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CPIの「低め誘導」。ー お給料も年金も国債金利も全て「低め」に。

 5月CPI(年率) +2.5% 予想 +2.5% 前月 +2.5%

 「日本は給料は上がってないけど物価も欧米程上がってないから大丈夫」

 実感としてこれに納得いっている日本人はどれ程いるだろう。年率+2.5%ということは1年後に@100円のパンは@102.5円に、200万円の車は@205万円になるだけ。最近発表になった食品類の値上げ幅は軒並み+10%を超えているし、電化製品や車なども筆者の実感とは随分かけ離れている。

 実はここに「品質調整」というマジックが存在する。

 「品質調整」電化製品がモデルチェンジをした際、新旧製品の機能や性能、容量といった品質の違いによる価格差を定量的に算出し、「同じ機能だった場合の価格」に直してCPIに反映させること

 三井住友トラスト・アセットマネージメントが作成した「iPhone価格とCPI携帯電話機の推移」が面白いのでご紹介しておく。 

 日本で圧倒的シェアを誇る iPhone だが、発売当初5万円前後だったものが最近では高級機種は10万円を軽く超えている「スマホ、随分高くなったなぁ」と思っていたら、何とCPIの中では2009年以降▼20%以上下落しているらしい。年率換算で▼2%程。これが「品質調整」だ。

 同じ理由で同期間にテレビやパソコンは▼50%も下落しており、集計対象に「住宅」が入っていないのも腑に落ちないこれで「インフレ」を正しく計れるのだろうか。少なくとも生活実感とは合わないはずだ。

 物価については別の調査もある  :

 4/7「生活意識に関するアンケート調査(2022年3月)」(日銀):
  ”消費者が実感する物価上昇幅” (回答者平均)= 前年同月比+6.6%
 2008年12月(同+10.22%)以来約13年ぶりの高水準

 スマホや電化製品の価格推移とも整合性があり、こちらの方が余程しっくりくる。ちなみにアメリカの「インフレ」は「食品・エネルギー」よりも「サービス」価格の影響が大きく寄与 ↓ 「人件費」の影響がモロに出る*「品質調整」と共に日本との差異が大きくなっている理由だ。

 *アメリカでは「家賃」の影響も大きい「経年劣化」という手法で、例えば賃料が年平均▼1%下落しているとすると、5年後に「家賃」が変わらずならCPI換算では+5%となる。つまり国民生活の ”リアル” に近付ける努力がなされており、当然それに基づく金融・財政政策も ”リアル” になる。

 CPIがただの指標の1つなら良いのだが、問題は様々な財政要素がこのCPIをたたき台にしていること年金支給額も物価上昇率がベースだし、民間のベースアップもCPIが土台どちらも「品質調整」でCPIを「低め誘導」した分「割増支給」してはくれない。つまり「名目年金」「名目賃金」は「低め誘導」されたままで、調整分は国庫金、あるいは企業の剰余金に化ける。これでは消費者の生活は苦しくなる一方だ。

 「来月からCPIの基準年を変えます」
 「物価連動債の利払いは一体どうなるんだ!!」(from London)

 イギリス、アメリカに倣って日本でも物価連動債を始めたのが2004年。当時は「金利上昇に強い国債」として持て囃されたが、その時問題になったのがこのCPIの「低め誘導」。基本物価が上昇した分は元金償還時に上乗せになるのでCPIは命綱なのだが、度重なる改定で入るはずの利息が消滅これで怒ったのが国外投資家含.「損切丸」の元・同僚)。**信用を失った物価連動債はその後暴落し、発行も一時休止に追い込まれた

 **もう一つ大問題だったのがフロア(元本保証)がなかったこと。そもそもマイナスCPIを想定していない米英ではフロア有りが当たり前だったが、2008年以降日本でデフレが深刻化してCPIがマイナスに転じると、元本割れの懸念から大暴落2008~2013年には発行停止に追い込まれた。2013年にフロアを付けることでようやく再発行となったが、一度失われた信用は戻らず少額発行に留まっている。今もアメリカのように金融・財政政策に「インフレ」指標として重用されることはない

 一時が万事、日本では「スティルス増税」「スティルス賃下げ」「スティルス公金減額」があらゆる機会を捉えて行われており、CPIもそのための道具として用いられている感が強い。違法ではないのかもしれないが、それなら堂々と「情報公開」して実行すべき。これを「財政健全化至上主義」と謳っているなら方法が間違っている**払うべきは払い、きちんと経済が拡大する「投資」を行い、そこから堂々と税金を取れば良い

 **監督官庁ばかり向いている銀行、保険等の金融機関も当然「親分」のマネをする「お客様第一主義」は掛け声ばかりで、実際は顧客から手数料や金利をふんだくる事ばかり。我々「小市民」の「投資」の第一歩は、こういう "無駄金" を国や金融機関に払わない事。そうすれば ”種銭” が手元に残り、自ずと「投資」の方向性も見えてくる。

 根本には日本政府の「マーケット敵視政策」があり、10年、20年と積み重なった不信の根は深い。特に国が発表する「経済指標」は市場動向の根幹を成すものであり、今後もアメリカ型の市場経済を続けるなら襟を正すべき。

 やるべきは「情報の透明性」の確保であり、力尽くでマーケットを抑え付けようとする「無制限国債買いオペ」は全く逆の発想だ。今回はマーケットから「円安」という巨額な ”おつり” を返されたが、やはり鍵になるのは「信用」。少し遠回りでも地道に「情報公開」を続けるしかなかろう。

 提案:「品質調整前」のCPIを併記する

 官僚はCPIの ”リアル” は把握しているはず。その「情報」を共有すれば、少しは消費者のモヤモヤが解消するし、企業も「賃上げ」を拒みにくくなる。この話題は「損切丸」でも何度か取り上げてきたが、この国ではCPIも利息もお給料も「低め誘導」されている。一気に変えるのは難しいかもしれないが、少しづつ認知されていけば状況は変わる。この「円安」騒ぎはいいきっかけかもしれない。


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