第118話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑦「How the heart approaches what it yarns 後篇」
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2019年9月19日
スナックふかよみ
1番だけでこんなに濃厚って…
どんだけ?
ホントよね。まだ曲の四分の一なのに…
しかもアルバム全10曲の4曲目…
そしてポール・サイモンが1980年代に発表したアルバム全3枚の、まだ1枚目です…
こんなこと…
いつまでも長くは続かない…
え? どういう意味?
いい加減…
明日のこと考えた方がいい…
そういうことよね?
イエス。
確かにそうかもしれません…
皆さん、昼間は働いてらっしゃるんですよね?
ちょっとちがう。
は?
一句思いつきました。
わたくしは、昼間も夜も、光ってる…
何それ?
・・・・・
さあさあ。それくらいにして頂戴(笑)
始めましょ、深読みを。
あ、はい…
それでは続きを見ていきましょう。
この歌は変則的な構造で、1番の後に2種類のサビというかCメロがあって、最後に2番が歌われる…
Paul Simon『How the heart approaches what is yarns』
歌詞はこちら。
さあ、次の「なぞなぞ」は何かしら!?
かかってきんしゃい!
サビCメロ1は、こんな「なぞなぞ」だよ。
まずは前半部から…
After the rain on the Interstate
Headlights slide past the moon
雨上がりの州間高速道路
ヘッドライトが月をすり抜ける
何というか…
ありがちな世界観よね。
尾崎?
バカ。清志郎でしょ。
なぜ「Interstate」なんだろう…
え?
ふつうは「Highway」じゃないですか?
歌詞の中で車を飛ばすのは「ハイウェイ」と相場が決まっています。
『インターステイト・スター』とか『地獄のインターステイト』とは言いませんよね?
確かにそうだけど…
気にし過ぎじゃない?
「州間高速道路」の方が「州を越えて遠くまで行く」って感じがするし。
だけど、これだけじゃ何のことなのかサッパリだわ。
続きの歌詞をプリーズ!
OK。サビCメロ1の後半は、こう歌われる。
A bone-weary traveler
Waits by the side of the road
Where's he going?
疲れ果てた旅人が道路脇で待つ
彼はどこへ行くのか?
これだけ?
そう。これでおしまい。
雨の後の州間高速道路でヘッドライトが月をすり抜けて…
疲れ果てた旅人が道路脇で待ってるのを見かけて…
「どこに行くのか?」って思って終わり?
そうだよ。
この「なぞなぞ」の答え、わかるかな?
その後が大事じゃん!
結局「僕」は「疲れ果てた旅人」を乗せたの? それとも乗せなかったの?
結論から言うと、乗せなかった。
というか「僕」の方が「旅人」に乗ったと言える。
は?
車に乗っていた「僕」が、徒歩の「旅人」に乗った?
ちょっと待ってくれ…
「僕」は車になんか乗っていない。
歌詞のどこにそんなことが書いてある?
だって「州間高速道路」が舞台でしょ!
「ヘッドライト」も出て来たし!
月夜の晩にドライブしててヒッチハイクの旅人を見かけた話じゃないんですか?
ちょっとちがうんだな…
そもそも夜間に州間高速道路を走ってて、道路脇で旅人を見つけることなんて皆無に近い。
危ないですよね、色んな意味で…
最初から「僕」は徒歩で「インターステイト」を歩いていた…
そして「ロード」の脇で「僕」を待っていた「疲れ果てた旅人」を見て…
「どこへ行かれるのですか?」と口にしたんだ…
なんでそんなことまでわかるのよ!
いつものことだけど、あんたのその「見てきたような口ぶり」って超ムカつく!
だって「見た」んだから仕方ない…
いったいどういうことなの、岡江クン?
それじゃあ、みんなにも見てもらおうか…
これが『How the heart approaches what is yarns』サビCメロ1の答え…
ポール・サイモンが「伝えたかった」光景だ…
『QUO VADIS(どこへ行かれるのですか)』!
十字架刑が怖くてローマから逃走した使徒ペトロが、街道で主イエスと遭遇して口にした言葉…
それに対してイエスは「ローマへ。あなたの代わりに私が二度目の十字架に掛けられよう」と答え…
その言葉を聴いたペトロは改心し、ローマへ引き返して「逆さ十字の刑」で殉教する…
てことは…
歌詞の「waits by the side of the road」の「road」は、いつものお約束…
「Lord」の駄洒落…
つまり「僕」がつぶやいたのは「Where's he going?」じゃなくて…
実は大文字の「Where's He going?」だったというわけ。
「主よ、どこへ行かれるのですか?」だから。
それじゃあ「Interstate」は…
使徒ペトロが逃走に使った「アッピア街道」のこと。
「アッピア街道」とは、首都ローマと、半島南東部の港町ブルンディシウムを結ぶ街道だ。
広大なローマ帝国は、いくつもの州にわかれていて、州間を無数の街道がつないでいた。
まさに「Interstate System(州間道路網)」よね…
なんてこった…
帝国は一日にして成らず…
塩野七生『ローマ人の物語』第10巻より。
歌詞は「After the rain on the Interstate」で始まるから…
使徒ペトロが逃走したのは、雨が降った後だったの?
そう。
はじまりは、いつも雨…
もう!ふざけないでよ!
わたしは、ふざけてません。
全裸でお尻丸出しの人が何言ってるのよ!
わたしが好きでこんな格好をしているとでも?
深代ママがチチをこぼさなければ…
あ、そうだった… ゴメン。
「After the rain」は二通り考えられる。
まずひとつは、同じ「レイン」と発音する「reign(君臨)」の駄洒落。
使徒ペトロは、皇帝ネロがキリスト教徒の処刑を宣言したので、ローマから逃亡した。
なるほど。もうひとつは?
イエス・キリストの降臨を意味する「rain(雨)」のこと。
天から地上に降る雨は、救世主の降臨に喩えられる。
あ、そうだったわね…
ゴスペルソングの「雨」は「天のめぐみ・主の降臨」のことだった…
それじゃあ次のフレーズは?
The headlights slide past the moon
ヘッドライトが月をすり抜ける
これはどういう意味なのよ?
「moon」という言葉には「月」以外の意味がある…
「月」以外に? 何それ?
「お尻」です。
しかも「人前で露出した、むき出しの」お尻…
は? おケツ?
つまり、先程の映画『QUO VADIS』のシーンのことですよ…
使徒ペトロは、木が真っ二つに裂けた割れ目(the moon)から、すり抜けてくる(slide past)、主の光(the headlights)を見ました…
だから「The headlights slide past the moon」…
げえっ!
マジですか…
99.9%、間違いないだろう。
嘘でしょ…
だけど、そう言われてみれば、そんな気もしてきた…
うふふ。それじゃあ「サビCメロ2」に行きましょ。
間奏のあと、こんなふうに始まるわ。
I dream we are lying on the top of a hill
And headlights slide past the moon
僕は夢を見る
僕らが丘の上で寝そべっていて
ヘッドライトが月をすり抜ける夢
何よコレ!
1番とサビCメロ1を足して2で割っただけでしょ!
後半は違うよ。
I rolled in your arms
And your voice is the heat of the night
I'm on fire
僕は君の腕の中へ
君の声は夜の熱…
僕に火が付いた
ん?「君の声」が「夜の熱」って、どういう意味ですか?
いわゆるひとつの、あったかい夜をプリーズ、です。
え?
あなたはまだネンネちゃんなのね。
ゾクゾクしちゃうようなセリフってことよ。
もう死んじゃいそうになるくらいに。「I'm on fire」っていうのは、そういうことよ…
わかるかなあ?
あっ、そういう意味ですか…
そういえば昔、『In the Heat of the Night』っていう映画があったわよね。
シドニー・ポワチエとロッド・スタイガーが出てて、レイ・チャールズが主題歌を歌ってるの。
邦題は『夜の大走査線』だったわ。
あったあった。
だけどなんで『In the Heat of the Night』が『夜の大走査線』なんだろ?
「heat」という単語には「熱」という意味の他にも…
「警察・捜査・逮捕」などの意味があるんですよ…
だから『夜の大走査線』なのです…
和風に言ったら「捕物」ってこと?
ん?
僕は夢を見ている…
僕らは丘の上で寝そべっている…
ヘッドライトが月のそばをすり抜ける…
どうしたの?
わかっちゃったかも…
え?
ポール・サイモンが「伝えたかったもの」は…
おそらく…
毎度お馴染みの、この絵のことでは…
『ゲツセマネの祈り』ジョルジョ・ヴァザーリ
ま、マジで!?
それから「僕」は「君の腕の中」で、吐息のような「熱い囁き」を聴いた…
それは「the Heat of the Night」の中の出来事…
つまり「夜の大走査線」、イエスの逮捕劇…
『ユダの接吻』フラ・アンジェリコ
ああ…
その通りだ。
サビCメロ2の「なぞなぞ」の答えは「オリーブ山のゲッセマネの園」…
よくわかったわね。えらいわ。
あ、ありがとうございます…
んもう!くやしーーーい!
最後の「なぞなぞ」は、アタシが絶対に解いてみせるわ!
ではラストのパート、4つ目の「なぞなぞ」…
ポール・サイモンが「伝えたかったもの」は、いったい何かな?
In a phone booth
In some local bar and grill
電話ボックスの中?
とある場所のバー&グリル?
んもう!アタシが解くんだから!
あ、ごめん…
歌詞に出てくる「bar」といえば「十字架」の暗喩ですが…
複数形もしくは「close」などを伴わなければなりません…
だから違うのかも…
黙りんしゃい、このバカチンがァ!
そんなことくらいアタシにもわかってるわ!
じゃあ「電話ボックスの中、とある場所にあるバー&グリル」って何ですか?
そ、それは… アレよ… ほら…
アメリカにあるそういう店って、音楽やら話し声でうるさいから、店内に電話ボックスがあるじゃない?
最近はもう無いかもしれないけど、昔の映画とかだと、よく電話ボックスから電話をかけてた…
ああ、確かにそんなシーン見たことあるかも。
だけど、なぜ「バー&グリル」なんでしょう?
ふつうに「バー」でよくありません?
ガッツリ食べたかったのよ、ポール・サイモンは!
すっごいお腹が空いてたの!
うふふ。鍵は「グリル」よね。
え?
後半の歌詞を見てみよう。
Rehearsing what i'll say, my coin returns
How the heart approaches what it yearns
同じことを復唱しては受話器を置く
そのたびに僕のコインは戻ってくる
この想いをどう伝えたらいいのだろう
これだけ?
そう。これだけ。
だけどもう十分でしょ?
どこが十分なのよ!
これっぽっちの情報でわかるわけないでしょ!
いったいポール・サイモンは何のことを言ってるの?
とあるバー&グリルの電話ボックスの中で同じセリフを復唱してコインを入れたり出したりしてるだけじゃわからないわ!
余計な、ものなど、無いよね…
は?
何度も言うよ… 残さず言うよ…
それならサッサと言いなさいよ!
なんか、この二人が会話してると黄色だらけで…
黄身があふれてる…
んもう!わけわかめ!
「なぞなぞ」に集中できないでしょ!
迷わずに… 迷わずに...
『SAY YES』か!
その通り。
そしてわたしは松坂桃李。
ふ、ふざけないで…
今からアンタを殴りに行こうか?
やー、やー、やー、やーめてー!
アンタまで被せないで頂戴!
何なのよコレ!?
うふふ。よくできました。
え?
もう「答え」は出てますよ。
ど、ど、どゆこと?
いっけん無駄話のようだった、これまでの一連のやり取りが…
ケツヤさんを「答え」まで連れて来てくれました…
あの意味不明なやり取りが、アタシを「答え」まで連れて来た?
最後の「なぞなぞ」の答えは、これです…
これは…
今はなきエルサレム神殿?
あっ!
バー&グリルって、もしや…
そう…
ポール・サイモンが「とある場所のバー&グリル」と呼んだのは…
羊や牛などの生贄を焼く「燔祭台」のこと…
燔祭台には、持ち運び用の「バー」が付いていますからね…
なんてことなの…
じゃあ「電話ボックス」は?
この「燔祭台」自体が「a phone booth In some local bar and grill」なんだよ…
ここで生贄を燃やし、その煙を天高く昇らせることで、神ヤハウェと「交信」するんだ…
その煙が好ましいものだと、神は上機嫌になり、人間にめぐみを与える…
だけど煙が好ましくないものだと、神は怒り、人間に罰を与える…
「煙」で「電話」しているみたいなものだね…
ポール・サイモンって、想像力豊か過ぎる…
「Rehearsing what I'll say, my coin returns」は?
言おうとすることをリハーサルして、入れたコインが戻ってくるというのは、何のことを言っているのでしょう…
「コイン」といえば、これでしょ?
これもエルサレム神殿での出来事だから。
『カエサルのものはカエサルに』
ピーテル・パウル・ルーベンス
あ…
皇帝の物は皇帝に。神の物は神に返しなさい…
Rehearsing what I'll say,
my coin returns
「what I'll say」は「まさにその通り」という意味。
つまり「まさにその通りのことをリハーサル/復唱した」ということね。
そして「僕のコインが返ってくる」という…
なぜならイエスは「皇帝の物は皇帝に。神のものは神に返しなさい」と言ったから。
なんてこった…
余談だけど…
この歌を元ネタにして自主制作映画を撮り、ハリウッドにスカウトされたのがコーエン兄弟だ。
彼らのデビュー作『BLOOD SIMPLE(ブラッド・シンプル)』は、ポール・サイモンの『How the heart approaches what is yarns』にインスパイアされて作られている…
『BLOOD SIMPLE』以外の映画でも、ポール・サイモンの曲を元ネタに使ってますね…
相当好きなんだと思います、コーエン兄弟はポール・サイモンのことが…
ですね。
以上、ポール・サイモンの「なぞなぞソング」の深読み、楽しんで頂けたかな?
楽しいとか、そういう次元じゃないレベルよ。
もう、驚きの連続…
今でもまだ信じられない…
ヒロくん、ありがとう。
助け船を出してくれて…
いえいえ。
ところで、良ちゃんママは、どこ行っちゃったのかしら?
外の配電盤を見に行ったまま、もう何時間も帰ってきてないわよね…
あ、すっかり忘れてた…
ヒロくん、良ちゃんのこと、何か知らない?
ここに戻ってくる前に外で見かけなかった?
さあ。知りません。
あの…
ひとつ聞いてもいいでしょうか?
何でしょう?
ずっと気になっていたのですが…
なぜ全身金色なのですか?
・・・・・
金色であることに、いったい何の意味が?
わたしの体が全身金色であることに…
理由など必要でしょうか?
でも…
その目は…
わたしのことを疑ってますね。
いえ、そういうわけでは決して…
どんなに君の瞳がわたしを疑っても…
「ヒロくんはその瞳で嘘をつく!」
え?
良ちゃんママ!
お待たせ、みんな。
つづく
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