（再投稿）ルークと１８杯のアイスコーヒー

思い出し日記。結論から言うとアイスコーヒーを１８杯飲まされた話。

それは２０１６年の１０月ごろ。
私が最初にオーストラリアで住んでいた場所。シドニー。のド真ん中。タウンホール。

右も左もわからないけどお金が６４円しかない頃の話。
（海外で６４円握りしめて１６人部屋で３ヶ月半暮らした話）

私はボロボロのバッパーに住んでいて、１６人部屋で日々を過ごしていた。その時に出会ったのがルーク。オーストラリア人だけどなぜかバッパーに住んでいた。

年齢は確か当時２４歳。ちょっとだけ年下。顔はイケメン。体はノーマッチョ。性格はかなり変。夢は会社を立ち上げること。

そんな彼と出会ったのはバッパーのリビングルームにいた時。一人でだらだらしていたところの「Hi !」とちょい低めの声で話しかけてきたイケメン。それがルーク。

なんでも、日本人に見えたから話してみたそうな。アジア人に興味があるらしい。そのせいか喋り方はオーストラリア人独特のアクセントが無く、大変聴きやすい。

そんな彼の口癖は「Racist（差別主義者）」なんかいつも言ってくる。

彼は喋り方に癖がある。アクセントではなく、表情や動きの癖がすごい。なんというかちょっと言い切るような独特のしゃべり方。そして少し溜めるように喋る。まぁそこまで英語もわからなかったし、話し相手欲しかったしちょうどよかったんですけど、喋れば喋るほど変わった奴。いや、喋らなくても変わってた。

ルークは夜になるとハンドミキサーとボウルを持ち、ゴーグルをつけて「石鹸」を作り出す。

ウィィィィィイィィィィィィンンッッッ！！！！

という騒音を出しながらキッチンで石鹸を作っている。知らないお客さんはびっくりしながら、ちょっと引きながらもその横でご飯を作る。

彼はこの手作り石鹸で企業をしたいらしい。実に夢があって良い。が、

夜中に作るな。うるせぇ。

そんな感じのルーク。
それからも石鹸を毎日のように作り、数週間後にはチョコレート型に作った石鹸を愛おしそうに両手で持ち上げ

「Oh...My baby...」

とつぶやいていたのは今でも思い出す。
マッドサイエンティスト、ルークの名言でした。

My babyが誕生した直後は、リビングに行き、その時いた全員に「これは俺が作ったんだ！すごいだろ？」と言って回ってました。知り合いも。それ以外も。

１１月に入り、シドニーが暖かくなった頃。
いつも通りリビングでパソコンを叩いていた私の前に
突然座ったルークは

「俺は。。。アイスコーヒーを作る！」
と謎の宣言をしました。

「へぇ。いいんじゃない。」と気のない返事をした私に

「だから。君も手伝うんだ」
と突飛な発言をし、
「へ？」と驚く私の顔を見ずに消えたルーク。

５分後。
両手いっぱいの器具を私の前に並べて
「これから実験を行う。」とまた謎のことを言う。

粉末コーヒー、お湯、氷、コンデンスミルク、ノート、ペン、プラスチックカップ、電子計りetc...

後半のアイテムに「なんでだよ」と突っ込む私はまだ平和。
「まぁいいか」と言った言葉は愚か。

ルークは電子計りにカップを乗せ、粉末コーヒーを入れ、計り、メモ。
お湯を入れ、計り、メモ。
氷を入れ、計り、メモ。
コンデンスミルクを入れ、計り、メモ。

味見。
そして私に向けて突き出されるアイスコーヒー。
「これはイマイチだ。」
というルーク。

な　ら　渡　す　な　

と思いつつ。口をつける。そして始まるアイスコーヒーの暴力。

私がカップを置くのを待たず、彼は次のアイスコーヒーを作り始めた。
材料を入れる。計る。メモ。味見。
入れる。計る。メモ。味見。
入れる。計る。メモ。味見........

その繰り返し。その数１８杯。
もう１５杯ぐらいから「もう辛い・・・」とか言うから
「ならやめればいいじゃん」と言った私に

「No !! I'm scientist !!」

と。

知　ら　ん　が　な

「ルークはマッドサイエンティストじゃん」って言ったら

「your Racist !!」

と。
まぁもはや挨拶ですね。

結局、１８杯目で「これは完璧だっ！」とか言って解放された私。

お腹チャプチャプ。
目はギンギン。
気分も少し悪い。

そしてその場にいた全員にアイスコーヒーを飲ませる。
「これは俺が作ったんだぜっ！」って自信満々に言いながら。

翌日。
ルークのベッドを見ると（同じ部屋）
大量のプラスチックカップとストローとフタ。その数１，０００個。

ベッドの上も。ベッドの下も。横も。ロッカーの中にまで。しかも開けると雪崩が起きる新手のトラップ。

それを見せつけてくるルーク。

バカである。量を考えて欲しい。

「俺はこれを売って金儲けをするんだ！」と意気込むを止めるものは誰もいない。
というかみんな「はいはい。頑張れ〜」って感じ。慣れてる。私も。

数日後。
彼は朝５時に起き、支度をし、意気揚々とシドニーの中央にあるハイドパークへ向かった。

私は、仕事のためその日彼に会うことはなかった。

後日談。
ハイドパークでアイスコーヒーを売りに言ったルーク。その日に売れた数はは

老婆の買った１杯だけだった。

私の苦労を返して欲しい。

彼は残りの９９９個のカップをそっと処分していた。