深読み探偵おかえもん引退作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』第9話「ストリックランド先生」
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カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)
ずいぶんと長くなったが、これで時計台広場のシーンに、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』と、ルー・クリスティの歌『LIGHTNIN' STRIKES』が、落とし込まれていることがわかっただろう。
次はその前のシーン「ヒル・バレー高校(廊下&体育館)」を解説しよう。
マーティはドクの時計のせいで学校に遅刻した。
すると学校の玄関に恋人のジェニファーが現れ、マーティを他の入口へ連れて行く。
Marty : Yo, Jennifer.
Jennifer : Marty, don't go this way. Strickland's looking for you. If you get caught, it'll be four tardies in a row.
マーティ「よう、ジェニファー」
ジェニファー「ここからは入れない。ストリックランド先生があなたのことを探しているの。もし捕まったら、違反4つになっちゃう」
この場面はヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『The Power of Love』がフェードアウトしながら始まる。
最後に流れる「Can you feel it ?」を合図に始まるのだ。
Can you feel it ?
そんなことにも意味が?
当たり前だろう。
ビートルズの歌『DIG IT』の「Can you dig it」 や、米津玄師『Moonlight』の「イメージしよう」と同じこと。
ヒル・バレー高校のシーンから「何かを感じることが出来るかな?」という制作者の問い掛け、挑戦だ。
「ここからは入れない」「ストリックランド先生が探している」「違反4つになっちゃう」から何かを感じ取る?
この場面ではジェニファーがマーティを主導する。
ジェニファーが先導して行動し、マーティはジェニファーに言われるがまま、従うだけ。
だけど結局はストリックランド先生に見つかった。
ジェニファーは「大丈夫よ」と言ったのに。
マーティはジェニファーの言うことを信じたから罰を受けることになる。
ここでの会話も実に興味深いものだった。
J : OK, come on. I think we're safe.
M : You know, this time wasn't my fault. The doc set all his clocks 25 minutes slow.
Strickland : The doc? Am I to understand you're still hanging around with Dr. Emmett Brown, McFly?
ジ「大丈夫よ。安全だと思う」
マ「わかってると思うけど、今回は俺のせいじゃない。ドクが時計を25分遅らせていた」
ストリックランド「ドクだと?お前はまだエメット・ブラウン博士とつるんでいるのか、マクフライ?」
どこが興味深いんだ?
特に変わったところのない普通の会話じゃないか。
そうかな?
ジェニファーが「大丈夫、安全だと思う」って最高すぎるだろ。
は?
鈍感な奴め。「あの日」のことだ。
あの日? ジェニファーが安全日だってこと?
お前は何を言っているのだ。
「あの日」と言えば「あの日」に決まってるだろ。
意味が分からない…
しかも登場人物の名前もウケる。
ストリックランド先生、エメット・ブラウン博士、マクフライ、そしてジェニファーの苗字はパーカー(笑)
S : Tardy slip for you, Miss Parker.
J : ……
S : And one for you, McFly. I believe that makes four in a row.
M : ……
ス「違反の切符だ、ミス・パーカー」
ジ「・・・・・」
ス「君にもだ、マクフライ。これで4つ目だな」
マ「・・・・・」
名前のどこが面白いんだ?
しかも「これで違反が4つになった」と強調される。
元ネタでは「3つ」だからな(笑)
元ネタ?
さらに会話はこう続く。超ウケる(笑)
S : Let me give you a nickel's worth of free advice, young man. This so-called Dr. Brown is dangerous. He is a real nutcase. Hang around with him, you'll end up in big trouble.
M : Oh, yes, sir.
S : You got a real attitude problem, McFly. You're a slacker. You remind me of your father when he went here. He was a slacker too.
ス「私にアドバイスをさせてくれないか。このブラウン博士とかいう男は危険人物だ。奴は本当にイカレてる。あんな奴とつるんでいると、最後は大変なことに巻き込まれるのがオチだ」
マ「かしこまりました、閣下」
ス「お前の態度は本当に目に余るものがあるぞ、マクフライ。お前は落伍者だ。お前を見ていると、お前の親父がここにいた頃のことを思い出す。あいつも落伍者だった」
どこがウケるんだ? ただの説教だろ?
そして会話はこう締めくくられる。
ストリックランド先生が尖った鼻をマーティに突き付けながら。
M : Can I go now, Mr. Strickland?
S : I notice your band is on the roster for the dance auditions after school today. Why even bother, McFly? You don't have a chance. You're too much like your old man. No McFly ever amounted to anything in the history of Hill Valley.
M : Yeah, well, history's can change.
マ「もう行ってもいいですか、ストリックランド先生?」
ス「放課後に行われるオーディションの登録名簿にお前の名前があった。なぜわざわざそんなことをするのだ、マクフライ?お前にはチャンスなどない。お前は親父と何から何までそっくりなのだから。ヒル・バレーの歴史の中でマクフライは何かを成し遂げたことはない」
マ「ああ、そうですね。だけど歴史は変えられるんですよ」
ストリックランド先生は本当に気持ち悪いな。
あんなに鼻を近づける必要があるか?
元ネタでも「尖ったもの」を突き付けているからな。
また元ネタ?
元ネタでは、ある場所で出入りする者を見張っている怖い人物が、落ちこぼれカップルの男の方へ「尖ったもの」を突き付けている。
さすがにその「尖ったもの」をストリックランド先生に持たせることは出来ないから「尖った鼻」で代用したというわけだ。
日本が舞台だったら先生に竹刀でも持たせりゃいいが、アメリカで先生が竹刀を持ってたら大問題。
つまり、この一連のシーンには元ネタになったものがあり、それを再現しているということなのか?
そうだ。時計台広場のシーンもそうだったろ?
フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』が再現されていた。
あっ… ということは…
さっきのジェニファーが「大丈夫、安全だと思う」と言った「あの日」って…
この日だな(笑)
確かに禁断の果実を食べる場面は、イヴがアダムを主導していた…
アダムはイヴが「食べても大丈夫、安全だから」と言ったので、言われるがままに行動した…
ジェニファーの苗字「Parker」は「園丁・園の管理人」という意味。
アダムとイヴは神がエデンの園を管理させるために作った。
だから「これで違反が4つになってしまう」と強調されていたのか…
フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』では、アダムとイヴの足元にリンゴが「3つ」落ちている…
そういうこと。
ちなみに林檎を齧ったアダムは痛そうな表情で頬を押さえている。
あのアダムの姿から「リンゴをかじると歯ぐきから血が出ませんか?」という有名なCMが生まれた。
懐かしいCMだな。
子供の頃、このコピーが流行っていた。
ちなみに、お前の知らない宮崎駿の最新作では、懐かしいCMが重要な意味を持つ。
懐かしいCMが? 何のCM?
これさ。
いまのキミはピカピカに光って?
このCMが映画の中で重要な意味を持っているというのか?
そうさ。ミノルタの迷宮で役に立つのはX7。
どういう意味だ?
ふふふ。いつか現実世界へ帰ることが出来たら、映画を観てみるといい。
この俺様も出ている。
お前は宮崎駿最新作の登場キャラクターだったのか。
わかった。もし映画を観たら、どこに映ってるか探してみるよ。
どこに映ってるか探すだと?
馬鹿め。俺様は主役だ。
お前が主役? お前みたいな変な鳥が?
カヘッ、カヘッ、カヘッ。見てのお楽しみさ(笑)
さて、話をヒル・バレー高校へ戻そう。
ここまで紹介したシーンは、すべてフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』の失楽園の部分が元ネタになっている。
ストリックランド先生が突き付けた「尖ったもの」の正体もわかったぞ。
『受胎告知』夜明け前バージョン、エデンの園の門番天使がアダムに突き付けている「剣」のことだな。
その通り。
だ、か、 ら、名前が Strickland なのだな。
だからって、どういう意味だ?
ストリックランド先生のルーツは、イングランド北西部に領地をもっていた貴族ストリックランド氏だ。
かつてストリックランド氏の荘園があったところは現在、大ストリックランド村(Great Strickland)と小ストリックランド村(Little Strickland)という村になっている。
へえ。ストリックランド先生の先祖は英国貴族だったのか。
だけど、それと何の関係があるんだ?
貴族ストリックランド氏の領地がある地域は、district(行政区)名を Eden(エデン)という。
日本でいうと「○○県エデン地方」とか「エデン郡」みたいな感じだな。
エデン・リバーが流れるエデン・バレーに美しい町や牧草地が点在する風光明媚な場所らしい。
エ、エデン!?
エデンの園が描かれているフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』を再現するために選ばれた苗字だな、ストリックランドは(笑)
なんてこった…
それじゃあ、マクフライとエメット・ブラウン博士は?
「McFly」の「Mc」は「息子」だが、別の「MC」の意味も隠されている。
わかるかな?
別のMC?
もしかして、MCハマーやMC小宮のMC?
その通り。
「MC」とは Master of Ceremonies(マスター・オブ・セレモニーズ)の略、つまり「セレモニーを司る者」だ。
そして「Fly」は「羽の生えたもの」という意味。
セレモニーを司る、羽の生えたもの…
あっ!受胎告知を司る天使ガブリエルだ!
だから「未来を知る」天才発明家ドクの名前はエメット・ブラウンという。
わかるかな?
未来を知る天才発明家ドクは、乙女が救世主インマヌエルを身籠るという預言をしたイザヤ…
そうか、わかったぞ!
Emmet(エメット)は Emmanuel(エマニュエル)の愛称だ!
そして救世主インマヌエルは伝統的に「茶色い肌」で描かれる。
だからエメット・ブラウン。
インマヌエルは茶色いからエメット・ブラウン…
そのまんま…
わかりやすくていいじゃないか。
誰も気付かなかったのが不思議なくらいだ。
フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』が元ネタだとわかると、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のいろんなことが腑に落ちる…
まだまだ驚くのは早いぞ。
次は体育館で行われたオーディションの場面だ。
つづく
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