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「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)&読みたいことを、書けばいい。」(第259話)


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2020年 ✕月✕日
南の島
とある施設の中


お姉さん 1

ATMがよくなる?

おかえもん 爽やか 考えごと1

そう。

TKNを食べると、ATMがよくなる。

お姉さん 1

猿ヶ島にはATMがあるの?

だけど、TKNを食べるとATMの調子が良くなるって、どういう意味?

おかえもん 爽やか 考えごと1

お金がじゃんじゃん湧いて出る。

お風呂がいっぱいになるくらい。

お姉さん 1

お風呂?

おかえもん 爽やか 考えごと1

お湯の代わりにお金を満たして、美女猿と一緒に入るんだよ。

お姉さん 1

バ、バスタブをお金で満たすってこと?

おかえもん 爽やか 考えごと1

そう、金貨のお風呂。

お姉さん 1

すごい…

何かの雑誌でそういう写真を見たことはあるけど…

あんなのは幻想、嘘だと思ってた…

まさか本当にあるなんて…

おかえもん 爽やか 考えごと1

そう、金貨のお風呂は実在した。

僕はこの目で見たんだ。

お姉さん 1

信じられない…

おかえもん 爽やか 考えごと1

だろうね。僕もこの目で見るまでは、あんなの嘘だと思ってた。

お姉さん 1

で、タカナタカナタカナの歌は、それでおしまい?

おかえもん 爽やか 考えごと1

いや。まだ続きがある。

♬TKNTKNTKN~♬
♬TKNを食べると~♬

お姉さん 1

また、このフレーズ?

今度はタカナを食べるとどうなるの?

おかえもん 爽やか 考えごと1

♬KRDKRDKRD~♬
♬KRDにいいのさ~♬

お姉さん 1

KRDにいい?





2019年9月20日 朝
スナックふかよみ


TIGER 虎 トラ 矢


おかえもん 爽やか 考えごと 汗

もちろんこれは嘘。

太宰は最初からそんなエピローグを書くつもりはなかった。

「おいおい。誰か気付いてくれよ」という太宰のメッセージだ。

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

そして、「それ」を書いた志賀直哉と…

「それ」を書かなかった芥川龍之介…

この両者の違いも、踏まえているんじゃないかしら…

ふかよママ 汗

志賀直哉と芥川龍之介?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

太宰治は『魚服記』の中で、上田秋成の存在を匂わせた。

小文『魚服記に就いて』では、創作の元ネタとして、上田秋成『雨月物語』の中の『夢応の鯉魚』と、その原点ともいえる中国の古典『魚服記』の名前を挙げている。

だけど元ネタは、それだけじゃなかったんだ。

志賀直哉の『小僧の神様』と、芥川龍之介の『南京の基督』から、太宰は着想を得ていたんだね。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

志賀直哉の『小僧の神様』?

太宰はエッセイ『如是我聞』の中で、志賀直哉と『小僧の神様』をボロクソに言ってましたが…

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

あれは愛情の裏返しだ。

そもそも太宰は若い頃に、志賀直哉を貪るように読んでいた。

志賀直哉は、あの夏目漱石や芥川龍之介からも「あんなふうには書けない」と言われるほどの才能の持ち主だったからね。

そんな文学界の神みたいな人が、若い自分のことを公然と全否定したもんだから、太宰はパニックに陥ったんだよ。

しかも志賀直哉は、太宰の作品をほとんど読んだことないと言いながら、太宰を全否定した…

そして太宰は、亡き芥川に自分を重ね、すがるようになっていく…

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

太宰は『小僧の神様』の凄さをよくわかっていたはず。

『如是我聞』ではボロクソに言ってるけど、あれは嘘。

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

そして、同じ1920年の夏に発表された志賀の『小僧の神様』と芥川の『南京の基督』は、共通点が多い。

どちらも主人公が十代半ばで、たまたま自分の前に現れた人を神だと信じるようになる。

だけど、オチの描き方だけは大きく異なっていた。

『小僧の神様』は最後に作者自身が登場し、「蛇足」と言いながら後日談を説明し、見事に話を落とす。

一方『南京の基督』のオチは、物語の枠の中で語られる。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

太宰は『魚服記』で後者を選んだわけですね。

「三日目にスワ(神)の遺体が人々の前に現れた」という後日談を語らずに。

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

それ以外にも太宰は『南京の基督』から大きな影響を受けている。

処女作品集の2作『猿ヶ島』と『魚服記』は、『南京の基督』の手法をそのまま踏襲しているんだ。

それが田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』に引き継がれ、『ライフ・オブ・パイ』につながった。

ふかよママ 汗

太宰は芥川の手法をそのまま使った?

どういうこと?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

『南京の基督』を読み解いていけばわかる。

芥川は実に興味深いことを行っているからね。

とても短い作品なので、まずは読んでみて欲しい…


<15分後>


大林少年 ティッシュ 帽子 汗

うーむ…

何とも言えない読後感です…

ふかよママ 汗

最後にヒロイン宋金花は、梅毒が消えて体がよくなっていた…

だけど聞き手の日本人は、泥酔男の正体を知っていた…

本当は病気が治っていないってオチ?

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

どう思う?

ふかよママ 汗

宋金花は、通りがかりの酔っ払い男をイエス・キリストだと思い込んだ…

そして、その後にたまたま、梅毒の症状が一時的に消える中間潜伏期に入った…

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

もしくはプラシーボ効果で治ったように錯覚しているだけとか…

科学的知識はないけど、信仰心だけは人一倍つよい…

知らぬが仏、鰯の頭も信心から、みたいな…

良介山ママ 老人 神恭一郎

馬鹿め。

なぜおぬしは、いつもそんなふうにモノゴトの上っ面しか見ないのじゃ。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

うわっつら?

じゃあ、どういうことなのですか?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

主人公の宋金花は「聴く者が神を信じるようになる話」をしたんだよ。

神を信じていなかった聞き手に対して。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

えっ?

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

だから聞き手の男は、ちょっと考えてから、宋金花へ「ある質問」をしたの…

「煩はないかい?」と…

この意味わかる?

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

ちょっと考えてから「わずらいはないかい?」と質問をした…

ふかよママ 汗

あっ…

最後の質問の前に、聞き手の男は何かを少し考えた…

そして彼女に確認するかのように「わずらい」の有無を尋ねた…

これは彼女を抱こうと考えたからだわ…

つまり聞き手の男は、彼女の話を信じたのよ…

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

うふふ。

『ライフ・オブ・パイ』とそっくりよね。

語られる2つのストーリー…

大虎と少女の「ありえない物語」と、泥酔男と少女の「残酷な物語」…

そして最後に聞き手が選んだのは…

「ありえない物語」のほう…

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

トラ? 『南京の基督』にはトラなんて出て来ませんが…

良介山ママ 老人 神恭一郎

ばかめ。泥酔男は大虎なのじゃ。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

は?

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

お酒を飲んでハメを外さない最近の若い子は、知らないかもしれないわね(笑)

昔は「泥酔する」ことを「トラになる」と言ったのよ。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

ええっ!?トラになる?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

そして『ヨハネによる福音書』で、イエスはこう言っている。


「トーラー(モーセ五書)とは私のこと」

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

あっ…

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

だから泥酔男の苗字は「マレー」だったの。

マレートラのことね(笑)

ふかよママ ああ! 汗

うそ…

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

それでは…

『ライフ・オブ・パイ』を書いたヤン・マーテルは…

芥川龍之介の『南京の基督』を読んでいると?

Yann Martel

yann martel ヤン・マーテル

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

間違いなく読んでるだろうね。

『南京の基督』では、聞き手が「日本人のライター」だった。

それを『ライフ・オブ・パイ』では、「日本人」と「ライター」に分けたというわけだ。

スクリーンショット (614)

スクリーンショット (1629)

ジョー カー 汗

なんと…

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

ヤン・マーテルは、田辺聖子から太宰治へ、そして太宰治から芥川龍之介へ辿り着いた…

最後に「日本人/ライター」が、2つの話から1つを選び、「神を信じるようになる」のは、『南京の基督』から来ていたんだ…

ふかよママ 汗

太宰治もこのトリックに気付いていたってこと?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

もちろん。

だから太宰は『魚服記』を書いた。

そして芥川の「付記」を真似て『魚服記に就いて』を書いたんだ。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

「付記」って、これのことですか?

本篇を草するに当り、谷崎潤一郎氏作「秦淮(しんわい)の一夜」に負ふ所尠(すくな)からず。附記して感謝の意を表す。

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

芥川は、わざとタイトルを間違えている。

正しくは『秦淮の夜』よね(笑)

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

わざと間違えた?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

本当に谷崎潤一郎の『秦淮の夜』から着想を得ていたのなら、きちんと正しいタイトルを書くはずだ。

だけど芥川はそうしなかった。

つまりこれは、ちょっとした悪戯、カモフラージュなんだね。

大林少年 ティッシュ 帽子 汗

カモフラージュ?

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

確かに舞台設定は『秦淮の夜』とよく似ている。

だけど本当の元ネタは別にあるんだ。

この芥川の「悪戯」を、ヤン・マーテルは『LIFE OF PI』で真似をした。

「作者 覚え書き」で『Max and the Cats』という作品の名前を挙げたんだ。

豹と少年が漂流する『Max and the Cats』と、虎と少年が漂流する『LIFE OF PI』は、一見するとよく似ている…

だけど本当の元ネタは別にあった。

田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』であり、太宰治『猿ヶ島』であり、芥川龍之介『南京の基督』だ…

ふかよママ 汗

信じられない…

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

『南京の基督』という小説は『ライフ・オブ・パイ』の原型…

聴いた者が「神を信じるようになる」物語だ…

あの短い作品の中に、芥川は様々な仕掛けを施している…

それを読み解いていこう…


TIGER 虎 トラ 矢


つづく





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