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「ユニクロ柳井氏、京大・本庶氏、山中氏の医療研究に100億円寄付を即決」に思うこと。

 「コロナは100年に一度の危機。今から必ずスタグフレーション(景気悪化とインフレの同時進行)や、社会的・経済的問題が出てくる。そういうときに国には縛りがあってできないことがたくさんある。だが、個人や企業なら自由自在にできることがある」(柳井氏)

 寄付に関してはビル・ゲイツ財団やアマゾンのジェフ・ベソス氏、ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシー氏などが既に行っており、アメリカではさほど珍しいことでもない。だが日本でこれだけ多額の寄付が個人でなされるのはあまり見たことがない。

 「やっぱりな」というのが「損切丸」の感想。そう、「スタグフレーション」という発言に目が行った。それも「必ず」である。

 ユニクロというグローバル企業の経営者であると同時に兆円単位の資産を持つ「大富豪」でもある柳井氏。我々「小市民」には見えない世界が見えているはずである。ここでは「損切丸」でも取り上げてきた「小市民」なりの考察点をいくつか挙げてみよう。

 1.グローバルチェーン再構築のコスト

 最近買ったユニクロのTシャツが「Made in Vietnam」だった。もちろん主力商品はまだ「Made in China」が多いのだろうが、「コロナ危機」をきっかけに生産拠点の分散化が進むのは確実。もともと中国でも既に人件費の高騰などが起きていたので、「脱・中国」が一気に進むきっかけになったと考えられる。経営者としては強く認識せざるをえない。

 2.環境、ソーシャル・ディスタンシングに係るコスト

 日本でもこの7月からレジ袋が有料になる。温暖化など環境対策費は今後企業にも重くのしかかってくるため、「価格転嫁」は避けられない情勢だ。加えて「コロナ危機」による「ソーシャル・ディスタンシング」。今まで100人入った店舗に50人しかはいらない...。これも売上対比の損益を考えれば確実に原価を上げてしまう。ユニクロはオートレジが進んでいて驚いた記憶があるが、他企業に先駆けて対策を進めている分、意識も高いのだろう。

 3.「ヘリコプター・クレジット」「インフレ政策」「過剰債務問題」

 こちらは大企業の経営者としてもそうだが、むしろ「大富豪」としての意識がかなりあるのではないか。「インフレは最も高い税金」はこちらも大富豪のバフェット氏の格言であるが、各国の「過剰債務問題」にFRBによる「ヘリコプター・クレジット」、*日銀、ECBによる「マイナス金利政策」等等をみれば、政府、特に先進各国の政府が「インフレ政策」に転じているのは明らか。有力な個人投資家としてリスクを強く意識するのは当然だ。

 日銀については2020.3.「資金循環統計」が出たのでご興味のある方はご覧になるといいかもしれない。他国にはない驚くべき精緻さである「損切丸」では「日本の収支」「日本の資金繰り」「日本株式会社」などの分析にこれらの数値を「切り貼り」して使わせて頂いている。

部門別金融資産2020.3

家計・金融資産2020.3

 つまり柳井氏にとって「100億円」ぐらいの寄付で「コロナ危機」の克服に貢献できるなら、企業の経営者としても「大富豪」の1人としても「安い」もの、という感覚なのかもしれない。真に必要な物に投資しない政府に業を煮やした、という側面もあるのだろう。

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 「金利市場を予測するときは中央銀行と同じ気持ちになれるか、が鍵」と解説したことがあるが、投資の世界ではまさに「大富豪、有力投資家と同じ気持ちになれるか、が鍵」だろう。資金力のある彼らが市場を動かしているのは間違いない。よく今の株式市場を見て「どうせ大手の投資家が振り回しているから個人では無理」というようなコメントを見るようになったが、少額でも彼らと同じ手法を取れればチャンスがないわけでもない

 ただ考える尺度が違うので、例えば「割高な株」についても+30%程度は大富豪にとっては大した問題ではないのかもしれない。自分の持っている貯金が10万円ではなく100億円だと想像してみればいい。今の状況で全部銀行に預金して置くだろうか?その感覚、考え方を10万分の1にすれば投資手法は近い物になる。一度考え直してみるといいかもしれない。

 とにかく柳井氏あたりから「スタグフレーション」の言葉が確認できたのは小市民の「損切丸」的には少しうれしい。今のところ考え方は「大富豪」とはあまり乖離していないようだ。とはいえ「コロナ危機」が「今まで見たことがない」マーケットであることも事実なので、今後も一方的な思い込みに陥らないよう、株式市場、金利市場など注視していきたい。

主要株価 25 Jun 20

実質金利G8(after CDS)@25 Jun 20


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