2023年J1第33節横浜FC-湘南ベルマーレ「アンデッド ~まだ死んでいない~」
試合後のセレモニーで社長や四方田監督が挨拶をするがどうも歯切れが悪い。勝っていたら最終節自力残留がつかめるので意気軒昂にコメントすることもできたし、降格がこの節で決まっていたらそれはそれで「降格させて申し訳ない」と紋切り型のコメントを聞くことをできただろう。湘南との直接対決に敗れ、残留の可能性は限りなく小さくなった後のコメントはまるで頭に響いてこない。心と体がまるで分離してしまっているようだ。降格が決まってほしいとは思わないが、この虚ろな空間は全てが空しく感じた。
木漏れ日
この日は横浜のホームゲーム最終日。そして17位の湘南とのゲームであり、スタジアムの熱気も高く非常に良い雰囲気でゲームが始まった。両チームのテンションも高く、激しいゲームとなった。
ただ、試合の主導権は横浜が握っていた。負けなければ良く最悪引き分けでも良い湘南と勝つしかない横浜ではリスク管理も違い、湘南は横浜が攻撃の蓋をするとビルドアップしなおして作り直してもよかった。
湘南はサイドの攻撃は右の杉岡は林がほぼストップ。彼が抜け出す可能性があったのは、中盤に預けて裏に走り出すくらいしかなく、そこを吉野や林が縦を切ると湘南の右サイドはほぼ封殺できていた。逆のサイドも山根、岩武が身体を張り、湘南・大橋へのボールを遮断し、湘南の前半のシュートはゼロに。
相手の攻撃をストップして横浜は相手の攻撃を剥しにかかるが、湘南は思ったよりも前がかりにならず、最後の一線一枚で跳ね返されてしまう。ヒアンがカウンター気味に抜け出して、追い越すカプリーニにパスが出ても対面している相手選手がいて引っかかってしまう。
それでも、ヒアンが抜け出してシュートを放ったり、小川のボレーシュートもあったりと横浜の感覚としては押し気味に進めていて、得点こそないが不満も少なかっただろう。ただ、それでは相手を殺すことはできないのだが。
暗がりに迷い込む
まだ相手を仕留めていないが、流れは横浜にある。そうして始まった後半開始直後に落とし穴が口を開けてまっていた。セットプレーの流れで、ボールを一度ディフェンスラインに下げた湘南。カプリーニも距離があるので様子を伺いながらスライドしていた時、湘南・池田がそれまで湘南が仕掛けてこなかったロングシュートを放つ。これをGK永井がセービングで防ぐものの前線に残っていた湘南・大岩に押し込まれて失点してしまう。
後半開始4分で全体的に空気がスタンド含めて温かった時だ。カプリーニがスライドしていた時、私は「上げないと。カプリーニも守備が得意な選手ではないし」と言っていた矢先の失点劇だった。
横浜の隙を伺ってボールを失わないことと、繋ぐよりも大きなボールを蹴って剝がしに来ていた湘南のこれまでのプレーの内容から意表を突かれたのか。
相手がセットプレーの崩れでボールを戻した際に、ほぼ誰もプレッシャーにいっていない。カプリーニが右サイドにいた以外はほぼ全員ディフェンスラインに残っていた。コースやスピードがよかった部分はあるが、横浜は準備が出来ていなかった。
そして、逆転を期して近藤と伊藤を投入。横浜は負けられない。このハーフタイム時点では柏が勝っている。このままでは降格が決まるのだ。
焦燥感と期待感と
近藤が入って右サイドが活性化するかと思えばそうでもない。5バックで前半よりもさらにしっかりと守りを固める湘南の守備陣を破れない。近藤の突破は、ドリブルを仕掛ける最初のタッチで相手を置き去りにするパターンだが、そのタッチを読まれてサイドライン際に寄せられると何度も相手に引っかかってしまう。
残り時間はあっという間に減っていく。U22日本代表に選出されている近藤にかかる期待は大きい。前節の鳥栖戦では一人で相手守備陣を切り裂いて一人でゴールを決めている。「近藤なら」という期待も徐々に萎んでいく。
湘南は1点先制して後ろをしっかり固めて前線へのカウンターでゲームを終わらせに来ている。それを横浜の選手たちも理解しているが、そこのせめぎあいで簡単にボールを奪えないままだ。
坂本を入れて三田もいれ、最後には3バックの吉野を下げて橋本を入れてでも強引に湘南ゴールをこじ開けに行く横浜。ボニフェイスはもう上がったままだ。カプリーニがスタンドを煽る。跳ね返される度に横浜側のスタンドからは悲痛な声が聞こえる。
でも、これは戦いなのだ。歴史なのだ。苦しくても目を逸らせてはならない。苦しくても乗り越えないといけない。これが生き様なのだ。歴史を変える、塗り替える覚悟があるなら、一緒に戦う。
今年1年のことがふと脳裏をよぎる。「踏み絵」だった最初のミーティング、10試合負けなし、主将ガブリエウ負傷離脱、5バック転換、小川航基移籍、長谷川竜也移籍、夏の補強なし、首位チーム撃破、横浜ダービー勝利、YOKOHAMA Oi!の圧、紆余曲折ありながら戦ってきた証がここにあった。
2021年の降格の際も湘南に逆転負けをしてあそこで勝負が決まったようなものだ。そしてあの試合でもガブリエウは負傷交代してから失点している。横浜の降格の陰に湘南あり。歴史を塗り替えようとした時に、湘南がそれを阻んで歴史を繰り返させる。
まだ死んでいない
6分と示されたアディショナルタイムはとっくに過ぎているはず。中村太主審の丁寧な時間の確認は、横浜に与えられた幾ばくかの猶予。でもその時間を消費しても、湘南のゴールネットを揺らすことが出来なかった。
0-1
湘南に敗れる。残酷なほど静まり返る横浜のスタンド。ここで降格が決まっている訳ではなく、柏は鳥栖に引き分けた。勝ち点3差で得失点差が12。事実上の降格と言いたいが、それをグッと飲み込んだ。外野から言われるなら仕方ない。でも終わってないものを自分たちから終わりとは言いたくなかった。アンデッド。数字という生命は失われても、心はまだ死んでいない。死にきれない。思いだけが三ッ沢の宙を舞う。
最終節はまずは勝って終わること。来年につながるかどうかはわからない。それでもここで1年戦った記録、そして記憶は美しくありたい。
これから選手の移籍も始まり、出会いと別れの季節になり、来年への編成も始まる。三ツ沢に棲む地縛霊をまずは成仏させてほしい。
また来年甦るから。
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