「ママジとパリのプール」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
・・・・・
グスン… いい歌…
気分はどう?
うん…
少し… 落ち着いたかも…
ありがとう…
うふふ。よかった。
どこの誰だか知らないけど… アンタの歌、サイコーよ。
あとでアタシの店に来て。お礼に御馳走するから。
あら、嬉しい。
じゃあまたね。上で待ってるから。
カランカラン♫
(ドアの閉まる音)
愉快な方ですね。
3階の店、クラブ ダイヤモンドのママさんなの。
さあ、『ライフ・オブ・パイ』の続きに戻りましょう。
中年パイがインタビュアーの作家に自分の出生時の様子を語るシーンです。
中年パイの話す内容は、最初から全て「作り話」だ。
「パレスチナ」を「インド」に、そして「エルサレム」を「ポンディシェリの動物園」に置き換えて話しているんだね。
そして出生時の逸話も、こんなふうにジョークにして語った…
My father owned the zoo...
and I was delivered on short notice by a herpetologist...
who was there to check on the Bengal monitor lizard.
Mother and I were both healthy...
but the poor lizard escaped...
and was trampled by a frightened cassowary.
The way of karma, huh?
The way of God.
「父は動物園のオーナーだった。私が誕生したという知らせは、ちょうどベンガルオオトカゲの様子を見に訪れていた爬虫類学者によってもたらされた。母子ともに健康。しかし憐れなトカゲは、驚いたクイドリに踏み殺されてしまった。カルマの法則。神の思し召し。」
これのどこがジョークなの?
たまたまベンガルオオトカゲを見に訪れた爬虫類学者がパイの誕生を知らせてくれたって内容でしょ?
そしてベンガルオオトカゲはヒクイドリに殺された。
それがカルマの法則、神の思し召し。
それだけの話じゃない。
「herpetologist」は「astrologist」の駄洒落なんだよ。
は?
「爬虫類学者」じゃなくて「占星術師」…
つまり、星を頼りに未来を予言する人のこと…
あっ!東方の三博士ですね!
星を頼りに救世主の降誕を予言し、赤子イエスがキリストであることを告げた東方の三博士です!
『東方の三博士とキリストの降誕』
ジョット・ディ・ボンドーネ
まあ!
そして「爬虫類学者」が見に訪れた「ベンガルオオトカゲ」とは「イエス・キリスト」のこと…
だから「憐れなトカゲ」として最後は殺されてしまったんだね…
つまり中年パイは、初っ端でいきなり、イエス・キリストの誕生と死をダイジェストで語ったというわけだ。
まさに「The way of God」(笑)
やられたわ…
出だしから全部「作り話」だったのね…
そして中年パイのジョークに対して、聞き手の作家が返す。
That's quite a story.
I had assumed your father was a mathematician
because of your name.
「そうだったのか。てっきり、君の名前からして、お父さんが数学者なのかと思ってたよ」
これもジョークなんだけど、わかるかな?
ジョーク?
「π(パイ)」って名前をつけるくらいだから数学者だと思ったんでしょ?
数学者が扱うものは、論理、数、空間と変換といったものに関する問題や概念、あるいはさらにそのようなものを扱うためのさらに一般かつ抽象的な概念や操作およびそれらに関する問題などである…
と、ウィキペディアには書かれている。
つまり「世界のすべて」だよね。
神が創造したすべて、ということですか?
その通り。
『ライフ・オブ・パイ』という物語における「父」とは「創造神」のこと。
それを「動物園のオーナー」や「数学者」という譬えで表現しているんだ。
なるほど。
そしてパイは、水泳の師であるフランシスおじさん、通称ママジの話を始める。
パイは「叔父」と呼んでいるが、実際は血は繋がっていない。パイの父の親友だ。
上半身が異常に大きくて、下半身が異常に小さいという、体型が極端な逆三角形型のママジね。
産まれた時、肺に羊水が溜まっていたから、医者が足をもってグルグル振り回して、それであんな体型になったって言ってた。
これも嘘だね。
マ、マジ!?
「上半身が異常に大きくて、下半身が異常に小さい」というのは…
「地上では最も大きくて、天国では最も小さい」のジョーク…
洗礼者ヨハネですか!
『マタイによる福音書』
11:11 あなたがたによく言っておく。女の産んだ者の中で、バプテスマのヨハネより大きい人物は起らなかった。しかし、天国で最も小さい者も、彼よりは大きい。
『ヨルダン川での洗礼』
マイケル・アンジェロ・イメンラート
だから「血が繋がっているかどうか」の会話があったのよ。
イエスの物語である四福音書の中で、『ルカ』だけがイエスとヨハネが遠縁にあたると書いてあるの。
でも他の三福音書では、血縁関係があるとは書かれていない…
そしてママジは、幼いパイをプールに放り投げた。
「疑似」洗礼だね。
パイの頭の上に「白いハト」がいるみたいに見えなくない?
イエスの洗礼の絵みたいに…
「神は細部に宿る」と言いますが…
やることが細かいですね、アン・リー監督は。
そして中年パイはこう振り返る。
「彼の教授が、最終的に僕を救ってくれた」
これは、洗礼者ヨハネがイエスに洗礼を授けた時に「イエスは神の子」という啓示が下されたことを指しているね。
『ルカの福音書』3:21-22
さて、民衆がみなバプテスマを受けたとき、イエスもバプテスマを受けて祈っておられると、天が開けて、聖霊がハトのような姿をとってイエスの上に下り、そして天から声がした、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である」
これがあったからイエスは最終的に死の恐怖を乗り越えられたんだ。
自分はどんなことがあっても「神の子」だから大丈夫だと。
作家が、先にママジに会って、それから「私ではなく彼の話を聴くべきだ」とパイのことを紹介されるのも、洗礼者ヨハネとイエスみたいですね。
そして「パイ」という名の由来である、パリのプール「PISCINE MOLITOR」の話が始まる…
これも駄洒落だったわね。
多くの人で賑わう「Paris(パリス)のプール」とは「Palestine(パレスチナ)のプール」のこと。
つまりJORDAN RIVER(ヨルダン川)。
ママジはパイの父に対し、パリのプール「PISCINE MOLITOR(ピシン・モリトー)」について、こう語ったという。
「一度ここで泳げば、人生が変わる」
確かに「変わる」わね。
「洗礼」とは生まれ変わる行為。英語で「born again」って言うくらいだから。
そしてママジはパイの父に、こうアドバイスした。
「もし自分の息子に穢れなき魂を持たせたいならば、いつの日か必ずPISCINE MOLITORに連れて行って泳がせろ」
つまり「イエスを宿命の子にするためにヨルダン川へ連れて行って洗礼させろ」という意味だね。
しかしパイの父は、何を思ったか「PISCINE MOLITOR」を、生まれてきた次男の名前にしてしまう。
これによって「PISCINE PATEL(ピシン・パテル)」が誕生した。
「PALESTINE PIC(パレスチナのピクチャー)」というアナグラムになっている名前がね…
何から何まで「作り話」なのね。
『ライフ・オブ・パイ』は「嘘」が9割9分5厘6毛。
まさに。
では次の「学校シーン」に行きましょう。
みんなから馬鹿にされていたピシン・パテル少年が「パイ」と呼ばれて学校のヒーローになるまでを描いた部分です。
学校シーンも最高よね。
ここでもパイの冗談はキレッキレ(笑)
あれ? またお客さんが来たようです…
カランカラン♫
(ドアの開く音)
・・・・・
・・・・・
良介山ママ… ですよね?
良介山ママ? 誰のこと?
アタシはジョーダン川博士よ。
ハァ? ジョーダン川博士?
パレスチナのジョーって呼んで。
つづく
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