最後の余談:Cars(カーズ)『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』第101話
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2019年9月19日
スナックふかよみ
うふふ。決まった(笑)
それじゃあ「最後の余談」をよろしくね、深読み名探偵さん。
わかりました…
ではまず、『Cars(カーズ)』の予告編を見てもらいましょう。
ほら!やっぱり「それ」っぽいじゃん!
うーん…
そう言われれば、そんなような気も…
この作品では「ルート66」が非常に重要な意味をもっている。
ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』と同じように、The Mother Roadこと「ルート66」が、The Father Lordを表す「全66巻の聖書」に喩えられているんだよね。
しかも制作当初は『Cars』というタイトルではなく、そのものズバリ『Route 66』という名前だった。
ほんとだ…
wikiの冒頭に書いてある…
映画の主人公、赤いボディの新人レーサー「ライトニング・マックィーン」は、もちろん「イエス・キリスト」が投影されたキャラクターだ。
ゼッケン番号が「95」なのも、それが理由。
なぜ「95」が「イエス・キリスト」なのですか?
この「95」は『トイ・ストーリー』が公開された「1995年」にちなむ数字だと聞いたことがありますけど…
『カーズ』を作ったピクサーにとって、重要な意味を持つ年だからと…
確かに『カーズ』を作ったピクサーのジョン・ラセターは、そうインタビューで言っていた。
だけど、それって「弱すぎる」と思わない?
弱い?
『トイ・ストーリー』は偉大な作品であることは誰もが認めることだけど、「その公開年を『カーズ』の主人公のゼッケン番号にしました」って、ちょっと安易だと思うんだよね…
実際、制作段階ではライトニング・マックィーンのゼッケン番号は「57」だった。
それを、わざわざ途中で「95」に変更したんだよ…
何か重要な意味が隠されていると考えるのが普通だろう。
宗教改革の始まりになったマルティン・ルターの「95か条の論題」じゃない?
聖書が全66巻なのは、カトリックじゃなくてプロテスタントだし。
ふうむ...
確かにフリードリヒ・エンゲルスの名言も、それっぽい感じがしますね。
「ルターが投げた雷がおちた。」
それも面白いけど、違うんだな…
「95」の理由は「視覚的」なものだ。
視覚的?
詳しくは後で説明する。この作品にとって、とても大事なことだからね。
では他の主要登場人物を見ていこう。
マックィーンの重要なサポートメンバーとなる「メーター」は、誰が投影されたキャラかわかるかな?
「メーター」は、車を釣るレッカー車…
特技は、バック走行…
最後にマックィーンから、空の上の旅行をプレゼントされ…
続編では、実質的な主人公…
車を釣る?
わかった! 使徒ペトロよ!
ペトロは魚を獲る漁師から、人を獲る宣教師になった!
ああ、なるほど…
「バック走行」は「逆さ十字」のことで…
『ペテロの逆さ十字』カラヴァッジョ
そして「マックィーンからプレゼントされた空の上の旅行」とは…
「イエスから与えられた天国の鍵」のことですね…
『教皇ペテロ』ピーテル・パウル・ルーベンス
そしてペトロは、イエスの物語である福音書の続編『使徒行伝(使徒言行録)』で、実質的な主人公になります…
つまり「Peter(ペーター)」だから「メーター」なのですね…
やられた。
次は、ヒロインの「サリー」だ。
彼女は、タトゥーが入ってる「ワケあり」な女…
とある事情で都会を離れ、砂漠の街ラジエーター・スプリングスでは弁護士をしている…
そして、宿屋のオーナーでもあり、マックィーンに宿を提供した…
イエスの物語のヒロインっていったら「マグダラのマリア」よね。
かつて堕落していた過去があり「罪の女」ともされる。
『懺悔するマグダラのマリア』エル・グレコ
なるほど。
福音書では、イエスがマグダラのマリアを弁護したけど、『カーズ』では逆になってるわけね。
マグダラのマリアって、宿屋のオーナーだったんですか?
その設定は、別のマリアから…
別のマリア?
ベタニヤのマリアだよ。
姉のマルタと共にエルサレム近郊の村ベタニアに住んでいて、イエスに宿を提供した。
『イエスの接待に立ち働く姉マルタと説教に聴き入るマリア』
フェルメール
そっちか!
ベタニアのマリアは、イエスの足に高価な香油を注ぎ、その足を自らの髪で拭ったんでしたね。
イエスが「油を注がれし者」つまり「メシア、キリスト」であることを暗示したんです。
そういえばさ…
「油を注がれし者」って「車」のことみたいじゃない?
あ、確かに…
ふふふ。つまり…
ライトニング・マックィーンのチーム名になってる商品、錆止めオイル「Rust-eze(ラスティーズ)」とは…
「油を注がれし者メシア、キリスト」という意味。
うまい!
最後はドック・ハドソン…
ドックは、かつて前人未到の三連覇を成し遂げ、人々から称賛されていた伝説的なレーサーだった…
最後にチャンピオンになったのは53年で、翌年に大事故が起きる…
その後は、人目を避けて荒野へ向かい、ラジエーター・スプリングスでひっそりと暮らしていた…
ドックは、ライトニング・マックィーンに対して、荒れた道路の整備を命じ、その後はメンターのような存在になる…
さて、誰がモデルかわかるかな?
簡単よ。洗礼者ヨハネでしょ。
『洗礼者ヨハネ』サンドロ・ボッティチェッリ
51年52年53年に三連覇して54年に大事故を起こす…
ドックに「50番台の数字」が関係するのは、哀しみの子イエス・キリストの降臨を預言した『イザヤ書』を想起させるためですね…
『ヨハネによる福音書』で洗礼者ヨハネが引用した『イザヤ書』の有名な預言、
「主の道を整えよ。荒地で、私たちの神のために、大路を平らにせよ」
を導き出すため…
その通り。
ちなみに、物語の舞台である「ラジエーター・スプリングス」という町の名前も、「そのまんま」よね…
「radiate」とは「あまねく広がる」という意味で、「spring」は「湧き出る泉」という意味…
どちらも「イエス・キリストの教え」のこと。
『カーズ』シリーズは何度も観てるはずなのに、まったく気付きませんでした。
なんてこった…
で、ライトニング・マックイーンが「95」である理由は?
それはオープニング・シーンから導き出せる。
ライトニング・マックィーンの語りから始まる、あの有名なオープニング・シーン?
そう。
あのオープニング・シーンは、ハッキリ言って、すごい。
真っ暗な輸送トラックの中から登場するまでの、わずか1分足らずの短いシーンの中に、とんでもない量の情報が落とし込まれているんだ。
『怒りの葡萄』のジョン・フォード監督もビックリのね…
確かに「95」が、どアップで映るわ。
あの映り方、ちょっと意味深かもだけど、だから何だっていうの?
このライトニング・マックイーンのセリフって、意味不明ですよね?
レースの車は「36台」なのに「42台」とか言ってますし。
しかも「朝飯を食べてなかった」とか、どうでもよくないですか?
ちゃんと意味があるんだよ。
「42」も「抜いた朝メシ」も…
意味がある?
あっ…
「42」って、まさか…
では、この素晴らし過ぎるオープニング・シーンを、順を追って解説しよう。
まずは真っ暗闇の中で、ライトニング・マックィーンが深呼吸して語り始める…
「OK。さあ行くぞ。集中しろ。SPEED。俺は、SPEED…」
SPEEDは、仁絵、まる子、絵理子、寛子。
なんで、ちびまる子ちゃんが入ってるのよ。
そして、こう続く…
「勝者は1人。敗者は42。俺は敗者を朝メシに食う…」
ああ…
「42」は『マタイによる福音書』第1章に出てくる「14+14+14」ですね…
神に祝福されたアブラハムから数えて42代目がイエス…
1:17
だから、アブラハムからダビデまでの代は合わせて十四代、ダビデからバビロンへ移されるまでは十四代、そして、バビロンへ移されてからキリストまでは十四代である。
そっか。イエスは「LOSER」だもんね。
そしてイエスは「私の肉を食べなさい」と言った…
だからマックィーンも「42を食べる」と言った。
なんてこった…
さて、自分が発した「朝メシ」という言葉のせいで、マックィーンの思考は脱線してしまう。
「朝メシ? 待てよ。そういえば俺、朝メシ食べてなかったな。軽く食べといたほうがいいかも… NO NO NO。集中しろ。SPEED」
わかった!
イエスが朝御飯を食べていなかった日といえば…
深夜未明に逮捕されて、そのまま早朝に裁判することになった、処刑の日よ!
だからマックィーンは、慌てて思考を打ち消したのです…
彼の物語は、まだ始まったばかりですからね…
そういうことだったのか…
そしてマックィーンは、あらためて自分にこう言い聞かせる。
「俺は有り得ない速さ!俺は有り得ない素早さ!俺はライトニングだ!」
このジョーク、わかるかな?
ジョーク?
『マタイによる福音書』の、イエス誕生秘話でしょ。
やることが早過ぎて、あやうく家庭崩壊になるところだったわよね…
1:18 イエス・キリストの誕生の次第はこうであった。母マリヤはヨセフと婚約していたが、まだ一緒にならない前に、聖霊によって身重になった。
1:19 夫ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した。
まさにライトニング、電光石火の早業です…
『受胎告知』フラ・アンジェリコ
ここで輸送トレーラーのマックが、中のマックィーンに「準備はいいか?」と声をかける。
そして後尾ハッチが開けられ、サーキットの光が差し込んでくるんだ。
それまでBGMは無音だったけど、ここからシェリル・クロウの『REAL GONE』のイントロが流れて、一気にテンションが上がっていく。
「リアル・ゴーン」って、どういう意味?
本物のゴーンさん?
「マジ卍!どんだけ~!?」って意味よ!
ホントに?
「超ヤバい・マジぶっ飛んでる」って意味だから、まあ、そんな感じよね(笑)
光に照らされたマックィーンは、タメまくって「Oh~ Yeah~」と言う。
この「イェー」は、当時イエスが呼ばれていたヘブライ語名「イェーホシュア」かアラム語名「イェーシューア」、もしくはギリシャ語名「イエースース」を想起させるためのものだ。
そしてエンジンをかけたマックイーンは、ゆっくりとトレーラーから外の世界へ向かってゆく。
ここでようやく「95」が大きく映し出される…
なんだろう「95」って…
教官は「視覚的な理由」だと仰ってましたが…
その答えは、先程の『マタイによる福音書』の続きにヒントがある。
ヨセフは、婚約者マリアの妊娠を知って、離縁を決意した。
だけど、天使から妊娠の意味を告げられ、生まれてくる子に「イエス」という名をつけるように指示される。
『マタイによる福音書』
1:20 彼がこのことを思いめぐらしていたとき、主の使が夢に現れて言った、「ダビデの子ヨセフよ、心配しないでマリヤを妻として迎えるがよい。その胎内に宿っているものは聖霊によるのである。
1:21 彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである」
『カーズ』の冒頭シーンでは、真っ暗なトレーラーの荷台がマリアの胎内で、ライトニング・マックィーンが赤子イエスに喩えられているんだ…
だから「95」なんだよ。
わけわかめ。
どういうこと?
詳しく教えて、岡江クン…
ヘブライ語で「JESUS」は…
こんなふうに書く…
これを縦にすると…
「95」のように見えるんだよね…
なんと!
たしかに「95」っぽく見えるわ…
何なのコレ…
「JOHN」の話も、しておいた方がいいのでは?
今度はジョン?
実は、いま解説した『カーズ』のオープニング・シーンは…
『マタイによる福音書』だけじゃなくて、『ヨハネによる福音書』の冒頭も再現しているんだ…
また『ヨハネによる福音書』ですか?
冒頭、真っ暗闇の中、ライトニング・マックィーンが語る「言葉」で物語は始まった…
これはまさに『ヨハネによる福音書』の冒頭と同じ…
1:1 初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。
1:2 この言は初めに神と共にあった。
1:3 すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。
1:4 この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。
1:5 光は闇の中に輝いている。そして、闇はこれに勝たなかった。
ホントだ…
『ヨハネによる福音書』は、こう続く…
1:6 ここにひとりの人があって、神からつかわされていた。その名をヨハネと言った。
1:7 この人はあかしのためにきた。光についてあかしをし、彼によってすべての人が信じるためである。
1:8 彼は光ではなく、ただ、光についてあかしをするためにきたのである。
あの冒頭シーンに「ヨハネ」は居ないわよね。残念だけど。
それが、いるんだよね。
え?
「ヨハネ」は「光」である「イエス・キリスト」について語るために来た、と書かれている。
つまり「ヨハネ」は、「ライトニング・マックイーンの物語」を語る役割なんだよ。
だ、誰のことですか?
『カーズ』を語る「ヨハネ」は、二人いる…
二人?
John Lasseter(ジョン・ラセター)と…
Joe Ranft(ジョー・ランフト)です…
John も Joeも Johannes(ヨハネス)が原型の名前ですね…
また「作者ヨハネ」じゃん…
『ライフ・オブ・パイ』のヤン・マーテル…
そして『怒りの葡萄』のジョン・スタインベックとジョン・フォード監督…
どんだけ!?
シェリル・クロウの『REAL GONE』についても話していいかな?
あの歌は、『怒りの葡萄』の冒頭シーンで流れた『A-TISKET, A-TASKET』と、全く同じ働きをしているんだ。
てゆうか、欠かせないでしょ、あの歌は…
出だしのフレーズが最高過ぎる(笑)
出だしのフレーズ?
『A-TISKET, A-TASKET』は、出だしのフレーズで、聖書の重要アイテム「契約の箱」を表現していた…
そして『REAL GONE』も同じように、出だしのフレーズで、とある聖書の重要アイテムを表現しているんだ…
わかるかな?
I'm American made, but I like Chevrolet.
私はアメリカ産。だけどシボレーが好き
これはアメリカ車「Chevrolet」がフランス語であることのジョークですよね?
他に何の意味があるのですか?
てゆうかさ、ライトニング・マックイーンはシボレーじゃないでしょ?
そもそも歌詞が、おかしくない?
そんなことないよ。ここはシボレーじゃなきゃいけないんだ。
歌詞を書いたシェリル・クロウは、この映画の主旨をよくわかってる。
どういうこと?
シボレーのマークだよ。
この形を想起させるために、シボレーという名前を出したんだ…
ああっ!十字架!
ホレボレするくらい完璧な出だし(笑)
『カーズ』が車の話に偽装したイエスの物語だから、ちゃんとそこに合わせているのよ。
そういえば、3番の猫の歌詞も妙ですよね…
There's a new cat in town
He's got high paid friends
Thinks he's gonna change history
You think you know him so well
Yeah you think he's so swell
But he's just perpetuatin' prophecy
「new cat」が街にいる
奴にはハイソな仲間たちがいて
自分が歴史を変えるんだと思ってる
あんたも奴のことをよく知ってるようだ
奴のこと最高だと思ってるよな
奴はまさに永久的な預言
「new cat」はイエスってこと?
そうだね。
「New Catholic(新しいカトリック)」の省略形かな。
新しいカトリック? なにそれ?
「Catholic」というのは、そもそも「普遍のもの」という意味だ。
今から二千年前にイエスは、旧約世界に「新しい普遍」である「新約」をもたらした。
だから「New Catholic」。
なるほど…
本当は「new dog」だけど、それを「new cat」と歌った可能性もありますよね…
「dog」は「God」の隠語ですから…
んもう!マッキーじゃないんだから!
『カーズ』は話すとキリがないな。このへんで終わりにしよう。
ご清聴ありがとうございました。
じゃあ、今夜の深読み談義は、これでお開き?
そうなるね。
何時間やってたんでしょう…
7時間? いや8時間かな?
そういえば、電気…
てゆうか良ちゃん、どこ行っちゃったの?
そうだった…
良ちゃんママのこと、すっかり忘れてたわ…
カランカラン♫
(ドアの開く音)
あれ? ヒロノブさん?
遅くなりました…
というか、お店、どうしたんですか?
原因不明の停電なのよ。もう何時間も、ずっとこう…
困っちゃうわよね。
なるほど。それでロウソクの灯りで…
そんな入口に突っ立ってないで、こっち来たら?
暗いでしょ?
はい… それでは…
きゃっ!
・・・・・
黄金色に照り輝いている…
いったいどうしたんですか、その顔色…
・・・・・
つづく
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