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「ヘアードレッサーって、どんな仕事?」『バベットの晩餐会』徹底解説:第4章前篇

さて、前半の山場である第三章も片付いたことだし、次は第四章の解説といこうか。

前回を未読の方はコチラをどうぞ!

第四章のタイトルは「A LETTER FROM PARIS」や。

カナダからとちゃうで、パリからの手紙やで。

第四章は、第三章で描かれたオペラレッスンから15年後の出来事。

マチーヌは34歳、フィリッパは33歳、そしてお父さんは亡くなっている。

筑摩書房版だと「16年後」って書いてあるけど…

桝田啓介氏の翻訳による筑摩書房版は「著イサク・ディーネセン」ってなってるけど、本当は「カレン・ブリクセン」名義のデンマーク語版の翻訳なんだよ。

だから内容が微妙に違うんだよね。

彼女の作品は言葉遊びだらけだ。基本的に彼女は作品を最初に英語で書いたんだけど、張り巡らされた言葉遊びをデンマーク語に訳す場合、そのまま使えないもんだから内容や言葉のチョイスを変えていたんだ。

デンマーク語での言葉遊びが完璧に成立するようにね。

筑摩書房版は本来「著カレン・ブリクセン」としなければならないところを、なぜか英語の著者名「イサク・ディーネセン」を使ってしまっているんで、ちょっとややこしくなってるんだよ…

僕はこちらのイサク・ディーネセン名義の英語版をもとに解説をしているんで、そこのところはお忘れなく。

ホンマややこしいな。

他言語に翻訳されたものって、基本的に「別物」だからね。

ときには「別作品」になってしまうこともあるくらいだ…

それくらい言語というものはデリケートなものなんだということを、僕らは肝に銘じておかなければならない。

ぶ~ラジャー!

さて、1871年6月のある雨の日、姉妹の住む「黄色い家」に突然来客がある。

姉妹が玄関の扉を開けてみると、そこには「浅黒い肌」でずぶ濡れの女が立っていた。

女の荷物といえば、小脇に抱えた包みだけ。後にこれは「黒くて大きな祈祷書らしきもの」だったことがわかる。

そして女は一通の手紙を差し出した。オペラ歌手パパンが書いた手紙だ。

だけどその手紙はフランス語で書かれたものだったので、姉妹は困ってしまう。

亡き父と違って姉妹はフランス語が得意ではなかったからね…

姉妹は頭を突き合わせながら、手紙を何とか最後まで読む。出だしはこんな感じだった…

Ladies!
Do you remember me? Ah, when I think of you, I have the heart filled with the wild lilies-of-the-valley!

レディース!
私のことを覚えてるだろうか?ああ、あなたを想うと私の心は谷間の百合(スズラン)で埋め尽くされてしまうよ!

めっちゃノリが軽い!

55歳のオッサンでこれはキモいかも(笑)

本当は偉大なオペラ歌手らしく格調高いフランス語で書いてあるんだろうけど、姉妹はフランス語が苦手だから、こんな風にしか読めなかったんだ。

あえて簡易な英語で書かれているんだよ。姉妹の語学力に合わせて。

なるほどね。

しかしなぜ鈴蘭なんだ?

フランスでは、スズランは最愛の人に贈る花なんだ。

だけどそれだけじゃない。

イサク・ディーネセンは「lily(リリー)」という単語を使いたかったんだよ。

ハァ?なんで?

「Lily」って…

<続きはコチラ!>


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