ベーシックインカムはそんなに悪いもんでもない

 竹中平蔵氏のおおまかに話したベーシックインカム案は結果としては社会福祉を削減するのに繋がり新自由主義的だとの批判もあるが、ベーシックインカムは別に必ずしも他の社会保障制度を廃止しなければ実施できないものでもない。

 現在の社会保障制度にプラスしてベーシックインカムを導入するという案も存在している。故にベーシックインカムを勘違いして現在の社会保障制度の統廃合の結果でしかベーシックインカムは実施できないと思ってほしくはない。

 ベーシックインカムという考えはつい最近生まれた発想ではなく、古くはトマス・モアから始まり20世紀後半にはアメリカの経済学者が右派左派問わず支持した政策で非常に特殊なものであることは間違いない。

 ベーシックインカムのメリットとして最も挙げられるのは貧困対策だ。ベーシックインカムは貰うにあたって一切条件がない。これは条件によって給付対象になれず苦しむ人々を生み出さないということに繋がり、多くの人に経済的な余裕を生み出し社会秩序の安定が図れる。その例として2009年、イギリスのロンドンで行われた実験がある。13人のホームレス男性を対象に自由に使える金として3000ポンドを与えるというものだ。 実験結果は13人全員が社会復帰の目途を立てたという良好な結果に終わった。社会を生きていくためには必ず金が必要になる。その金を支給することで貧困にあえぐ人々は選択の自由を得てあらゆる可能性に手を伸ばすことができるようになるのだ。

 フィンランドでは実際にベーシックインカムの社会実験が行われた。結果は幸福感が増したというもので悪い結果とは言いにくい。この実験は規模が小さいために社会に大きな影響を与えるものかは判断できないが私は有意義な実験だったと思っている。

 よくスイスが国民投票で否決したという結果を持って批判する人もいるがスイスのベーシックインカム案は1人につき支給される額が高すぎることや深く議論されなかったというものも含め重視すべき結果だとは思っていない。

 現在、社会福祉に関する行政の仕事量を多大なものだ。しかし、度重なる行政改革によって公務員の数自体は減少傾向にある。行政は拡大傾向にあるにも関わらず公務員の数が減少傾向にあるのは異常なことだ。中でも生活保護はその特性上、監視の目をきつくしなければならないというプレッシャーもある。一方で生活保護受給者も受給することで社会に負い目を感じてしまう人も存在し、行政側と受給者側の双方に苦労があった。しかし、これをベーシックインカムに変えることで双方の苦労は全て解消されることになる。ベーシックインカムは平等に全員に支給されるため行政は監視の必要がなく、受給者側は受給することが当たり前になり特別なことではなくなるのだ。この、条件が一切なく利用も制限されないフリーマネーを万人に与えることで多くの人々の幸福度の向上につながる。

 さらに経済に好影響を与えることも予想される。安定した収入があることは個人の将来設計に役立ち、各人の叶えたい夢への展望にも繋がることは間違いない。さらに個人消費の増加も考えられ何十年もデフレ不況に悩まされている日本がデフレから脱却する可能性も十分にある。また、定期的に金が入ることで投資や起業などもしやすくなり多くのイノベーションが生まれ、経済発展が起きる可能性もあるのだ。さらにブラック企業が淘汰されるという効果も期待できる。なぜなら常に安定して生活に必要な最低限度の現金を政府が保証してくれる以上、個人は選択の自由が常にあり会社をやめることで収入が経たれるという不安がなくなるからだ。企業はクリーンでないと従業員が雇用できず倒産せざるをえなくなる。このように市場競争の激化も生む。

 必ずしもベーシックインカムが社会の全てをよくすると言い切ることはできないがそれは当たり前のことだ。完璧な制度などないし、いかに多くの人にメリットが大きいかで判断すべきだと思う。社会保障の統合としてのベーシックインカムは結果として福祉費用を削減するのに貢献するが、この削減した分を新しい再分配に回してもいいし、その分は必要なくなることから減税へと話を繋げてもいい。

 そのため様々なプランがあることを知り、そのうえで何が今の日本社会にとって最適かということが今後議論されていくのが望ましい。ベーシックインカムは必ずしも悪策ではない。そうであるかはまだ何とも言えないというのが真実だ。

 参考になる本


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