リンク先詳細)
⑧ROI/投資収益性(リンク先詳細)
【プレゼンは魅せ方が鍵】資料作成に役立つIR資料シリーズ(リンク先詳細)

参考文献



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