第114話「ポール・サイモンの ONE TRICK PONY ③ That's why God made the movies 前篇」
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2019年9月19日
スナックふかよみ
ポール・サイモンのアルバム『ONE TRICK PONY』の2曲目は…
『That's why God made the movies』…
その名もズバリ「だから神は映画を創った」…
はい?
直球ド真ん中。
1曲目の苦労は何だったんでしょう…
あっけなくネタバレしてるじゃないですか…
まあ、とにかく聴いてもらおう。
Paul Simon『That's why God made the movies』
歌詞は、こんな感じ。
僕が生まれた時、ママは死んだ。
いきなり凄い出だしね。
その始まり方、どっかで聞いたことあるような気がするんだけど…
カミュの『異邦人』じゃないですか?
「きょう、ママンが死んだ」という一文で始まります…
あっ、そうそう。
『ライフ・オブ・パイ』でパイが読んでたやつじゃん。
次のフレーズも切ないです…
彼女は言った。「バイバイ、坊や。バイバイ」
僕は言った。「どこに行っちゃうの?僕は生まれたばかりなのに」
これって、もしかしてポール・サイモンの実話ですか?
ポール・サイモンは、生まれてすぐに母親を亡くしているとか…
いや。ポール・サイモンのお母さんは97歳まで生きた。
子供を産んですぐどころか曾孫まで抱いてる年齢ですね…
それじゃあ映画『ONE TRICK PONY』の主人公ジョナの設定なのかな…
そういうわけでもない。
謎すぎる…
えーと、続きはこうね…
彼女は言った。「ちょっとの間よ。すぐ戻るから」
それが彼女のいつものやり方
そういうわけで、神は映画を創ったのさ
ん? ママが居なくなったから神は映画を創った?
わけわかめ。
なんだか変ですね。
これ、本当にお母さんのことなのでしょうか?
2番は、こんなふうに始まる。
さて、僕は細長い布に巻かれて横たわっていた
医者が来て、灯りを消すまで
医者が出てくるってことは、「僕」は病院にいたのね。
そして、こんなふうな状態で寝かされてた。
そして、こう続く…
それから僕は
荷物をまとめ、名札を外して
夜の闇の中に姿をくらました
「きっとうまくいく」と願いながら
なんですか?この展開…
生まれたての赤ん坊が、自力で病院を脱走したんですか?
布でグルグル巻きにされてたのに?
しかもまるで計画していたみたいな言い方…
完璧に確信犯じゃないですか!
これは、いわゆる計画犯罪ってやつよ…
え?
あの「灯りを消した医者」がアヤシイわ…
たぶん、グル。
マジですか…
医者が脱走の手助けを?
間違いないわ…
アタシの勘は当たるの。
何の話をしてるのよ!そんなわけないでしょ!
うふふ。
見事に踊らされているわね。ポール・サイモンに(笑)
何ですって?
そして「だから神は映画を創ったのさ」と締めくくられる…
だから? 意味不明すぎます…
ポール・サイモンは何を考えているんだろう…
それはCメロでわかる。
ねえ、言ってよ、ねえ
僕をその胸に抱きしめてくれるって
優しく僕に乳をふくませてくれるって
女性がよくやるやり方でさ
この「赤ん坊」、やっぱ変だわ。
見た目は「赤ん坊」でも、中身は「赤ん坊」ではない…
エロカワ・コナン的な感じ?
江戸川です。
さらに、こう続く…
ねえ、言ってよ、ねえ
他の男のところになんか行かないって
僕のことを愛してくれるって
ありのままの僕を
愛してくれるって言ってよ、ねえ
他の男のところへ行かないで?
ありのままの僕を愛して?
なんか、痛いくらいに必死ね…
マザコン男と気まぐれ女の話でしょうか?
そして、オチとなる3番…
ポール・サイモンがこの歌に込めた「サイン」を読み取ることが出来るかな?
僕が生まれた時、ママは死んだ。
彼女は言った。「バイバイ、坊や。バイバイ」
僕は言った。「どこに行っちゃうの?僕は生まれたばかりなのに」
1番と同じ出だしじゃん。『Late in the Evening』と同じパターン。
ここから急展開を迎える。
あの日から
僕はひとりで生きてきた
かの有名な、野性の少年
狼に拾われ、育てられた
は? 狼に?
そういうわけで神は
そういうわけで神は
そういうわけで神は映画を創った
これでおしまい。
どう? ポール・サイモンの魂のメッセージ、わかった?
「そういうわけで」って言われても、何が「そういうわけ」なのかサッパリわかんない…
母親に捨てられる赤ん坊の歌…
しかも母親と赤ん坊は、ただの関係ではない…
それらを踏まえて「神は映画を創った」とは、どういう意味なのでしょうか?
まったく意味が分かりません…
もしかして…
映画『野性の証明』のこと?
は?
「お父さんこわいよ!何か来るよ、大勢でお父さんを殺しに来るよ!」の?
この作品における「お父さん」というのは、大文字の「Father」つまり「父なる神」のこと。
薬師丸ひろ子演じる娘は「子」であるキリストだね。
だから主題歌の歌詞「この世を去る時きっと、その名前、呼ぶだろう」に対し、「お父さーん!」と来るわけだ。
ちなみに舞台となる「羽代」という地名は「ヨハネ」のことで、事件を追う「羽代新報の記者」とは福音記者ヨハネ…
ほい。
まあ…
そんなこと、どうでもいいよね。
教官がそんなことを言うなんて…
ところで、なぜ『野性の証明』なの?
あ、メンゴメンゴ。間違った。
こっちだったわ。トリュフの『野性の少年』。
フランソワ・トリュフォーです。
「母と離れ離れになり、狼に育てられる」と言ったら、この映画しかないでしょ。
それにトリュフォーって「神」なんでしょ?
だけど、ポール・サイモンと何の関係があるの?
そこまでは知らないわよ。だけど歌詞にしてるくらいだから、何か関係あるんでしょ。
そういうことは深読み名探偵に聞いてくれない?
どうなの、岡江クン?
さあね…
どうでもいいんじゃないかな、そんなこと…
きょ、教官!
ハッ…
あれ? 僕はいったい…
今、何の話、してたっけ?
ポール・サイモンと映画『野性の少年』ですよ!フランソワ・トリュフォーの!
あ、その話か…
この歌でポール・サイモンは映画の話をしているんだよ。
なぜならこの歌は『That's why God made the movies(だから神は映画を創った)』というタイトルだからね。
じゃあアタシの読みが当たってたってことね!
だけどその映画は、トリュフォーの『野性の少年』ではない。
え? じゃあ何なの? 何の映画なの?
3つある。
3つ?
その3つの映画は、いずれも1980年に公開されたもの…
1つは、もちろん『ONE TRICK PONY』…
まあ、これは当然よね。この映画のために作られた曲だから。
そしてもう1つは…
同じサタデー・ナイト・ライブ関係者の作った音楽映画としてライバル関係にあった『ブルース・ブラザーズ』…
『THE BLUES BROTHERS』
え?
そして残る1つが…
「エピソード5」こと『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』…
『The Empire Strikes Back』
す、スター・ウォーズ?
なんか、どっちも写真が「なんでこれ?」って感じなんだけど…
アタシの気のせい?
どちらもキャリー・フィッシャーが出ていて、大ヒットした映画ね。
スター・ウォーズはわかりますが、ブルース・ブラザーズって、そんなに大ヒットした映画なのですか?
1980年の世界興行収入では…
『帝国の逆襲』がダントツの1位で、『ブルース・ブラザーズ』が2位…
しかしバケモノ映画SWシリーズの公開年に当たらなければ、ブルース・ブラザーズが1位だったでしょう…
10位の『The Blue Lagoon』って、ブルック・シールズの『青い珊瑚礁』よね。
超ナツい。
11位以下はコチラです…
『ONE TRICK PONY』が無いじゃん。
てか、どこまでスクロールさせるのよ、このランキング…
指がつるっつーの。
あ、ありました…
一番下の方に…
ひゃ、109位…
当時、アルバムレコード販売枚数の世界記録保持者だったポール・サイモンの初脚本・初主演映画だというのに…
有名シンガーソングライターの初映画は、コケる傾向にあるとはよく聞くけど…
まさか、ここまでとは…
『That's why God made the movies』における「the movies」とは、『ONE TRICK PONY』『ブルース・ブラザーズ』『STARWARS/帝国の逆襲』を意味している。
あの歌詞は、この3つの映画のことを歌っているんだよね。
立場上ストレートに歌えないから、あんなふうに不思議な歌詞になったというわけだ。
立場上?
ポール・サイモンは、1977年に共通の友人を通じてキャリー・フィッシャーと出会い、交際を始めていた…
は?
当時のキャリー・フィッシャーは、『スター・ウォーズ』のヒットで世界中から大注目されていた頃…
しかもキャリー・フィッシャーは、音楽界と映画界のスターを両親にもつ、エンタメ界のサラブレッドだ…
だから二人の関係は秘密にされていた…
そうだったの?
そして、まだ二十歳そこそこだったキャリー・フィッシャーは、自由奔放な性格で、恋多き女だった…
撮影中に共演者と恋愛関係になり、ポール・サイモンは心配の種が尽きなかったという…
そういえば、映画の中のハン・ソロとレイア姫同様に、二人はかなり親密だったらしいわよね。
そして『ブルース・ブラザーズ』の撮影中には…
ダン・エイクロイドと恋に落ち、結婚寸前まで行ったという…
マジで!?
濃厚なキスシーンを見せたジェイク役のジョン・ベルーシとじゃなくて?
事実上の婚約状態まで行ったそうですが、最後は考え直し、ポール・サイモンのもとへ帰ったらしいです…
そうだったんですか…
そんな撮影中の出来事が1979年から1980年にかけて起こり、5月に『帝国の逆襲』が公開され、6月に『ブルース・ブラザーズ』が公開される…
どちらも大ヒットを記録し、キャリー・フィッシャーはますます注目を浴びるようになった…
そんな中ポール・サイモンは、さまざまな想いを胸に『ONE TRICK PONY』の脚本を書き、サントラ・アルバムを制作…
映画は10月に公開された…
つまり、そういう一連の出来事を踏まえて、ポール・サイモンの歌と映画は作られたってこと?
心配でしょうがないキャリー・フィッシャーのことを思いながら?
その通り。
だからポール・サイモンは、映画『ONE TRICK PONY』の中で『That's why God made the movies』が使われるシーンに、ある細工を施した…
おそらくキャリー・フィッシャーに向けた、ポール・サイモンの秘密のメッセージだ…
わかるかな?
つづく
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