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そこも自分の一部

10年前に大きな手術をした。腹腔鏡を使って大腸20cmを切除、つなぎ直している。でもこれは消化器系の疾患が原因ではない。子宮内膜に似た組織が大腸の外側に付着して腸が機能不全を起こしていて、むしろ婦人科系疾患と言えるものだった。

この経験で一つ分かったことがある。それは今の医療だと「臓器の外側」を判断する人があまりいないということだ。

痛いのに原因が分からない

症状としては月に1回不調になるので、最初は婦人科系の病気を疑って専門医に診てもらった。でも子宮と卵巣の中を確かめて「きれいです」と言われる。それでもお腹は猛烈に痛い。痛いのに原因が分からないという。

腹部なので消化器系の専門医にも診てもらった。一応、内視鏡を入れて腸を診たけれど「何もないです」と言われる。それでもお腹は猛烈に痛い。

結局、最終的な判断をしてくれたのはかかりつけ医の先生だった。お腹の状態をレントゲンで撮影し、内視鏡でも診て、とりあえず「大腸の外側に何かがある」ということが分かった。

どうしましょうと相談すると、良性・悪性という判断をこれからする道もあるけれど「私なら切っちゃうけどねー」と一言。これが後押しになって大きな病院を紹介してもらって、無事手術ですっきりした。

同じ一人の体内なんだけど

手術を担当した病院は大学病院だけあって、初診外来で概要を話した段階ですぐに「子宮内膜が大腸に付着しているかも」というところまで言い当てた。手術を担当する後の主治医の先生ではなく、外来に出ている若い先生だったけれど、そのあっけなさに「はあ」と息が漏れた。

ここまで来るのにどれだけ否定されてきたか。

婦人科の先生(何人かいる)には「気のせい」とか「そんな症状はあり得ない」と言われた。消化器や内科の先生(何人かいる)には「あなたが出血場所を見誤っているんでは」「別に何もありませんよ」と言われて帰ってきた。

同じ一人の体内で、ある部位で明らかに激痛があるのに「臓器の内側」を診ただけで判断されて「何もない」と言われてしまう。これら“専門医”の先生は臓器内は診るけれど、隣の臓器との関係や腹腔は診なかった。

「いや、痛いんですけれど」と何度言ったことか。その症状を拾って推測してくれたのがかかりつけ医の先生と手術でお世話になった病院だった。

同じ一人の行動だけど

この感覚を思い出したのは、体の不調とは全然違う文脈でだった。ネット上での人の捉え方は、個々の臓器を診ているのと似ていると思ったからだ。

例えばAさんという人のイメージは、自分にとっては「ライター」だとする。でもAさんが参加している犬好きサークルでは、ライターという職業は知られていない「チワワを溺愛するAさん」として存在しているかもしれない。

親戚の間では「面倒見がいいAちゃん」かもしれない。実は別の職業を持っていて「経理課のAさん」しか知らない界隈もあるかもしれない。

同じAさんの体による行動であって、Aさんという総合的な人格があるものの、たぶん私はAさんを「ライター」の活動でしか見ない。ライターとしての発信が少ないと、まるでその他の活動をしていない人のように思う。

ライター仕事の活躍を見れば「調子良さそうだな」と思うし、ライターとしての発信が途絶えていると「どうしたのかな」と思う。実は経理の仕事が忙しいとか、犬サークルの活動に力を入れているとか、そこまで想像することはない。

いわば専門医が臓器の中身だけ見て「はい、これね」と判断を下すのと似ている。

いろんな部位を持つ自分をどうするか

自分も同じように、大腸の中身と子宮の中身だけで生きているわけではなく、間には腹膜もあるし筋肉も他の臓器もついている。1つの領域だけでなくいろんな面を持ち合わせている。領域間の空洞も含んで私の体だ。

今のところライターという肩書きが通りが良いけれど、それ以外の場所で動いている時間もある。仕事だったり仕事ではなかったりする。腹腔のようにぽっかり空いている部分もある。

ネット上だとこれを1つに統合している人が強い。どこから検索してもこの人と1分野の結びつきがヒットして、本人もその1分野に全精力を注いでいる。

体で例えたら何だろう。腹筋が6つに割れていることが売りで、どこを検索しても腹筋に関することでその人が出てくるし、その人の発信内容のどこを切っても腹筋の話題につながっている感じ、だろうか。

ビジネスの戦略的には合っている。でもなかなかそこまで踏み切れない。

大腸の外側を発見してくれた人がとても少なかったように、いろんな部位を持って機能している自分を知る人も少ない。だからといって分けたり1つだけを抽出したりするのは私には難しい。

時折悩む波が来るけれど、もうこれで仕方ない。


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