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2024年J2第10節横浜FC-藤枝MYFC「Easy Come, Easy Go」

後半17分になるまで横浜は前半の中盤からずっと耐える試合を続けていた。「耐える」の表現は、藤枝にボールを握らせたと見るか、握られたと見るかによって異なるだろう。私は前者として見ていた。
前線の3人が藤枝のビルドアップを限定し、後ろも決定機そのものはほぼ許していない。事故でもない限りは失点しないだろうと見ていた。ただ、それだけでは心許ない。事故はどんな盤石な状況でも起こるので時間を考えるとまだ追加点は欲しい。局面を変える必要がある。四方田監督がそれを選んだが、後半17分の一気の3人交代だったのだろう。

天と地と

前半10分に横浜は幸先よく先制する。福森のゴールまで距離のあるFKに合わせたのはボニフェイス。飛び蹴りするように合わせてゴールに流し込んだ。福森は岡山戦でも3アシストを記録するなど、左足の高精度のキックはこの試合でも発揮。こうしたキックを何度も見せられると相手チームとしては、ペナルティエリア付近どころかゴールから遠い距離でチャンスをファウルでつぶしたとしても失点への緊張感は続くことになる。福森が口にしていた様に、スカウティングで相手の穴を見つけていることもセットプレーからゴールを奪えている強みにつながっているのだろう。

ただ、先制点を挙げたのが前半10分だったが、その後横浜は次第に停滞するようになっていった。余裕ではなく、藤枝の攻撃を受け止めてしまった。それは、王者の貫禄でもなければ守備が良いからでもなく、藤枝の強度の問題に起因すると考えている。2週連続で横浜は初物との対決を迎えたのだが、藤枝の方が戦術が洗練されているが、いわきより強度が低いと感じていた。中盤でのボールの奪い合いも横浜には悪くない。ボールを運ばれているが、ペナルティエリア付近、所謂バイタルエリアと呼ばれるようなところでヒヤッとするシーンもほとんどなかった。

逆に横浜はボールを奪った後の、その先のプレーに意思統一がなくサポートで走る選手も少なく、結局ストップしてゲームを作り直したりと自分たちでリードしている強みを守りにしてしまい、自分たちでボールを相手に渡してしまった。

懐メロ

今シーズン、横浜は試合のハーフタイムに選手の推し曲を流している。この試合ではGK市川の選曲でB’zの「Easy Come, Easy Go!」だった。リリースされた34年前に市川は生まれてもいない激渋な選曲だったからか、はたまた観客の年齢層がドンピシャな方が多かったからかスタジアムがドッと沸いたのを覚えている。「Easy Come, Easy Go」の意味は勘違いされやすいが、「気楽に行こう」ではない。「得やすいものは失いやすい、つまり得られにくいものは失いにくい」勝ち点3は得るのは大変だが、その経験や積み重ねたものは簡単にはなくならないという事だろうか。勘違いしてはいけないよという市川からのメッセージだったのかもしれない。

形は見えないが

後半も開始からボールを握るのは藤枝。横浜は自陣に釘付けのまま。流れが良くはないが、失点する空気もないフワッとした時間が後半過ぎていく。

後半17分横浜が3人の選手交代で動く。サポーター的にはこれでも十分と考えていても、勝敗の責任はチームを預かる指揮官にのしかかってくる。リスクは排除したい。シャドー2枚と負傷から復帰したての井上を変える。井上は負傷再発のリスクを懸念し、シャドー2枚はカプリーニと中野。リズムを変えてこいということだろう。

カプリーニはここ数試合途中出場が続いており体力は余っている。彼一人で藤枝の右サイドを翻弄出来るので、流れは変わっていく。ボールがキープ出来て、パスも散らせる。彼への対応で藤枝もディフェンスラインが下がるので、後半頭のように自分たちがボールを握って横浜の隙を伺うサッカーは展開できなくなった。しかしながら、カプリーニが入ってもチーム全体は中々連携が良くならない。カプリーニの感性に合わないと、彼も自分でやや遠目から狙う姿勢を見せたり、FKをもらいにいくような一種セルフィッシュなプレーを始めてしまう。
また、何度かあったがボールが裏に抜けてサイドでボールを持ちあがった時に、どうゴールに向かうのか味方同士の呼吸も合わずまごついている間に守備陣が戻ってしまいタフなパスを通そうとしてカットされてしまったりと追加点には程遠い。1点差でボールを奪われたらカウンターを受けるかもしれないが、敵陣深くでそこまで考える必要はないだろう。
それよりも、横浜はどう流れからゴールを奪うのか見ている側も推測できないし、選手同士も敵が目の前にいなくても組み立てられない。

最終的に追加点は、後半40分カプリーニが藤枝の選手に挟まれたスペースをドリブルで突っかけて得たPKを彼が決めたもの。足だけ出していた選手は正直死に体となっていたとこに、無理やり突破を仕掛けて転ばされたもの。ペナルティエリアなら奪われても失点のリスクは低い、倒されたと判定されたらPKと考えるとリスクより得るものの方が大きい、残り5分を計算にいれた好判断だった。

RISKY

そのまま2-0で横浜の勝利。藤枝の攻撃を耐える時間こそ長かったが、振り返ってみるとそこまで構えずとも勇気をもってラインを押し上げて、ひっくり返して自分たちで主導権を握ってもよかったと思う。むしろ今、ちゃんと攻撃の形を作れないからリードしたら構えている方が良いと無意識に判断してしまっているのかもしれない。

ただ、それだけでは昇格は難しいだろう。藤枝だったからこれで時間を消費出来たが、上位のクラブにそれがどこまで通用するのだろうか。チャンスなら一気に奪いきる力が欲しい。カプリーニは自身の突破でそれを示した。リスキーになる事を過剰に怖れる必要はない。カウンターなのにシュートシーンまで持ち込めない事を怖れた方が良い。

市川が選んだ「Easy Come, Easy Go!」はアルバム「RISKY」からの先行シングル。アルバム「RISKY」のタイトルにもなった表題の「RISKY」は大半がギターのインストゥルメンタルだが、最後にこのセリフで締められている。

”Risky where do we go”

このままじゃ良くないのではと感じつつ、それでも現在4位。さぁ横浜どこへ行く。


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