見出し画像

「円安」にご用心。 ー 「昭和」の幻想はもう捨てよう。

 「株価は何で上がってるんですかねぇ?」

 「...通貨価値が下がってるんじゃないでしょうか」

 久々にお会いしたお知り合いの方に質問され、一拍おいて答えた:

 「"バブル" だとかいう記事が持て囃されているのは ”願望” の裏返し。自分達の預金資産が目減りして悔しいんじゃないでしょうか」

 話の終わりに意見が一致したのが「現預金は危ない」という点だった。この方も確か随分前に駅近のマンションを購入していたので、おそらく中古ながら値段が上がっていて "実感" もあるのだと思う。

 最近ドル円の上昇が顕著だ。@103~105円でうろうろしていたと思ったらあっという間に@108円台。筆者はちょっと "嫌な感じ" がしてきている。

 菅首相は少し前の国会答弁でマーケットのことを聞かれて「為替相場を注視している」と答えていた。これはおそらく「円高にならないかどうか」

 頭の中にあるのは:

 「円安」=「株価上昇」=「景気回復」

 この「昭和の黄金律」だ。筆者はここに "危うさ" を感じる。

 今、日本人として真に注視すべきは「円安リスク」だからだ。

 ろくに経済学など学ばなかった「損切丸」だが、「景気循環論」については実務上いろいろと知る機会があった。標題に添付したのがそのおおよそのモデルで、25年とか50年周期で国家経済が循環する4モデルを示したもの。

 通貨の動きで類推すると、1995年4月にドル円が@79.75をつけた時期が「B.景気後退期」に当り、その後の20年に渡るデフレ期が「C.景気停滞期」に当たる。ドル円も@110円まで「通貨安」が進んだ。e.g. 2011年「東北大震災」でドル円が一時@76円台に突入したのは一種の "ノイズ" と認識。

ドル円(1971~2020)

 現在日本は「D.景気転換期」に差し掛かっているリセッションなどの苦難を超えて「構造転換」がなされ「新しい時代」に向かう時期だ。その象徴として「金利上昇」がある。

 これはかつての「覇権国家」イギリスアメリカに共通して起きたことだが、経済が大きくなるに連れ「輸出増加」が「通貨高」をもたらし(A.景気回復期)、結果として国内生産の採算悪化 → 工場の海外移転が起きる。その後にやってくるのが大幅な「通貨安」「通貨高」による景気悪化は防げる反面、「インフレ」が大きな国内問題として浮上してくる。

ポンド円(長期)

 かつて英ポンドの金利が@10~15%という「高金利」だったのはこの「インフレ」のせい。ERMEUROの前身)脱退などのショックもあり「通貨安」が止まらず、随分長い間「インフレ+高金利」に悩まされた。1990年代に金利が@8~10%台まで上昇していたアメリカも同様だ。

 日本は「覇権国家」ではないので、イギリスアメリカの例がピッタリ当てはまるとは思わないが①「円高不況」を経て工場を中国、アメリカ、東南アジア等に移転して「通貨高」対策を施してきた経緯②たっぷり国内預金がある状況で「通貨安」が起きようとしている点は似通っている

 例えばドル円が@150円になるケースを想定して見よう。

 スーパーに買い物に行って "純国産" のものを探すとその少なさを痛感する。せいぜい値の張る ”すき焼き用黒毛和牛” ぐらいだろうか(笑)。タコでさえ ”モーリタニア産” だったりするし、ほとんどが輸入品と考えて間違いない。そこで円が▼50%も安くなれば、単純計算でも500円のタコは750円になる。これは食料品に限らずガソリンや貴金属も同じだ。

 おそらく70歳以上の政治家のみなさんが考えていることは「ドル円が@150円になれば日本で作ればいいじゃないか。そうすれば雇用も改善する」

 だが事はそう単純ではない。トヨタだってパナソニックだってアメリカや中国の工場には相当の「投資」をしているだろうし、ドル円が上がったからハイハイ工場を日本に戻します、とはならない。トランプ氏がやったように国内雇用を守りたい他国の反発も予想され、政治的にも困難を伴う。

 そうなると「円安」はもはや日本人とっては「リスク」「コスト」が「メリット」を大幅に上回る1,000兆円も「預金」があればなおさらだ。給料も増えないのに*500円→750円のタコや@130円/L→@195円のレギュラーガソリンの値上げに生活者として耐えられるだろうか

 株を買うのはこの "目減り" を防ぐための行為と考えるのが合理的だ。ドル円が@100→@150円の過程で仮に日経平均が@30,000円→@45,000円になっても儲かった訳ではない資産価値はほぼ同じだ。ただ「預金」で持っていたよりはましと言うこと。

 **「株式投資」には銘柄選択もあるし、無理に借金をしてまで勧めるものでもない。だが自分の "懐事情" と相談した上で、「投資」は考えて見る必要がある。株以外でも不動産や耐久消費財購入は立派な「投資」だ。

 **実際アメリカでは長い間「インフレ」「通貨安」に苦しめられ、結果として「株式投資」が定着していった。日本はこの「入り口」にある

 元・金利専門家の「損切丸」としては「金利」を変化のベンチマークとして注視している。黒田日銀総裁も学者肌の方と聞くので、このぐらいの認識は持っておられよう。あとは「政治」との駆け引きだろうか。「新時代」へ向けてぜひ「金利の正常化」に取り組んで頂きたい。そうすれば「円安リスク」も幾分緩和されるだろう

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?