深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.16(第186話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
そんなこと気にして何になる?
BTTFの話題を出した時点で、こうなることは必然じゃった…
ドクのように、己の欲望に正直になれ。
はい…
それでは、出来るだけ速足で…
ふふふ。
これまでも速足だった試しがないけれど(笑)
さすがに、もうすぐ夜明けですから…
今回は本当に急ぎますよ。
まずは1曲目『TWO OF US』から…
まず、ジョン・レノンのふざけたMCから始まりますね。
しかも嘘のバンド名で自己紹介してます。
そう。このアルバム『LET IT BE』は「昔こんなバンドがいて、こんな曲を歌いました」という芝居じみたギミックになっている。
メインのタイムラインは「現在」ではなく「過去」なんだ。
あまりにもポール・マッカートニーが「GET BACK!GET BACK!(あの頃に帰ろう!昔の自分たちに戻ろう!)」と張り切ってるから、ジョンは皮肉で言ったんじゃない?
たぶんそうだろう。
ちなみにジョンは、こう言っていた。
'I Dig a Pygmy' by Charles Hawtrey and the Deaf Aids
Phase one, in which Doris gets her oats
チャールズ・ホートリー&補聴器ズによる『気になる小人』
第一場「ドリスの男漁り」
意味不明ですね。
ちなみにこのチャールズ・ホートリーなる人物は、当時の人気コメディアンだと聞きましたが。
その通り。
30作以上も続いた人気コメディ映画『CARRY ON』シリーズで人気を博した人物だ。
Charles Hawtrey(1914-1988)
痩せてて、ひょろっとしてて、独特の声で、丸眼鏡をかけてることが多くて、いつも皆に馬鹿にされるんだけど、反抗せずに笑いにしてしまうスタイルで一世を風靡した。
自分にそっくりだからジョンは大好きだったんだろう。
確かに似てるかも…
女装して買い物してる時の顔なんて、特にそっくり…
「Hello」が持ちネタなんですか?
そう。
だから『BACK TO THE FUTURE』のジョージは、いつもビフに「Hello, Hello, anybody home?」とからかわれていたんだよ。
は?
マーティの父ジョージのモデルはチャールズ・ホートリーだ。
似てるでしょ?
マッチョのビフをやっつけた、ひょろひょろジョージだ!
ちなみに「手の指をケガしたボクサーの代わりに急遽リングに立ち、見たこともないスタイルで観客を大盛り上がりさせる」もBTTFで使われたよね。
確かに…
そしてジョンが名付けたバンド名「チャールズ・ホートリー&補聴器ズ」も、BTTFで再現された…
「補聴器」とは「デカい音を出すアンプ」の隠語でもあるんだけど、映画『CARRY ON NURSE』でチャールズ・ホートリーが演じた役のことでもある。
チャールズ・ホートリー演じる入院患者は、いつもベッドの中でヘッドフォンをつけ、大音量で音楽を聴いていた。
2分9秒から登場する…
ヘッドフォンで大音量の音楽を聴き、最後にベッドから転げ落ちるチャールズ・ホートリー…
「宇宙人襲来」のシーンでのジョージそのもの…
そういうこと。
ジョンが言った嘘のタイトル「I Dig a Pygmy」もバッチリ再現されている。
「dig」には「会う・理解する・気に入る」という意味があるからね。
つまり…
ジョージは背の低い宇宙人と遭遇し、「死にたくなければロレインを口説け」というメッセージを伝えられ、それを理解した…
そして「第一場 ドリスの男漁り」の始まりが告げられる。
BTTFではどうなった?
ロレインの男漁りが始まったわ…
その通り。
ジョンのナレーションが終わると、すぐさまイントロのギターが鳴り、『TWO OF US』が始まる。
もう一度曲を聴いてもらおうかな。
あっ、双子の美人デュオ、MonaLisa TWINS(モナリサ・ツインズ)!
知ってるんですか?
あたしも双子だから。双子界隈では有名なのよ。
彼女たちを見てると、なんだか昔の自分たちを見ているような気分になるの。
子供の頃は、家でよくあんなふうに一緒に歌ってた…
ザ・ピーナッツとかキャンディーズとか…
・・・・・
どこに行ってしまわれたのでしょう、妹さんは…
最後に手紙が来たのは10年前…
それっきり音沙汰無しよ…
そんなこと、どうでもよくない?
今はBTTFと『TWO OF US』の話よね?
そうだったわ。ごめんなさい。
ふぉーっふぉっふぉ。
いつも突然高笑いしますが、いったい何がおかしいんですか?
気にするな。東野英治郎の水戸黄門みたいなものじゃ。
高笑いに深い意味などない。
さて、『TWO OF US』の歌詞を聴いて、何か気付いたことはなかったかな?
確かにBTTFっぽかった気がする…
まず1番は、こんな歌詞でしょ…
Two of us riding nowhere,
spending someone’s hard earned pay
You and me Sunday driving, not arriving
On our way back home
僕たち二人
どことも知れぬ場所へとドライブ
誰かが必死で手に入れたものを使って
ノロノロ運転では辿り着けない
懐かしの故郷への旅路
これは深読みするまでもないよね。
なにせ、そのまんまだから…
あっ…
こ、この場面です…
タイムマシンに改造されたデロリアンの動力源は、アメリカ国民の税金で作られたともいえる核燃料プルトニウム。
とある施設からテロリストが盗み出し、それをドクが騙し取った。
そして、時速88マイル、つまり142キロ出さなければタイムトラベルは出来ない…
歌詞の通りです…
サビは同じ内容の繰り返しなので割愛する。
次は2番だ。
Two of us sending postcards, writing letters
On my wall
You and me burning matches, lifting latches
On our way back home
僕たち二人
手紙を送る、書かれた文字、壁の上
君と僕
燃えるマッチ、持ち上げるラッチ
故郷への旅路の途中
送られた手紙とは、マーティがドクに書いた手紙のことですね…
「あの夜にドクの身に起こること」について書かれた手紙…
ということは…
「書かれた文字、壁の上に」は時計台の文字盤のこと?
だね。
そして、捨てたと思われていた手紙は、実はドクが大切に保管していた。
おそらく「on my wall」に…
え?
映画のオープニング・シーン…
ドクのガレージ内で、とある額縁がアップで映されたよね?
はい…
タイムマシン製作のために犠牲にした家土地に関する新聞記事の切り抜きが入った額縁です…
あの額縁と壁の間には…
なぜか、これ見よがしに「新しい紙」が挟んであった…
まるで、つい最近、あそこに挟んだかのように…
あっ、ホントだ…
言われてみれば、めっちゃ怪しい…
おそらくドクは、あの額縁の裏に、マーティの手紙を隠していたはず…
そして、あそこから手紙を取り出して、「運命の夜」に臨んだんだよ…
なるほど…
それを臭わせるための描写だったのね…
BTTF、おそるべし…
次は「you and I」の「burning matches」と「lifting latches」だ。
「ラッチ」って何だっけ?
扉などを閉める「掛け金」のこと。
あっ!
そう。そのまんま。
しかも燃えてたし。
ここでのポイントは、主語が「Two of us」ではなく「You and me」だということ。
つまり「burning matches」で「lifting latches」するのは「僕と君たち」とも読める
この意味わかるかな?
あっ!8歳のマーティが起こすボヤ騒ぎ!
その通り。
マッチで遊んでいてカーペットを燃やしてしまったマーティは、ロレインとジョージにこっぴどく叱られた。
おそらく物置にでも入れられ、ラッチを掛けられて、真っ暗な中にしばらく放置されたんだろう…
そのことがマーティにはトラウマになっていたので、二人に「あまり叱らないであげて」と言い残した。
「マッチのトラウマ事件」が無くなり、代わりに起こったのが、ジョージの小説家デビュー…
タイトルは『A Match Made In Space』…
BTTF制作チームは、完璧に歌詞を再現したかったんだろう。
すさまじいまでの執念を感じる。
そしてブリッジ、Cメロよ。
You and I have memories
Longer than the road that stretches out ahead
「two of us」ではなく「you and I」ですね。
あなたたちと僕には思い出がある
目の前に伸びるこの道よりも遠い記憶が
ここでの道は人生…
16年しか生きていないマーティですが、両親やドクとは30年前の思い出がある…
そういうこと。
よく出来てるよね、ポールの歌詞もBTTFも…
そして3番だ。
Two of us wearing raincoats, standing solo
In the sun
僕たち二人
レインコートを着て、ひとりで立つ
太陽の中で
これも「そのまんま」ですね…
「DARTH VADER」じゃなくて「SOLO」にすればよかったの。
ダース・ベイダーとルークのように「名乗り合えない父と子の物語」だから仕方ない。
それにハン・ソロじゃ顔を隠せないしね。
じゃあチューバッカは?
言葉が通じないでしょ。
あ、そっか。
3番の後半は、こうです。
You and me chasing paper, getting nowhere
On our way back home
君と僕は書類を作成する、どこにも辿り着けない
故郷へ戻る旅路の途中
これは、ジョージがロレインをダンス・パーティーに誘うために、マーティが伝授した口説き文句のことかしら?
だね。
『TWO OF US』も完璧にBTTFでした。
また途中なのに勝手に終わらせる。
まだ歌は残ってるよね?
え?
もう一度Cメロと3番が繰り返されるんだ。
これはBTTFにとって大事なこと…
どうして? まったく同じ歌詞でしょ?
3番の再現では、「two of us」の片方しか「レインコート」を着ていない…
これでは歌詞の完全なる再現にはならないよね…
あ、確かに…「僕たち二人」ですから…
だけどポールは、Cメロと3番をもう一度繰り返す…
これで、もう片方も「レインコート」を着ることが出来るというわけだ…
そして「おまけ」でデロリアンは、助走のための道が必要なくなった…
You and I have memories
Longer than the road that stretches out ahead
Two of us wearing raincoats, standing solo
In the sun
You and me chasing paper, getting nowhere
On our way back home
あっ!
なんてことなの…
後世に残る名作とは、こういうことじゃ…
何気ない描写のひとつひとつに、おそろしいまでのこだわりが隠されている…
それを世のため人のために紐解くのが、深読み探偵…
己のためでもあるんじゃない?
そういう生き方しか出来ない人種…
かもしれません…
それでは次の曲『Dig A Pony』に行ってみようか。
速足で行くよ。
つづく
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