深読み バック・トゥ・ザ・フューチャーvol.5(ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㊶「Rene and Georgette Magritte with their dog after the war」XⅧ~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』第172話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
教官…
さすがにちょっと今回ばかりは…
どう考えても『Sweet Little Sixteen』は「ミーハーな女の子の歌」としか思えません…
膨大なブロマイドのコレクションが自慢で、アイドル歌手のコンサートに行くことを親にねだっている、どこにでもいる16歳の女の子の歌です…
そんな歌だったっけ?
ちゃんと歌詞を聴いてごらん。
チャック・ベリーは、そんなこと一言も歌っていないから…
そんな馬鹿な…
確かにそう歌っていたはず…
ふぉーっふぉっふぉ。
やはりまだまだ洞穴じゃ、お主は(笑)
ねえねえ岡江クン…
『Johnny B. Goode』の前に『Sweet Little Sixteen』のことを詳しく教えてよ…
「she」と歌われる「Sweet」で「Little」な「Sixteen」が「男」だなんて…
いったいこれはどういうことなの?
わかった。それでは解説しよう。
その前に、もう一度、曲を聴かせてください…
確認するために…
そうだね。
今度は「何が歌われているか」を、よく注意して聴くんだ…
アメリカの各地にいる、おませな16歳の少女たち…
有名人のサインやブロマイド写真を大量に集めていて…
大好きな歌手のライブに行くために、必死で親を説得している…
そんな彼女たちが会場に来るのを、男たちは楽しみにしていた…
うーん…
やっぱり「ミーハーな16歳の女の子」の歌にしか聞こえないわ…
そして、そんな女の子を喰っちゃおうと楽しみにしてる、ゲスい男たちの歌…
ですね…
穢れとるな、お主らの心は…
穢れきっとるわ…
え?
なぜそんなふうに聴こえる?
だって、そうとしか聞こえないでしょ?
それ以外の何物でもない歌よ。
はたして、そうだろうか?
いくつか怪しい箇所があったはずだ。
何でもいいから、歌詞の中で気になったことはなかったかな?
気になったことですか?
えーと… 確か…
羅列される町の名前が、変わっていたような…
2種類あったと思うんです…
え?そうだった?
よく気付いたね。その通りだ。
歌の冒頭と最後の〆は、
「ボストン、ピッツバーグ、テキサス、サンフランシスコ、セントルイス、ニューオーリンズ」
しかし途中では全て、
「野外ステージ、フィラデルフィア、テキサス、サンフランシスコ、セントルイス、ニューオーリンズ」
と、なっている。
ピッツバーグといえば、ジョーの御両親の生まれ故郷よね?
はい… この曲は、よく母が口ずさんでいました…
まるで子守歌のように…
しかも「ピッツバーグ」と「フィラデルフィア」には、ペンシルベニア州の略称「PA」がついていました…
なぜ、ペンシルベニア州だけ?
どうでもよくない?
いや。それが一番大事。
大事マン・ブラザーズか!
しかし、これって意味があるのでしょうか?
もちろん。意味のない歌詞などない。
というか、この歌の「元ネタ」になった作品が、あのパートに隠されているんだよ。
元ネタ?なにそれ?
それは後程。
他にも何か気付いた点はなかったかな?
あと…
一箇所だけ「Sweet Little Sixteen」ではなく「Sweet Sixteen」でした…
ドレス着て、口紅して、ハイヒール履いて、バッチリ決めて夜遊びした翌朝…
普通の少女に戻って学校に行った時だけ…
それって逆じゃない?
オトナの女みたいだった夜の彼女が「Sweet Sixteen」でしょ?
ですよね…
単純にチャック・ベリーが「little」を言い忘れただけか…
そんなわけないだろう。
これにもちゃんと理由がある。
ホントですか?
チャック本人に確かめたわけではないが、間違いない。
講釈師、見てきたような、なんとやら…
それでよい、それでよい。
ふぉーっふぉっふぉ。
では歌詞を見てみようか。
冒頭は、こんなふうに始まる…
They’re really rockin’ in Boston
In Pittsburgh, PA
Deep in the heart of Texas
And 'round the Frisco Bay
All over St. Louis
And down in New Orleans
All the Cats wanna dance with
Sweet Little Sixteen
何だか御当地ソングのフレーズを、いろいろくっつけたみたいな感じね。
ホントにロックしてたんだ
ボストン、ペンシルベニア州ピッツバーグ
ディープなテキサス、ぐるっとサンフランシスコ湾
セントルイスのいたるところ
そしてニューオーリンズへと
the Cats はみんな踊りたがっていた
スウィート・リトル・シックスティーンと…
ん?「the Cats」って猫のこと?
キャッツは猫でしょう。
だけどなんで大文字で始まるの?
何か特別な集団?
これのことでしょうか?
なんで猫人間がアメリカ各地にいるのよ。
イカした娘スウィート・リトル・シックスティーンと踊りたくてウズウズしてる「キャッツ」なのよ?
こういう人たちのことでしょ。
こういう人たちを昔は「キャッツ」と呼んでいたんですか?
まあ、だいたいそんな感じ…かな…
嘘を教えちゃいけないよ。
チャック・ベリーが歌っている「the Cats」とは、ロッカーや不良チームにありがちな「〇〇キャッツ」ではなく…
大林少年君が例に挙げた、ミュージカルにもなっている「キャッツ」のことだ。
え?
でも、時代が合わないでしょ?
ミュージカル『キャッツ』が作られたのは80年代よ…
その通り。
アンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライスがミュージカル『キャッツ』を発表したのは1981年、『ジーザス・クライスト・スーパースター』のブームが落ち着いてからだった…
チャック・ベリーが着想を得たのは、彼と同郷セントルイス出身のノーベル文学賞作家T・S・エリオットのオリジナル版『The Old Possum's Book of Practical Cats(邦題:キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法)』の方だね…
T・S・エリオット?
そうだよ。
ボブ・ディランとかポール・サイモンみたい…
チャック・ベリーのお父さんはバプティスト教会の執事で、お母さんは学校の教師だった。
チャック・ベリーのソングライターとしての才能は、こんな環境に培われたものなのかもしれない。
でも、なぜT・S・エリオットの詩から「Cats」を使ったの?
T・S・エリオットのアイデアを拝借したのさ。
「Cats」とは「Acts」のアナグラムだから。
アナグラム?並べ替えた言葉ってこと?
「Acts」とは、イエスの死後の使徒たちの行動をまとめた『使徒言行録(使徒行伝)』のこと…
「Dog」は「God」で、「Cats」は「Acts」。
これはセットで覚えておこう。
ドッグはゴッドで、キャッツはアクツ。
T・S・エリオットの『The Old Possum's Book of Practical Cats』とは、聖書を元ネタにした子供向けの童話みたいな詩集だ。
「師」であり「主」である「Old Possum」が、「Cats」つまり「使徒たち」について語るという内容になっている。
オポッサムが「イエス」ってこと?
あの大きなネズミみたいな動物でしょ?
そうだよ。
オポッサムは「復活する」動物として有名だ。
敵に襲われると「死んだふり」をして、しばらくしてから「生き返る」んだよね。
・・・・・
ちょ、ちょっと待ってください…
では、各地の「the Cats」たちが一緒にダンスを踊りたいと願っていた「Sweet Little Sixteen」とは…
決まっているだろう。
イエス・キリストのことだ。
あっ…
「SIX」には「IX」がある…
その通り。
ギリシャ語でイエス・キリストのイニシャルは「IX」だったね。
イクトゥス「ΙΧΘΥΣ」(イエス、キリスト、神の、子、救世主)の「IX」だ。
キリストの「X」は「Xmas」の「X」…
そして、歴史的に価値のある「あの時計台」が止まった時刻「Ⅹ」…
「旅の行程」が2種類あるのも、これが理由だ。
冒頭とラストの「ボストン、ピッツバーグ…」は、いわば「ダミー」といえる…
聞き手を惑わすためのね…
「Sweet Little Sixteen」が望んでいるのは「野外ステージ、フィラデルフィア…」の方なんだ…
なぜ?
だって当時の使徒たちの布教活動は野外で行われていたでしょ?
そして「Philadelphia PA」でも…
フィラデルフィアPAでも?
「PA」はペンシルベニア州ではなくて「パレスチナ」のことなんだよ。
え?
「Philadelphia PA」とは、ヨルダン川東岸にある都市アンマンのこと。
使徒たちが布教に訪れていた当時は「フィラデルフィア」と呼ばれていた。
そうだったんですか…
そして旅の行程は「down in New Orleans」というフレーズで締め括られる。
これも『the Acts(使徒言行録)』の再現だ。
「ニューオーリンズ」なんて地名、あの地方にありましたっけ?
『the Acts(使徒言行録)』の最終目的地、ペトロとパウロが殉教した地「ROMA(ローマ)」のことだよ。
ニューオーリンズがローマ?
「New Orleans」とは「新しく作られたアウレリアヌスの町」という意味。
ローマという都市は、皇帝アウレリアヌスの命で作られた「アウレリアヌス城壁」の内側のエリアのことをいう。
マジですか…
チャック・ベリー、おそるべし…
トリックが分かれば、もう簡単だ。
歌詞の続きを見てみよう。
Sweet Little Sixteen
She’s just got to have
About a half a million framed autographs
Her wallet filled with pictures
She gets them one by one becomes so excited
Watch her, look at her run
スウィート・リトル・シックスティーン
額に入ったサインを50万枚も持っていた
彼女の財布はブロマイド写真でいっぱい
1枚ずつ手にしては大興奮
見ろよ、彼女のしてることを
ちょっと…
急に何してるのよ、これ…
ナニって、決まっとるじゃろ?
チャック・ベリーも「彼女がしてることを見ろよ」と言っとる。
まったく、どんな写真を財布に入れてるんですか…
しかも額縁に入ったサインが50万枚って…
どんだけ?
あれは誇張だよ。
誇張なら「millions of」でいいじゃないですか。
なぜ「a half a million」と数を?
チャック・ベリーは「five」という単語を使わずに、「5」で始まる「ある数」を表現したかったんだよ。
だけど、それは難しい。だから「million」で誇張したわけだ…
5で始まる数?
5000だよ。
イエスは5000人の男の腹を、5つのパンと2匹の魚で満たした。
「framed」には「額縁」の他にも「人体」という意味がある。原義は「骨格に覆われたもの」だからね。
つまりチャック・ベリーが「見ろよ、彼女のしてることを」と言った「エキサイトな行為」とは、ひとりひとりに食べ物を分け与えた「パンと魚の奇跡」のこと…
『パンと魚の奇跡』
ティントレット
なるほど…
では「Sweet Little Sixteen」のセリフ部分と、その後の結末を見ていこうか…
つづく
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