「クアドラプル・ミーニング(神業レベル)」『バベットの晩餐会』徹底解説:第五章・中篇
さて、第五章「STILL LIFE」の続きを見ていこう。例によって無駄話はナシで進めるよ。
第五章の前篇はコチラ!
バベットがルター派プロテスタントの「しきたり」を、一週間悩んだ末に「形だけ」受け入れたところからやな。
そうだったね。
姉妹がバベットに実演して見せた「split cod(タラの開き)」と「ale-and-bread-soup(エールとパンのスープ)」とは、「Godを父と子に二分割すること」と「主の血と肉を体内に入れる」というキリスト教の教えや儀式のことだったんだ。
バベットは信仰心の高くはない世俗的なユダヤ人だったんだけど、さすがに突然「これをやれ」と言われて「はい」とは言えない。おもわずドン引きしてしまったんだね。
でも他に行くところはないので彼女は悩んだ。だから受け入れるまでに一週間もかかったんだ。
なんかオイラの知ってた『バベットの晩餐会』とは全然違うな。
翻訳版はそこのところがすっぽり抜け落ちているからね。
練りに練られた他言語の文章を日本語に変換するのは実に難しい。
イサク・ディーネセンの作品は言葉遊びだらけで、全編に渡ってダブルミーニングやトリプルミーニングが駆使されているので、なおさらなんだ。
しかもなぜか「そういう作家」だと思われていないから事態はより深刻ともいえる。
ルイス・キャロルやジェームズ・ジョイスみたいに、読み手が「そのつもり」で作品に向かうわけじゃないからね…
なるほど。まさにカズオ・イシグロと一緒だな。
さて、姉妹には他にも心配があった。
フランス人は贅沢で浪費癖のある美食家だと父に聞かされていたからだ。
あれ?
「カエルを食べるようなフランス人に料理なんか出来るわけがない」と思ってたんだよね?
支離滅裂だな(笑)
イサク・ディーネセンの描く姉妹は、かなりの「痛い系」なんだよね。
世の中のことなんて何も知らないくせに、幼い頃から信者たちに「生ける女神様」みたいに祀り上げられているので、その気になって自分たちを「聖人候補生」くらいに思っているんだ。
だけど姉マチーヌは透視能力で男性のオチンチンを見てたり、妹フィリッパは中年歌手パパンとチョメチョメしたことを何食わぬ顔で隠していた…
そのギャップが面白いんだよ。超ウケるよね。
なるほど、そうゆうキャラか。
さて、ここでイサク・ディーネセンは、バベットの初日の出来事について言及する。
なんで初日の話に戻るんや?
第五章の始めにバベットが「仕事」を受け入れてく過程が描かれてたやんけ。
ここからは「なぜ受け入れることが出来たのか?」が描かれるんだよ。
要は「表向きは姉妹の指示に従ったけど、裏では何が起こっていたのか?」ということだね。
まず、こんなことがあった。
家政婦としての初日の作業に入ったバベットを、姉妹はわざわざ呼び寄せ、前に立たせてこんなことを言い聞かせる…
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