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平塚市美術館『物語る 遠藤彰子展』『The Gift』を見に行く

久々に美術館へ行った。コロナ禍になって何となく「まだかな」と思っていたけれど、ワクチンを2回接種して区切りがついたので比較的近所にある平塚市美術館へ行ってきた。

開催されていたのは『物語る 遠藤彰子展』と、収蔵品展の『The Gift』。どちらもボリュームたっぷりで見応えがあった。

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平面から俯瞰、そして渦への変化

遠藤彰子さんについては今回初めて知った。1947年生まれ、50年以上前に相模原市へ移住。当時は「自然が豊かな場所」だったので創作のインスピレーションを受けたという。自分も相模原に住んでいたので、まだまだ開発が始まってない頃の相模っ原に思いを馳せる。

館内では、カメラOKマークがついている作品は撮影できる。

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1970年代の≪楽園≫シリーズ、70年代後半の≪街≫シリーズで画家としての地位を確立、その後は500号(3.3m×2.2m)の大作を制作。さらに500号を結合させた1000号、2000号の作品を何点も描き上げている。

とにかく描き込みが細かく、1枚の情報量が膨大な作品が多い。

たまたま先日読んだ佐渡島庸平さんの『観察力の鍛え方』という本の中にあったアートの見方を実践したのだけれど、1枚から受け取るものがありすぎていつまでも絵の前から動けない。でもそれが楽しい。時間が許すなら納得するまで眺めていたい。

初期の≪楽園≫シリーズから最新作まで共通するのは、1枚の中に人や動物がたくさん登場すること。大人が子どもを抱きかかえているモチーフはいろんな場所に現れる。あと、画面の隅っこや小さな場所で悩むように膝を抱えている人も幾人も見かけた。

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時系列で見て分かる大きな変化は、平面→俯瞰→渦と、どんどん構図や動きがダイナミックになっていくこと。描かれる対象も人から街、景色、自然、おそらく宇宙・森羅万象まで至っている。

作品の前に立つと、身長以上のサイズの曲線にギュイーンと視点が導かれてちょっとしたアトラクションのようだった。後半の500号以上の作品が並ぶ部屋は圧巻。

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全てを見終わってからまたこの部屋に戻り、真ん中に立って少し離れて見ると、さっき見えなかった大構図に気づいたりする。その作品が視界いっぱいになる距離まで近づくと、さらに渦に没入していく感じ。

途中、遠藤さん自身が描いた「今回の個展裏話」のマンガがあってほっこりする。いくつかのコマには小さいサイズながらも「ギュイーン」と引き寄せられる曲線が描かれていて、この構図がこの作家さんの味なんだなあと改めて認識する。2年前から準備されていた個展なのか。コロナ禍だと本当に大変。

そして作品それぞれの吸引力はもとより、一人の人からこのサイズの大作がいくつも生み出されていることにも驚く。何というパワー、何という根気。

ちなみに私が一番好きなのは、大作シリーズの始まりとなった《みつめる空》。見上げる空と見下ろす空があり、力強く引きつける曲線を辿ると不思議な感覚になる。遠近法で大小さまざまな人が絵の中に配置されていて、この人たちがなぜここにいるのかを考えるだけでも尽きない。

バラエティ豊かな収蔵品に出合える『The Gift』

今回の展覧会のもう一つの柱『The Gift』。1991年から30周年の開館記念展覧会だけあって、この施設の歴史も踏まえて作品が紹介されている。

印象に残っているのは、鳥海青児《石だたみ(印度ベナレス)》。「この人のこの絵がある美術館なら」と、平塚市美術館の作品収集の大きな後押しになったという。

もう一つは川村清雄《巌》。他と比べるとシンプルな小品ながら、油彩絵の具の盛り上がりと質感に惹かれる。つい、じっと見てしまう。シンプルだから探りたくなるのか。

そして新収蔵品のコーナーにあった野見山暁治《いっぺんにやってくる》。やっぱりこれもスピード感のある曲線が主役だ。タイトルの通り、見た瞬間に「なんか来る…!」と緊張感に包まれる。でも「なんか」以外の情報はない。描かれているものをどう見るかは見た人に委ねられる。

作品とは関係ないところで「そうか」と思ったのは、パネルの中で見かけた「この作家について1600件以上の寄贈を受けた」という記述。ということはこの作家さんは1600以上の作品を描いて世に残している。習作や失敗作、寄贈していないものも含めたらそれ以上だ。当たり前なのだけれど、クリエイターが扱う「量」とは本当に途轍もないのだなと思った(遠藤彰子さん作品の大きさも同じく)。

平塚市美術館はレストランも楽しみ

ここにはレストラン「ラ・パレット」が併設されていて、美術館前の広場やオブジェを見ながら食事ができる。美術館の帰りに寄るレストランはいつも特別な感じがして、できるだけスケジュールに入れる。

今日は「3種木の子と厚切りベーコンのペペロンチーノ」のランチセットを頼む。14時前の半端な時間だったせいか、自分以外にもう1組がいるだけだった。

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久しぶりに美術館を堪能した。いやー、行ってよかった。


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