見出し画像

米国債売りの "主犯" は日本人? ー 世界中で繋がっている「資金フロー」。

 毎週財務省から発表されている「対外・対内証券投資」だが、ちょっと ”ショッキング” な数値が出た。2/14~2/27の2週間に渡って居住者=日本人が▼3.6兆円も「外債」を売り越している。

対外対内証券投資2.14~2.27

 この大部分が米国債を含むドル建債券と推定され、道理で*ドル金利が上昇するはずだ。「ドル建債券の金利が上がったら日本人の買い」がこの20年間「外債市場の常識」だったが、これがひっくり返った。この "衝撃" は思った以上に大きい。これでは米国債はひとたまりも無い。これだけまとまった金額の売りは個人ではなく間違いなく銀行。3月に入っても売り続けているのではないか。

 ちなみに「対内証券投資」でも「外国人」がJGBを売っている2/21~2/27の一週間で短期債、中期債合わせて▼1.8兆円の売り邦銀のドル債売りほどの "衝撃" はないが、なかなかの金額。10年JGB金利が@0.175%まで上昇した流れに一役買っているのは間違いない。

 市場で高まる「インフレ懸念」に耐えきれず、以前から「キャリートレード」で保有していた比較的利回りの高いドル建債券を3月決算前に銀行が「処分売り」に動いたのだろう。手元の余剰資金が激減している邦銀としては合理的判断だ。①日銀の「当座預金」が490兆円台の高水準を維持し、直近TONAR(無担保コールO/N金利)が@▼0.02台に緩んでいるのはこの影響もあるかもしれない。「円」が日本に戻り始めている

画像2

 「材料もないのに売られる米国債」のコアはこの日本人の売りだろう。FRB理事が何と言おうとこの「リアル」は止められない。高利回りのドル建債券を売ってしまえば邦銀の ”日銭” =「キャリー益」も減ってしまうが、当然 ”事後戦略” が存在する。1つは「コロナ危機」に端を発する国内の旺盛な「借入需要」であり、もう1つは金利が上昇した超長期国債だ。

 2018年以前の「異常な低金利状況」からJGB市場は既に脱却しており、20年@0.50%台、30年@0.70%台まで金利が上昇調達が難しいドルを多大なプレミアムを払ってFX市場から調達し、リスクを負ってまで無理に「外債投資」する必要性は失せている。事実「30年JGB投資」と「10年米国債のヘッジ付外債投資」の「キャリー益」にはほとんど差が無い(標題添付グラフご参照)。やっと ”正常” に戻りつつあるわけだ。

 約700兆円に及ぶ「ヘッジ付外債」のキャッシュフロー(~2018) ↓ 

画像3

 そして2019年以降起きている「リバース・フロー」がこう ↓ 

画像4

 700兆円全部に ”巻き戻し” が入るわけではないが「リバース・フロー」はまだ始まったばかり。今後もある程度の ”衝撃” は避けられない。

 この金利上昇局面で "主要な買い手だった" 邦銀が米国債の売りに回る影響は小さくない。再度買い戻す時はもっと高い収益性、e.g. 30年JGB+0.50%を求めるはず欧州の投資家はもっと「利回り」に厳しい。そう考えると10年米国債で@2.00%はまんざら無い話ではないのである。

 今日(3/4)も日経平均が▼700円近く下げて@29,000円を割り込み、みんな異口同音に「米国債の金利が上昇したから」と書き立てているが、これは何でも人のせいにする日本人の "悪い癖" 。何の事は無い、米国債も株も売りの ”真犯人” はこの日本にいる邦銀、もっと言えば遠因を作った ”黒幕” は日銀であり「異次元緩和」ということになる

 このように「資金フロー」は世界中で繋がっている。特に「流動性大国」日本の「円」は我々日本人が想像する以上に影響力が大きい一見関係なさそうなTONARの上昇が米国債や米国株、そして回り回って日経平均の売りをも誘発する。この「資金フロー」をリンクさせているのが「金利」であり「為替(FX)」である。

 そういう意味ではオーストラリアトルコイタリア金利上昇は「お金」が動いていることの証なのだが、やはり世界全体に影響が大きいのは「ドル」「円」「ユーロ」ということになる。特に圧倒的に「過剰流動性」が大きい「円」はこの20年間「流動性相場」で主導的役割を果たしており、**実は良く見ておかないといけない市場だ。

 **筆者も勤めていた英銀が「こんなデフレで落ちぶれた日本にどうしてこんなにコミットするのか」と不思議だったが、今思えばこの「流動性市場」が重要だったわけだ。毎年サムライ債も千億円単位で発行していたし、財務省の「外貨準備」から桁違いのドルを預かっていたこともあった。

 さてこの「資金フロー」を意識しながら「株」「為替」「金利」等マーケット全般を俯瞰して見てみよう。随分と「風景」が変わるはずだ。あとは「金利」と「株」などの資産市場の綱引きになるが、どこからどこへ「お金」が動くのか、できれば「対外証券投資」のようなデータで確認しながら把握していきたい。くれぐれも荒れる相場で ”迷子” にならないように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?