ノーランと宮崎駿を結ぶ5つの歌【第6話】紺色のうねりが①(『コクリコ坂から』より)
前回までのあらすじ
1989年から現代へタイムスリップしてきたクリストファーは、自分が未来において映画監督となり世界的巨匠とまで呼ばれることを知る。しかもその原動力となったのは、少年時代からの憧れ「宮崎駿」そして「ゲド戦記」への想いだったのだ。さらにクリストファーは、自分が将来『インセプション』と『インターステラー』という映画において、「俺のジブリ美術館」計画と「俺のゲド戦記」計画を実行することを知らされる。すべての謎は「5つの歌」の中に隠されていた。『インセプション』の土台となった「ルージュの伝言」。『インターステラー』の土台となった「やさしさに包まれたなら」。そして「テルーの唄」を宮崎駿の息子・吾朗氏からの挑戦状だとし、その「謎かけ」に答える形で『インターステラー』の登場人物の名前を決めたクリストファー。『インセプション』が公開された翌年の2011年のこと。またしても未来のクリストファーに試練が襲い掛かる。はたして『インターステラー』はどのような形で完成するのだろうか…?
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今日は前置き無しで行こか。
毎回「噺の枕」が長すぎて、読む人は難儀しとるはず。
ルパン…じゃなくて、それ賛成!
僕も毎回書いてて、それが悩みの種だったんだ。なかなか本題が始まらないから、結果として凄く長くなっちゃう。
スマホ全盛のこの御時世に、僕ってもしかして時代に逆行してるんじゃなかろうか…って思ってたんだよね!
思ってたんなら、簡潔にやろうよ!
話を簡潔にまとめるのは表現者として大切なことだと思います。
どの口が言うとるんや。
じゃあ始めるよ。
えへん…
まさかあの『テルーの唄』の「問いかけ」から、『インターステラー』主要キャラの名前を決めるとはね!
吾朗さんが知ったら、さぞかし驚くだろう…
ホントに知らないんでしょうか?
へっ!?
なんだかボク…宮崎父子は気付いているんじゃないかって思うんです…
未来のボクのメッセージを…
どうだろう…
少なくとも『インセプション』が公開された2010年から翌年の2011年にかけての頃は気付いていない。でもその後は映画をきっと観てるはずだ。あれだけ世界的に騒がれた作品だからね。
もしどこかのタイミングで気付いたのだとしたら、もうちょっと先のことだろう…
何それ? 気になる!
ここ3年ほどの「ノーラン・宮崎父子・ユーミン」の動きの全体図を俯瞰してみると、どうもいろんなことが繋がってるように見えて仕方ないんだよね…
今やってる「5つの歌」シリーズが終わったら、ゆっくりと考えてみたい。
何か僕らの想像を絶する「とんでもないシナリオ」が水面下で進んでいるような気がしないでもないんだ…
・・・・・
さて、『インセプション』公開までのノーランの動きをざっとまとめよう。
2001年
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宮崎駿『カリオストロの城』をベースにした映画の構想に着手
東京三鷹にジブリ美術館が完成し、衝撃を受ける
2006年
サッカーイングランド代表監督(当時)エリクソンの頭の中から機密情報を抜き取る「エクストラクション事件」発生
特に『ゲド戦記』は、ノーランの幼い頃からの愛読書だったっから、衝撃も大きかったんだよね…
そう。ノーランは『ゲド戦記』の映画化が夢だからね。
本作品における発言・描写は、おかえもん個人の推測や妄想に基づくものであり、実際の人物・団体の真実を表すものでは決してありません。
しかもジブリ版『ゲド戦記』は、欧米のファンや同業者の間に大きな失望を与えたんだ。いろんな意味でね。ジブリの看板にも影響するほどのことだったんだよ。
そんなんやったんか?
原作者のアーシュラ・クローバー・ル=グウィンを阿修羅のごとく怒らせてしまったんだ。当時はまだSNSが今のように発達していなかったし、日本メディアがこの事件を「無かったこと」にしたんで、日本には情報がほとんど入って来なかった。けれども、海外では大きな話題となったんだよ。
ど、どんな風にですか?
ル=グウィンが監督の吾朗さんに映画の感想を聞かれて「この映画は私の作品とは何の関係もありません。でもあなたの作品としては上出来じゃないですか?」と遠回しに「残念な感想」を伝えたところ、吾朗さんは「原作者にも認めてもらえた」とジブリの公式ブログで書いてしまったんだ。
これでジブリは欧米で評価を大きく落としてしまった。せっかく『千と千尋の神隠し』で大ブレイクしたのにね。
詳しくは、公開されたル=グウィンの手紙に書かれている。こちらのサイトで翻訳されているよ。非常に興味深いから、ぜひ御一読を。
なるほど。こういう流れか…
1980年代中頃、スタジオジブリを立ち上げた宮崎駿がル=グウィンに『ゲド戦記』映画化を打診。宮崎を知らず、商業アニメも嫌いだったル=グウィンは断る。
2000年頃、知人に勧められて『となりのトトロ』を観たル=グウィンは「宮崎駿は黒澤やフェリーニに並ぶ天才だわ!」と感動。日本版の翻訳者に宮崎駿を紹介してもらい、アニメ化を打診。ジブリの鈴木敏夫氏も交えて協議を重ね、原作の世界観を壊さないなら、原作に無い新たな物語を作り出しても良いと異例の許可を出す。
2005年8月、宮崎駿・鈴木両氏がル=グウィンの自宅を訪問。宮崎が映画作りから引退する旨と、『ゲド戦記』を息子吾朗氏の監督デビュー作とすることを告げる。ル=グウィンはショックを受けるが、駿氏の全面バックアップがあるなら…と了承。正式な契約を交わす。その後、駿氏がプロジェクトに全くノータッチであることを知り、再びショックを受ける。
2006年8月、鈴木・宮崎吾朗両氏が完成した映画を携え、ル=グウィンの住む町を訪問。町の映画館で上映会を行う。上映後のパーティーの席で、吾朗氏がル=グウィンに感想を求める。ル=グウィンの非公式発言から一部抜粋したものを、吾朗氏がジブリの公式ブログで紹介。ル=グウィン、怒りの手紙を公開し、今に至る。
今でもル=グウィンの公式サイトで公開されとるんやな。ほとんど「晒し」や。
今でもジブリ版『ゲド戦記』を観た人からの問い合わせが来るそうだ。この映画は「公式」なものなんですか?って。だって舞台や哲学やキャラクタ―の設定が原作と全く違っているからね。だから、ことの経緯を読者に伝えるためにHPに掲載したままになってるんだ。
へえ、そうだったのか…
だけど、ル=グウィンさんの町の映画館での試写に、ノーランがこっそり忍び込んでたとか想像したら笑えるよね(笑)
有り得るな。
ルパンや007に憧れとったくらいや。変装してパーティーの席に潜り込むくらい朝飯前やろ。何千万人もの観客を赤子の手をひねるみたいにコロッと騙す男やさかい(笑)
あ、あの…
冗談じゃなくて、ボク…
ホントにその場に居たかもしれません…
ハァ!?
もしボクが2006年の自分だったら、ル=グウィンに頼んで「甥っ子」にでもしてもらい、試写を一緒に観て、パーティーでも吾朗氏に接触すると思います。どんな人物か確かめるために…
まさかぁ!
いや、じゅうぶん有り得るよね。
だって未来のノーランは、ル=グウィンに接触していてもおかしくない。『ゲド戦記』映画化の可否を確かめるために。そしておそらく二人は気が合ったに違いない。作品に対する姿勢というか哲学が似てるからね。宮崎駿作品について語り合っていてもおかしくないと思うよ。
だから試写の話をノーランがル=グウィンから知らされていたとしても、全然不思議じゃない。得意のポーカーフェイスで「甥っ子」になりすましているノーランなんて、簡単に想像できるだろう?『インセプション』みたいに…
確かになんか現実のことっぽく思えてきた…
自分で言うのも何ですが…
ボクなら、やりかねません…
まあでも、こればっかりは2006年の君に聞いてみるしか真相は確かめられない…
都合よくタイムスリップでもして来てくれたらいいんだけど…
そのうち現れるっちゅう布石やな。
さて、2006年の2つの事件をうけて、宮崎吾朗氏設計のジブリ美術館に対抗するノーラン版「俺のジブリ美術館」計画と、ジブリ版『ゲド戦記』に対抗する「俺のゲド戦記」計画がスタートする。
この2つの計画はあまりにも壮大なスケールのため、『インセプション』と『インターステラー』の2作品にまたがる計画となった。
まずノーランは、ジブリ作品の中でも最も好きな『魔女の宅急便』の主題歌、ユーミンの歌う「ルージュの伝言」から『インセプション』のシナリオを書き上げる。素晴らしい読解力と想像力で。
2010年に『インセプション』は公開され、世界で900億円超の大ヒットを記録。そしてノーランは本格的に『インターステラー』構想に着手する。
まず、ユーミンの「やさしさに包まれたなら」から物語の大枠を決める。
子供の頃は「超常現象」だと思っていたけど、大人になって「その意味に気付く」というストーリー。
そこに再び宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を重ねる。ジョバンニが石炭袋(ブラックホール)を見てカムパネルラに語った言葉を…
僕はもうあんな大きな闇の中だって怖くない!きっとみんなの「本当のさいわい」を探しに行く!どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう!
あの回は感動もんやったな。マジ天才的やで。
そしてノーランは『ゲド戦記』で吾朗氏が歌詞を作った「テルーの唄」から、物語における重要な人物3人の名前を考え出した。「心を何にたとえよう?」っていう吾朗さんの自問からね。
あれも戦慄が走った…
こうして、ある程度『インターステラー』のイメージが出来上がって来た。
ノーランは本格的に制作準備に取り掛かろうとする。
しかし、またもや大きな衝撃を与えるニュースがノーランの耳に入ってきたんだ…
こ、今度は…何?
宮崎吾朗監督作品第2弾『コクリコ坂から』だよ…
しかも今度は父・駿が「企画・脚本」を務めるという「宮崎父子のタッグ作品」だったんだ!
ええっ!?
2011年の君も大きなショックを受けた。
だって欧米ではまだ「ル=グウィン怒りの手紙」事件の記憶が新しかったからね。しかも「引退宣言」をしてたはずの父・駿氏が、またもや息子の作品に関わった。前回以上の介入度でね。ほとんど「二人羽織」みたいな状態だ。
・・・・・
『インセプション』では「フィッシャー父子」という「宮崎父子の投影」を登場させ、「帝国の相続問題」を通して未来の君は宮崎吾朗氏に「父の真似をするな。自分の道を進め」というメッセージを伝えようとした。
そして「雪山の要塞」という「ジブリ美術館の投影」を最後に爆破することにより、「父の栄光や過去に浸るな」というメッセージを伝えようとした。
しかし、それは徒労に終わったんだ。
未来の君の想いは、結局伝わることはなかった…
(;゚д゚)ゴクリ…
しかも『コクリコ坂から』は、君にとって『ゲド戦記』や宮崎アニメと同じくらい大切な「宮沢賢治」が大きく関わる物語だったんだよ…
ke、kenji Miyazawa が…?
不安と期待が複雑に混じり合う中で、未来の君は映画を観た…
そして劇場を後にした君は、人目もはばからず大声でこう叫んだという…
「宮崎父子、敗れたりィィィィィ‼ゥヒョ~ッ!」
なんで~~~!?
しかも最後の「ゥヒョ~!」とかノーラン絶対に言わなそう!
ボクがそんなことを叫んだんですか…?
ゥヒョ~!
言うんか!
宮崎父子が…ボクに敗れる…?
いったい、なぜ?
その答えは、この歌にある…
宮沢賢治の詩を原案とし、宮崎駿・吾朗父子の共同作詞となった『コクリコ坂から』の挿入歌、「紺色のうねりが」だ…
校歌みたいな歌だよね!
校歌やろ。
せやけど今回は誰かのカバーとちゃうやんけ…
これ…大丈夫なんか?
YouTubeにジブリ動画っちゅう組み合わせは、「ビールとスイカ」「コーラにメントス」みたいなもんやで…
良い子は絶対に手を出さんほうがええコンボや…
知ってるよ…
だけどこの歌、なぜかカバーして歌ってる動画が皆無なんだよね…
大事な歌だけに、どうしても紹介しなきゃいけないし…
苦渋の選択なんだ。この動画が当局に削除されたら、僕はもうお手上げだよ。
ニコ動には、ぎょうさんあるんやけどな…
でも、ここnoteにはニコ動を貼れない…
貼れるのはYouTubeかVIMEOだけなんだ…
どんな事情なのかは知らないよ…
だって僕は、所詮いちユーザー…
グーグルとドワンゴがせめぎ合う戦場の真っ只中で右往左往する一匹のアリンコに過ぎないから…
表現の自由という武器と、良心の呵責という重い鎧を身に付けて、今日も明日も右往左往しているアリンコなんだ僕は…
あの…
いいですか?
ボク…この歌をどこかで聞いたことがあるような気がするんです…
だよね。そう言うと思ったよ。
ハァ!?
ー 第7話へ続く ー
紹介した映画
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