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「テーパリング先送り」の大合唱? ー ”金融引締" を極度に怖れるウォール街。

 注目の8月米雇用統計が発表された。

 非農業部門雇用者数 +23.5万人 予想+73.3万人 前月+105万3000人 ← 速報値+94.3万人( ↑ 標題過去1年間の推移)
 失業率は@5.2% 予想@5.2% 前月@5.4%

 確かに非農業部門雇用者数(NFP、Non-farm Payrolls)は今年1月以来の低い伸びだが、メディア、エコノミスト等 "識者" 一斉に「予想外の急減」「テーパリング先送りは確実」の大合唱だが筆者には違和感がある

 実際米国債市場では、金利は低下どころかイールドカーブのスティープニング(傾斜化)を伴って上昇している。

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 指標の内容も平均時給を見ると:

 8月平均時給 @+0.6% 予想@+0.3% 前月@+0.4%

  "低賃金労働者の雇用が減ったから” という解説もあるようだが「インフレ」視点からは結構 ”強い” 数字。これはFRBが「インフレ目標」の基準値としているPCE総合価格指数と同様だ(7月:前年比@+4.2%、食品とエネルギーを除いたコア指数@+3.6%)。

 NFP前月のプラス改定+11万人を加味すれば実質+30万人越え。そもそもコロナ危機以降の指標は毎月のブレ幅が凄まじい。平常時なら+20万人は十分強い数字で、時が時なら「利上げ」の理由に十分なり得る

 だが雇用統計発表後は "感染再拡大で雇用が減速したから" 「株売り」「ドル売り」ということになっている。しかし筆者は金利上昇=「利上げへの怖れ」が本丸と理解している。

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 ではなぜ「テーパリング先送り」の大合唱になってしまうのか?

 そこには投資銀行業界の ”事情” が見え隠れする。「株価の高所恐怖症」は、パウエル議長をはじめとするFRBだけではなく業界も同じ。経験上 ”金融引締" が ”最大の天敵” であり、極度に怖れている

 実際は頭取などトップレベル、或いは*資金繰担当者米国債トレーダーなど、FRB←→銀行間で綿密な情報交換が日々行われている。

 筆者も日銀とのやり取りで感じたのは「利上げ」を実行する中銀というのは世間一般とは違う発想で動いていること。「利上げ」で市場がどう反応するかが最大の関心事であり、例えば銀行に確認するのは「資金繰り」が大丈夫か国債市場の状況はどうか、等、極めて "実務的" このやり取りは一種の「機微情報」であり、メディア等 "外" に出ることはない

  "ウォール街の事情" を推し量れば、株価上昇が途切れては「商売上がったり」ファンドや銀行の決算は11、12月に集中しており、ここから3ヶ月が「ボーナス」のための "ラストスパート" 。だからこその「テーパリング先送り」の大合唱であり、最近時価総額が大きくなって無視できなくなったビットコインが再度@50,000.-を超えてきているのが典型だろう。

 前稿でも触れたが "実務" 上は2022年に米国債の発行が▼8,600億ドル(月額▼880億ドル)減額される。そんな中「テーパリング」を検討をするのは、月800億ドルもの米国債買取は ”Too Much” ではないのか、という点。器が小さくなるのに同じ量注ぎ続ければ水は溢れてしまう。

 そう言う視点で考えると、9月FOMCでの「テーパリング」が消滅したかのような "騒ぎ" は ”Too Much” まだ五分五分と筆者は見ている。FRBにはトレーダーの「ボーナス」など関係ない(笑)。彼らは「やるべき事をやる」究極の "実務家" なのである。

 折しも突然の「菅首相辞任」で日経平均が+600円も上昇(先物で+1,000円=@29,600.-@9/3)。日銀が膨大な量を注ぎ込んでも上がらなかった ”水位” がいとも簡単に上がった菅首相が財務省の**「財政健全主義」に "洗脳" されているのは有名な話で、その "呪縛" が解けるのではないかと市場が期待するのは当然だ。もう日銀の "実務" で解決する問題ではない

 **前にも "意見" として書いたが「財政健全化」の目標を「借金」の「名目金額」から「実質価値」に変えたらどうか?学術的に考えても「インフレ」になれば「借金」は目減りする「デフレ」になれば増える)訳だし、有名大学の経済学部卒業生も多い財務官僚なら容易に理解できるはず。実際アメリカはそう言う考え方だし「財政支出」に関する考え方が180度変わるだろう。「昭和脱却」の道筋にもなる。

 さて2021年相場も "ラストスパート" FRBによる「テーパリング」が主要テーマとなる中「中銀的 "実務" の観点」からマーケットを眺めてみるのも一興。そのための「手引き」は折に触れ「損切丸」で提供していこうと思うが、くれぐれも "ウォール街の事情" にはご用心を。もちろん "利用" 出来る方は頑張って下さい(苦笑)。

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