第116話「ポール・サイモンの ONE-TRICK PONY ⑤ ワン-トリック・ポニー」
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2019年9月19日
スナックふかよみ
では、アルバム『ONE-TRICK PONY』の3曲目に行こうか。
表題曲でもある『ワン-トリック・ポニー』だ…
Paul Simon『ONE-TRICK PONY』
カッコいい曲。アタシ大好き。
あの…
深代ママさん…
なあに?ヒロノブさん。
ドリンクお願いします。
ウォッカのパイナップル&ココナッツジュース割りで。
「チチ」ね。かしこまり~
あたしも同じの貰おうかしら…
OK、じゃあまずヒロノブさんから…
はい、どうぞ…
あ、どうも…
おっと…
きゃっ!
(ビシャッ!)
・・・・・
ご、ごめんなさい!
あらあら。チチまみれ。
チチもしたたる、いい男。
心が広いなあ。普通なら怒ったりしてもオカシクないのに。
柔和なんです。乳だけに。
服を脱いだ方がいいかも。風邪ひいちゃう。
そ、そうね…
ヒロノブさん、服を…
・・・・・
は、早っ!
ヒロノブさん…
ぜ、全裸は… ちょっと…
安心してください。大事なところは隠してあります。
ホタテ貝で。
た、武田久美子みたいに?
いかにも。
だけどさ…
全身ゴールドで、なんかC-3POみたい。
というよりも…
私はゴールドフィンガーになりたい。
うまい。山田くーん!
ねえ、ヒロノブさん…
脱いだ服、こっちに渡してもらえる?
とりあえず干さないと…
そうですね…
すぐ干さな、あかん。
よいしょっと…
こうやって干しとけば、乾くかしら?
もっと高いところに干さな…
え?
温かい空気は上のほうに溜まっている…
だからもっと高いところに干したほうが早く乾くと思うわ。
あ、そっか。
こうね…
・・・・・
何か、言いたいことでも?
い、いえ… 何でもありません…
うふふ。
・・・・・
じゃあ『ONE-TRICK PONY』の話に戻りましょ。
英語の歌詞はこんな感じ。
「ワン-トリック・ポニー」とは、ポール・サイモン演じる主人公「ジョナ」のことであり、ポール・サイモンのアイドル「イエス・キリスト」のことでしたよね?
その通り。
ポール・サイモンは16歳でレコードデビューした時から、身長が低いことを自虐ネタにしてきた。
アート・ガーファンクルとのコンビも、最初は「トムとジェリー」という名前だったからね。
もちろん背の低いポールが、ネズミのジェリーだ。
そして初主演映画で自分が演じる主人公を「ポニー」に喩えた…
ポニーは小さな馬だから…
その通り。
そしてイエス・キリストの象徴も「小さな驢馬」だ。
イエスはエルサレム入城の際に、わざわざ子ロバを呼び寄せて、その背に乗って門をくぐった…
『キリストのエルサレム入城』
ジョット・ディ・ボンドーネ
『マタイによる福音書』第21章ですね。
21:4 こうしたのは、預言者によって言われたことが、成就するためである。21:5 すなわち、
「シオンの娘に告げよ、
見よ、あなたの王がおいでになる、
柔和なおかたで、
ろばに乗って、
くびきを負うろばの子に乗って」
そういえば今回、『マタイによる福音書』が多くない?
1曲目『Late in the Evening』も、そうだったじゃん。
そうなんだよ。
『ONE-TRICK PONY』というアルバムは『マタイによる福音書』を基に作られている。
だから主人公ジョナの息子の名も Matty(マティ)…
あの子、マティ君っていうんだ。
「マタイ」の英語形が Matthew(マシュー)…
その愛称が「Matty」です…
なるほど。
ポール・サイモンって「マタイ」が好きよね。
『American Tune(アメリカの歌)』でも、バッハの『マタイ受難曲』のメロディを使ってた。
Paul Simon『American Tune』
バッハ『マタイ受難曲』
「血潮したたる 主の御頭」
ちなみに『American Tune』は、ダニエル・エスピノーザ監督作品『LIFE』の元ネタだ。
話を戻すわよ。
イエスが子ロバの背に乗って、ゆっくりとエルサレムに入っていったのは、「十字架刑」の伏線でもあったのよね…
「イエスを背負う子ロバ」は「十字架を背負う子イエス」の投影だった…
『ゴルゴダの丘への道』ソドマ
その通り。
だから、歌はこんな歌詞で始まる。
He's a one-trick pony
One trick is all that horse can do
彼はワン-トリック・ポニー
馬鹿の一つ覚え。馬だけに
ですよね。
表向きはそうだけど、ダブルミーニングを訳すとこうなる。
彼はイエス・キリスト
昔からずっと十字架に掛けられた姿
は?
「horse」がポイントだ。
「horse」という単語には「馬」の他に「木で作られた、高い場所に何かを掛ける台」という意味がある…
十字架じゃん!
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
カズオ・イシグロの小説『日の名残り』の最初のシーンが…
書架に架けられた脚立に上っている執事スティーブンスと、それを下から見ている館の主の描写から始まるのと一緒…
映画版では「horse」そのものになったけど(笑)
まさにそれ。
カズオ・イシグロはポール・サイモンの『ONE-TRICK PONY』から着想を得たのかもしれません。
だから次のフレーズなのか…
He does one trick only
It's the principle source of his revenue
イエス・キリストは人間の原罪を背負い十字架に掛けられた救世主…
この「1つの公理」で、ここまで「食べて」来ました…
そしてポール・サイモンは1番をこう締めくくる。
彼の姿がスポットライトに照らされる時
君も彼の熱いハートを感じるだろう
まるで込み上げてくるように
確かにクリスチャンじゃなくても…
何か込み上げてくるものがあるわよね…
次は2番を見てみようか。
1番では「ポニー」が「いつも同じ技」しかしていないと歌われたけど、2番では「別の2つの技」が歌われる。
つまり「十字架」以外の「2つの技」だ…
まず1つめは、彼のダンス。
「左右に宙返り」と歌われます…
そして2つめは、彼の歩き方。
「氷上や空中を滑るような、なめらかな足取り」だと歌われます…
あっ!わかった!
2つめの技は、コレのことでしょ!
『ガリラヤの海の上を歩くイエス』
ウィリアム・ホール
『マタイによる福音書』第14章ですね…
14:25 イエスは夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた
14:26 弟子たちは、イエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声をあげた。
14:27 しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、「しっかりするのだ、わたしである。恐れることはない」と言われた。
1つめの技は何かしら?
左右に宙返り?
たぶんコレのことだろうね。
左右にモーセとエリヤを従えて宙に浮いた「変容」の奇跡…
『キリストの変容』ラファエロ・サンティ
こちらは『マタイによる福音書』第17章です…
17:1 六日ののち、イエスはペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄弟ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。
17:2 ところが、彼らの目の前でイエスの姿が変り、その顔は日のように輝き、その衣は光のように白くなった。
17:3 すると、見よ、モーセとエリヤが彼らに現れて、イエスと語り合っていた。
だから2番の最後のフレーズは「He turns that trick with pride」なのね。
「変容」だけに。
そういうこと。
そしてCメロ。いつものごとく「タネあかし」のCメロだ。
ポール・サイモンはこう歌う…
彼はいとも簡単にやり遂げる
彼はとてもカッコいい
なぜなら「彼」は…
moves like God's immaculate machine
神の完全なる計画に従って行動している
からだと。
モロに言っちゃってるじゃないですか。
それがCメロの役割(笑)
今まで紹介した曲も、そうだったでしょ?
昔の曲にはよくあった、歌の前の語り「VERSE(ヴァース)」も同じ役割よね。
あ、そうでした…
ポール・サイモンは、こう続ける。
彼という存在は僕にこんなことを考えさせる
なんて僕はあくせくしてるんだろうと
なんて僕は無様な生き方なんだろうと
たくさんの芸をカバンに詰め込んで
その日その日を何とか食いつなぐ
「新作」を発表するわけでもなく、約二千年間「同じ歌」を歌い続け、人々の尊敬を集めるイエス…
かたや、手を変え品を変え、人々に飽きられないようにしなければならない自分…
だから「僕」は「ワン-トリック・ポニー」のことを羨ましく思うわけだ。
そして最後は3番ね。
ポール・サイモンは、こんなふうに歌うわ…
He's a one-trick pony
He either fails or he succeeds
彼はワン-トリック・ポニー
見捨てられたり
復活を果たしてみたり
だね。
次のフレーズも面白い。
He gives his testimony
Then he relaxes in the weeds
彼の「証言」が述べられ
「草」の中でリラックス
何ですか、これ?
また「草」のハナシしてる…
1曲目『Late in the Evening』の「J」と同じね。
ここでの「草」とは、これのこと。
『幼子キリストの降誕』
ヘラルト・フォン・ホントホルスト
そして「testimony」とは「Testament」のこと…
テスタメント?
どちらもラテン語の「testimōnium」が語源で「証言・あかし」という意味だ。
ちなみに「Testament」は「聖書」のことでもある。
聖書とは、救世主イエスの「あかし」を、目撃者が「証言」したものだからね。
なるほど。確かに。
そして、こう〆られる…
He's got one trick to last a lifetime
But that's all a pony needs
彼のもつ「ワン-トリック」は「終わりの日」まで続く
それがポニーに求められるもののすべて
イエスが自らの命を差し出してまで見せた「愛」のあかしは…
「最後の審判」の日まで続くってことね…
We’re doomed!
え?
C-3POの口癖だよ。
「doom」は「Doomsday(最後の審判の日)」の「doom」…
「世界の終わりだ!」って意味。
Thank the maker!
そうね。うふふ…
・・・・・
さあ次は4曲目!
めっちゃ切ない歌だわよ!
『How The Heart Approaches What It Yearns』
「どうしたらこの想いを伝えられる?」って感じ?
あ、そうですね…
ポール・サイモンが「好き過ぎる想い」をどうやって伝えようか悩む歌です。
ホント、どうやったら伝わるのかしら…
え?
はいはい。それじゃあ始めましょ。
A面4曲目『How The Heart Approaches What It Yearns』の…
ふ、か、よ、み(笑)
んもう…
つづく
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