栗麻呂ノ暗号何も言えなくて夏1

ノーランと宮崎駿を結ぶ5つの歌【第10話】紺色のうねりが⑤「インターステラーと法華経 ~何も言えなくて...夏~」

前回までのあらすじ

1989年から現代へタイムスリップしてきたクリストファーは、自分が未来において映画監督となり世界的巨匠とまで呼ばれることを知る。しかもその原動力となったのは、少年時代からの憧れ「宮崎駿」そして「ゲド戦記」への想いだったのだ。クリストファーは自身の映画において「俺のジブリ美術館」計画と「俺のゲド戦記」計画を実行することを知らされる。すべての謎は「5つの歌」の中に隠されていた。「ルージュの伝言」から『インセプション』の物語を、「やさしさに包まれたなら」から『インターステラー』の物語を構築したクリストファーは、「テルーの唄」の”謎かけ”から『インターステラー』の登場人物の名前を考え出す。そして『コクリコ坂から』の挿入歌「紺色のうねりが」に衝撃を受けたクリストファーは、『インターステラー』の中に壮大なメッセージを組み込むことを決意。それは第3の計画「俺の宮沢賢治」計画の始まりだった…

詳しくはコチラを!

お前すっかり段取り覚えてもうたな。

チャチャっと資料も作るし、ホンマ役に立つやっちゃ。

このままこの時代に残ったらええ。

ははは。ですね。

ボクもこの時代が気に入ってきました。

でもそんなことしたらタイムパラドックスが…

さあ、君たち。

冗談はそれくらいにして、今日の話を始めようか。

せやった!

TARSの謎や!

あの真っ黒ぬりかべ野郎、どこ行きおった?

さっき充電しに行くって言ってたけど…

聞こえたぞ、隣の部屋まで!

そこのツルピカ、元海兵隊の俺様を舐めるなよ!

なんやとォ!?

そのツラに立ち小便したろかワレぇ!

やめてよ二人とも…いい大人なんだから…

てか、いったいいくつなんだよ、あんたたち?

ほらほら、みんな落ち着いて。

『インターステラー』は釈迦の生涯と仏教思想を物語の中に織り込んだ映画なんだから、争いごとはよしたまえ。

世界平和を心から望んだ賢治も草葉の陰で泣いてるぞ…

ケンジ…?

ケンジは亡くなったのか!?

TARS…

君は賢治を知っているの?

知っているも何も、私は彼とコラボしたことがある…

ええっ!?嘘でしょ!?

あれは私が海兵隊の秘密兵器として在日米軍基地に配備されていた時のこと…

私はケンジという名の、不思議な雰囲気を漂わせた男に出会った…

その前日に東京では珍しい大雪が降ったので、今でもはっきりと覚えている…

久しぶりの休暇をもらった私は、渋谷へレコードショップ巡りに出掛けた…

シカゴやマンハッタンでも中々売っていないレアなバイナルを探すためだ…

意外な趣味!

宇田川町からファイヤーストリート方面を攻め、目当てのブツをゲットした私は、そのまま原宿へと向かった…

坂道の多いあの界隈を歩き回り小腹が空いたので、大好物のクレープを食べに行こうと思ったのだ…

そして私は、道端で見知らぬ男に声をかけられた…

スカウト!?

そう。

その男は馴れ馴れしい態度で私にこう言った。

「ビデオに出てみない?簡単な撮影なんだけど」

え~~~~!

「これが噂に聞く原宿名物のスカウトか。しかしまさかこの私が…」と戸惑っていた私に、その男は間髪入れずこう畳み掛けた。

「そんなに固まらなくても大丈夫!セリフも無いし、ただ彼の横に立っていてくれればいいから!もし恥ずかしかったら顔を隠してもいいし、後ろ向いちゃっててもいいんだよ!」

きゃーーーー!

そう言いながら男は、視線を私から少し離れたところに立っていた男へと向けた…

「MILD SEVEN」と大きく書かれた壁を背に、少しハニカミながら私を見ている、まるで少年のような男へと…

そうして私はケンジと共演することになったのだ…

これがその時の写真…


まさか、あのケンジが亡くなっていたとは…


それケンジ違い!

ケンジはケンジでも小沢健二!

しかもやっぱり恥ずかしくて後ろ向いてたんかい!

あっ!しまった!

さっきTARSの設定をいじった時に、ユーモア度を75%にしたまま戻し忘れてた!

ふふふ…バレたか。

はいみんな、おふざけはお終い!

今日も16小節の旅の始まりだ!

もうええわ。被さんでも。

確か今回は「私の名前の謎」についてだったな…

いろんなサイトを見てみると、

「TARSは”船乗り”って意味があるから元海兵隊という設定」

とか、

「TARSはタール(炭の乾留液)って意味だから黒い」

とか書いてある。

ふふふ…

皆まんまとノーランの口車に乗せられおって…

違うのか!?

当たり前だ。よく考えてみろ。

「神組」の「アメリア+CASE」の組み合わせは「預言者+聖櫃」だっただろう。

なんで私だけ、そんな間抜けな理由でネーミングされねばならぬのだ。

「神組」と対応しているに決まってるではないか。


ノーランは劇中で「あいつは海兵隊のロボットだから危険なんだ!」ってクーパーにわざとらしく説明させてたよね。

いつもの手だ(笑)

TARSが海兵隊出身でなきゃいけない理由なんて一つもないんだよ。映画を観ればわかるけど、何の伏線にもなってない。

ノーラン映画の説明セリフは、全て「誘導」だと思っていい。

じゃあ「TARS」って何なんだろう…?

神組の「聖櫃」に対応するものって…?

仏教で「十戒の石板」に対応するのは、お釈迦さんの教えを説いた「お経」やろ?

てことは「聖櫃」に対応するのは、お経を閉まっとく箱とかか?

せやけど聞いたことあらへんで、仏教で聖なる箱なんちゅうもんは…

ふふふ…

その答えは、TARSが量子データを圧縮してバイナリーコードに変換したところにあったんだ。

なにィ!?


…って驚いてみたけど全然意味がわからん!

まさか…

スートラ…?

ス、スートラぁ!?

あ、あの…カマカマカマカマ…

ボーイ・ジョージか!


ちゃうわ!

カーマ・スートラって言おう思ったんやけど、カーマ・スートラのこと考えたら何か熱いものが滾ってきて噛んでもうただけや!

なんで、そこでたぎるの?

ほっとけ!このエロガキ!

あの…

「スートラ」とは「経・たて糸」という意味のサンスクリット語です。

その通り。

古代インドでは、膨大な量のヴェーダ(知識)を理解するために、暗誦用に圧縮した散文体による短文の規定を設けたんだ。今風にいうと、情報処理用の「プログラミング言語」だね。そして、それに沿って編纂された綱要書は「スートラ」と呼ばれ、とっても便利なので以後様々な哲学・学芸の学派にも広まっていった。

「スートラ」の原義はクリストファーの言う通り「たて糸」だ。たくさんの花を糸で貫いて「ひとつなぎの花輪」とするように、膨大で複雑な教法を貫く綱要の意となったと考えられている。

仏教においても、深淵な釈迦の教えや様々な寓話を読みやすく圧縮し、わかりやすく編集する必要があった。又聞きの又聞きで冗長になってしまった話を、理解しやすい形で伝えるためにね。

これが経(スートラ)。

「法華経」とか「般若経」とか「観音経」の「経(きょう)」のことなんだ。

あ~、なんだ!スートラって、そういう意味だったんだ!

膨大な情報を編纂する「たて糸」かあ!

規定のコードで書かれた圧縮データって意味があったとはな!

古代インド人にもビックリやけど、ノーランにもビックリやで!

TARSが圧縮&変換したデータを、こんな風に光の〈たて糸〉を使って伝えるとはな!

やっとわかったか。

そもそも「たて糸」は「経糸」と書く。

そして「経」とは上下に働く力を意味する…


つまり「経」とは「重力」だ。


うわ~~~!

ノーラン天才!

いや…でも…

これボクが考えたことになるのかなぁ…

しかも宮沢賢治も『生徒諸君に寄せる』で

透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て

って書いてるし…

ふふふ。

そして「スートラ」はサンスクリット語で「sūtra」と書く。

この5文字を並べ替えると「tarsū」


つまり「TARS」だね。


TARS!君は「経」だったのか!

今日まで内緒にしてました。

ズコっ!

さて、オチも見事に決まったところで、そろそろ『インターステラー』と「法華経」の関係について話すことにしようかな。

宮沢賢治が深く帰依した「法華経」は、彼の作品の中にとてつもなく大きな影響を与えている。賢治文学の屋台骨は「法華経」思想と言ってもいい。

法華経とは、こんな教えだね。

釈尊は菩提樹下ではなく五百塵点劫という久遠の中で既に仏と成っており、人々へ真理を教えるために人間の姿をして現世に現れた。本来の姿は、空間や過去未来という時間を超えた無限の存在である。そしてこの世とは久遠の命をもつ仏が常住し、永遠に衆生を救済へと導き続けている場所である。だから一切の衆生は、仏の導きによりいつの日か必ず仏と成り、宇宙と一体化する。

一言でまとめると、こうなるな。

宇宙という現象=仏

つまり「あなたの周りには、見えないだけでいつも仏がいるんだから、あなたも必ず成仏できますよ」ってことなんだね。

なんかイエスの教えに似てる!

だから賢治は「法華経」と「キリスト教」を融合させようとしたんやな。

そしてノーランは『インターステラー』の主人公クーパーで、それを表現しようとした。

クーパーはブラックホールの中に落ち、「時空を超越した部屋」へ辿り着いた。つまり「仮の仏」となったわけだ。三次元世界の肉体を持っているから、まだ「完全な仏」ではないんだね。

そして過去の自分や娘に対してメッセージを送った。もちろん過去の自分はそれが未来の自分からのものだなんて知りもしないから、幽霊だとか宇宙人の仕業だと決めつけるんだけど、ここで「過去や未来」とか「個」という概念は完全に溶けて消えてしまった。

呼んだのも自分であり、呼ばれたのも自分なんだから。

せやったな。

それを知った時のクーパーの「あーーーー」って叫び声が何ともいえんかった。まさに「あー」としか言いようがない(笑)

これはキリスト教の「三位一体」と同じだよね。父と子と精霊が一体であるって教え。

イエスは神が人間に「愛」を教えるために遣わした分身であり、疑い深き人々にそれを信じさせるために預言を数々成就させた。その中でも最大のパフォーマンスが「死と復活」だ。神が時空を超越した存在であることを、そして神の恩恵を受けることのできる唯一の手段が「愛」であることを伝えるために、わざわざイエスという肉体を使ってドラマを演じた。

だからノーランも最後は仏組のクーパーと神組のアメリアが合流するような終わり方にした。

なるほど!

そしてノーランは、思想面だけでなく「法華経自体」をも映画の中に落とし込んだんだ。

『インターステラー』の物語は、そのまま「法華経」の構成を再現していると言っていい。

法華経には「法華七喩(しちゆ)」とか「法華七譬(しちひ)」と呼ばれる7つの例え話が挿入されている。難しい教えを、できるだけ多くの人にわかりやすく伝えるためにね。

おお!聞いたことあるで!

檀一雄の『火宅の人』やな。

その通り。

七喩その1、三車火宅(さんしゃかたく)

ある時、長者の邸宅が火事になった。中にいた子供たちは遊びに夢中で火事に気づかず、長者が説得するも外に出ようとしなかった。そこで長者は子供たちが欲しがっていた「羊の車」と「鹿の車」と「牛車」の三車が門の外にあるぞと言って、子供たちを家から導き出した。その後、長者は子供たちに最高級車「大白牛車」を与えた。

『インターステラー』の「火事」は、これだったのか!

クーパーは「愛の力」で娘マーフとチャネリングして火事を起こし、物分かりの悪い息子を外におびきだした(笑)

だね。

ちなみにこの寓話は「方便」の有用性を説いているんだ。

いくら素晴らしい真理(大白牛車)でも、受け取る側が未熟ではその価値が伝わらない。だからまずは方便(羊車、鹿車、牛車)を使ってわかりやすく教え、受け手の準備が整ってから真理を伝えよう…ってこと。

つまり…

まずクーパーは、「STAYという単語」とか「NASAの座標」とか簡単な情報を「モールス信号」や「バイナリ・コード」を使ってわかりやすくマーフに伝えた。そしてマーフが科学者として成長した後に、重力の謎を解く量子データを腕時計の針を使って伝えた…

こうゆうこと?

そうだね。

ただ…

まだ人類には「大白牛車」は与えられてないかもね。

とりあえず重力を制御する原理は理解できたけど、時空を超えるところまでは至っていない。でもクーパーがそれを体現したことで、いつか人類がそこまで到達することが明示された。

なるほど。

あれはゴールではなく、まだスタートにすぎないってわけですね。

まさに、ひとり『何も言えなくて...夏』状態ってわけや。

愛笑む『何も言えなくて...夏』

なんですかこの歌、ちょー泣ける!

1989年に戻る時に持っていきたいんで、カセットテープに録音しといてください!

できればメタルテープで!

ねえ…

この歌詞ちょっとヤバくない?

なんか『インターステラー』っぽい…

せ、せやな…

一番の歌詞は、娘マーフの部屋での出来事のことや…

「綺麗な指してたんだね」「隣にいつもいたなんて信じられないのさ」っちゅうのは、マーフ視点や。本棚の向こう側にいる父のことを指しとる。

「二人をまた、初めて会った、あの日のように導くのなら」の「初めて会った」っちゅうのは、異次元にいるクーパーが本棚の向こうの「二人」に「初めて会った」っちゅうことや。

「私にはスタートだったの、あなたにはゴールでも」は、マーフにとっては全ての始まりで、クーパーにとってはゴールやったっちゅうことや…


そんで二番は、年老いたマーフから「もう二度と会わないほうがいい」と言われた日…

せっかく会えた娘に「あなたはここに居てはいけない人」って言われてもうた。親が子供の死を看取ることほど不幸なことはないから、と。マーフにとって父との再会は、喜び以上に苦しみなんや。老いた自分が過去の姿のままの父に看取られるっちゅうことは、あってはならんことやさかいな。

そしてクーパーは「あること」を気づかされる…

「時が導く」?

まさにそうや!

「波の音しか聞こえない」?

確かに聞こえたのは「波長」だけやった…

なんやねんコレ!

さぶいぼ立ってもうたやんけ!


ははは。偶然じゃない?

さて、話を続けるよ。

七喩その2、長者窮子(ちょうじゃぐうじ)

ある長者の子供が若い頃に家出した。50年間も他国を流浪して困窮したあげく、父の邸宅とは知らず豪邸の門前にたどりついた。父親は偶然見たその窮子が息子だと確信し、召使いに連れてくるよう命じたが、何も知らない息子は捕まえられるのが嫌で逃げてしまう。長者は一計を案じ、召使いにみすぼらしい格好をさせて「いい仕事があるから一緒にやらないか」と誘うよう命じ、ついに邸宅に連れ戻すことに成功する。そしてその窮子を掃除夫として雇い、最初に一番汚い仕事を任せた。長者自身も立派な着物を脱いで素性を隠し、窮子と共に汗を流した。窮子である息子も熱心に仕事をこなした。やがて20年経ち臨終を前にした長者は、窮子に自分が父であることを明かし、財産を相続させた。

つまり「仏は常に人の傍にいて、その人が受け取る準備さえできれば、いつでも真理を授けてくれる」ってことだね。

『インターステラー』では「窮子」が息子トムと娘マーフの二人に分散したんとちゃうか?

放蕩息子だった頃がマーフで、家で汚れ仕事を黙々とするのがトムや。

そうだね。

マーフは十代後半で家を出た。それ以来ほとんど実家に帰っていなかった。久しぶりに帰って来ても、兄夫婦からは「家を捨てて好き勝手やってる放蕩娘」と冷たく当たられ、すぐに出ていってしまう。でも遠く離れた星にいた父クーパーの想いが通じて家へと引き返す。

長男トムは、宇宙へ旅立つ父から「家を守れ」と託された。そして忠実にその約束を守った。過酷な農作業、祖父の死、生まれたばかりの息子の死…数々の厳しい試練を受けたけど、トムは父との約束を守り、愚直なまでに家を守り続けた。

彼がそうしなかったら、マーフの部屋は無くなっていただろう。

いっぽう、父がマーフに望んだことは、好きな科学を勉強し、家を出てNASAへ行くこと。家族や科学を信じない世間からは孤立しても、科学の道を究めることが彼女に与えられた使命だった。

この二人の子供に与えられた使命が揃って実行されて初めて、「重力の解明」という人類の悲願が成就する。

人類が救われたのは、クーパーが二人の子供に「やるべきこと」を強く願ったからなんだ。

そう考えると、トムの描かれ方がちょっと可哀想やったな。

スペースコロニーの名前は「クーパー・ステーション」やなくて「トム・クーパー・ステーション」やろ、本来。

あのボロ家を守ったのは、トムや。

そうだよね。

クリストファー、そこのところをよく覚えておいて。

こうゆうのをメモしとくんだよ。

は、はい…

七喩その3、三草二木(さんそうにもく)

この地球上には様々な草木が生い茂っている。その草木は大きさにも大・中・小があり、性質もすがた形も成長スピードも千差万別。しかし、すべての草木に共通していることは、ひたすら雨のうるおいを欲し求めていること。そして降る雨は陽の光と同様に、どの草木にも同じように平等に降り注ぐ。ところが、それを受ける草木の方では、その大小や種類の相違によって受け取り方が違ってくる。

これはつまり…

「人は同じように真理の言葉を目の前にしても、人により、また受け取るタイミングにより、見え方や解釈が違ってくる」ってことだよね。

マーフが父のメッセージに気付けたのは、彼女がいろんなことを経験して、受け取る準備ができたからなのかな…

そうなんだろうね。

さて次は、

七喩その4、化城宝処(けじょうほうしょ)

宝のある場所(宝処)に向かって五百由旬という遥かな遠路を旅する多くの人々がいた。しかし険しく厳しい道が続いたので、疲れてしまい、皆が歩みを止めてしまった。その中に一人の導師がおり、三百由旬を過ぎた処で方便力をもって幻の城を化現させ、そこで人々を休息させて疲れを癒した。でも人々が「もう、ここでいいや」と満足しているのを見て、導師はこれは仮の城であり、本当のゴールではないことを教える。そして再び宝処に向かって出発し、ついに人々を真の宝処に導いた。

これは「天才マン博士の星」やな!

みんな偽情報に騙されて「もう、ここでええやん」ってなってもうた。

だよね。

じゃんじゃん進むよ。

七喩その5、衣裏繋珠(えりけいじゅ)

ある貧乏な男が金持ちの親友の家で酒に酔い眠ってしまった。親友は遠方からの急な知らせで外出することになり、眠っている男を起こそうとしたが起きなかった。そこで餞別代りに彼の衣服の裏に高価な宝珠を縫い込んで出かけた。男はそんなこととは露知らず、起き上がると親友の家を去り、また元の貧乏な生活に戻った。時を経て再び親友と出会うと、親友から宝珠のことを聞かされ、初めてそれに気づいた男はようやく宝珠を得ることができた。

これか!

『インターステラー』の「宇宙服の通信チップ」と『カリオストロの城』の「襟の裏に隠した宝物」の元ネタは!

だね。

「本当に大切なものは常に自分の内側にあって、それに気づくも気づかないのも自分次第」ってことだ。

大切な宝物が、自分の着ている服の内側にあったのに気付かなかった男…

さっきの歌みたいですよね…


綺麗なルビー入れてたんだね、知らなかったよ

裏地にいつもあったなんて信じられないのさ

こんなに素敵なジュエリーが俺、待っててくれたのに

”どんな悩みでも打ち明けて”

そう言ってくれたのに…♪


ズコっ!

祝・中村耕一復活!

すっかりあの名曲が気に入ったみたいだね。

でも1989年に戻っても、まだその歌を人前で歌っちゃだめだよ。

原型である『何も言えなくて』が発表されるのは、翌年の1990年だから。

タイムトラベルを利用してJaywalkingしたらアカンで。

はい。

七喩その6、髻中明珠(けいちゅうみょうしゅ)

理想の王の姿の寓話。王は戦争で手柄があった武将に、領地や宝石などを褒美として与えていた。だが自分の髪に結ってあった「明珠の飾り」だけは、なぜか与えようとしなかった。なぜなら、それはたった一つしかない最上の宝であり、もしもむやみにこれを部下に与えてしまったら、本人も当惑し、周囲にも妬まれ、様々な悲劇をもたらすだろうと考えていたからだ。しかし、比べようのないような手柄を立てた者がいたら、惜しげもなく「明珠の飾り」を与えることだろう。

これは「真理」の扱い方を喩えた話だね。

むやみやたらに「真理」を叫べばいいってもんじゃないってことだ。

相手とタイミングを選ぶことが重要ってこと。

『インターステラー』でも、そうだったね。

重力の謎を解いたマーフは最初の頃「すべて父のお陰なんです!」って言っていたらしいけど、誰も信じなかった。まだ人類は真理を受け入れるところまで行っていないからね。だからマーフは真実を語るのをやめた。そして「父は農業が好きでした。そして人類のために命を捧げた犠牲者です」みたいな「皆が求める物語」で妥協した。

オッサンはノーラン映画の真理をむやみやたらに叫んどるよな。

ほぼ誰も聞いとらんのに。

さあ、いよいよ最後の例え話だ。

七喩その7、良医病子(ろういびょうし)

ある所に腕の立つ良医がおり、彼にはたくさんの子供がいた。ある時、良医の留守中に子供たちが毒薬を飲んで苦しんでいた。そこへ帰った良医は薬を調合して子供たちに与えたが、半数の子供たちは父親の薬を素直に飲んで元気を取り戻した。しかし残りの子供たちは、それも毒だと思い飲もうとしなかった。そこで良医は一計を案じ、いったん外出して使いの者を出し、父親が出先で死んだと告げさせた。父の死を聞いた子供たちは毒気も忘れ嘆き悲しみ、そこでハッと気がつき、父親が残してくれた良薬を飲んで病を治すことができた。

これも「方便」の有用性を説いている。つまり永遠の命をもつ釈迦は、三次元世界で肉体的死を演出し、まだ悟りに遠かった弟子たちを目覚めさせたんだ。ある種のショック療法。イエスの磔と一緒だね。

『インターステラー』でも良医が出てきたね…

そして家の中の病人たちに治療を勧めたけど、信じてもらえず拒絶された…

そして外に出て、戻って来る…

そしてみんなでハッと気づく…

マーフの後ろにボンヤリ映っとるのが、恋人の良医やな。

そんで法華経と同じく、父も実は死んどらんかった(笑)

実に興味深い。

「釈迦の生涯」と「法華経の7つの例え話」を合わせたら、『インターステラー』の物語がほとんど出来上がる。あとは神組のスト―リーを付け加えるだけだ。

ほんと君ってすごいよね、クリストファー!

・・・・・

どないしたんや、少年。

はい…

あの曲の歌詞が頭から離れなくて、何も言えなくなってしまいました…

1989年に残して来たエマのことを急に思い出してしまったんです…

ビートルズじゃないけど、そろそろ「Get back to where you once belong」しないといけないかも…

エマ・トーマス(Wiki)

せやったな。

おまえらまだ出会ったばかりでホヤホヤのアツアツやったな。

水かけても離れへん犬のカップルみたいなもんや。

ああ…エマ…

ボク…元の世界に帰ります…

ほら、来年(1990年)にはゲド戦記の新作『帰還(Tehanu)』が出ることですし…

そして2001年には『アースシーの風(The Other Wind)』が出るんでしたよね?

この前は言い忘れたけど、『ゲド戦記』の新作はそれだけじゃないんだ…

えっ?

『ゲド戦記・外伝(Tales from Earthsea)』

通称…

『トンボ(Dragonfly)』が発表される…


ト、トンボ!?

そう…

クリストファー…、君が心から憧れる『魔女宅』の「トンボ」と同じ名をもつキャラクターが主人公の短編集だ。

そ、そんな…

トンボが主役の物語?

これはもうボクが映画化するしかないじゃないですか!

たいへんだ…

早くビッグになって、原作者のアーシュラ・K・ル=グウィンにコンタクトを取らなければ…

やっぱり君は、2006年のル=グウィンさんと宮崎吾朗監督が同席した試写会の場にいたんじゃない?

第6話より

ボクもそんな気がしてきました…


皆さん、短い間でしたが本当にお世話になりました!

御恩は決して忘れません。

将来映画撮っても、ワイらのことはクレジットせんでもええからな。

スペシャルサンクスとか要らへんで。

日本に来るときは声かけてね!

しっかり精進して映画道に励むんだよ。

ありがとうございます…

決してあなたたちのことは…

忘れません…

く、クリストファーっ!

・・・・・

くりすとふぁーーー!

さよ…

おなら…


プッ




ズコっ!

なんで~~~~ぇ!?

ニュートンの運動第三法則

「前に進むには、何かを後に置いていかねばならない」

だよ…


クリストファー…

君はなんという…

恐ろしい子…


ん?

なにを泣いているんだ?

BOSSはどこへ行った?

もう帰ったんや…

1989年に…

そうか。

しかしまだ私の重要な役割の「最後のひとつ」を話してなかったんだが…

げぇ!まだあったの!?

すっかり忘れてたな…

でも彼、自力で気づくと思うよ。

俺達にはちゃんと教えろ!

OK。では次回に。


ー第11話に続くー


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