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2024年J2第20節藤枝MYFC-横浜FC「あなたはあなたのままで そのままで」

私にとっては1年ぶりの藤枝となった。サッカーではなく、神社仏閣と城跡をめぐりに昨年もこの地を回っていた。小山城、相良城、諏訪原城や焼津神社を回っていた。藤枝には朝ラーで食事をしただけだったが。。。藤枝、焼津、牧之原、吉田などはまとめて志太榛原と呼ばれる地域で、藤枝のゴール裏に「志太榛原軍」と弾幕が出ていたのは、それをもじっているのだろう。それも懐かしい響き。(過去に志太郡と榛原郡は実在していた郡である。)


第三勢力の苦悩

サッカーのエリアとして考えると、藤枝MYFCは清水と磐田に挟まれた地域でサッカーどころ静岡といえど、沼津も含めて4分割するのは後発組の藤枝は苦しい。営業収入的に言えば、清水、磐田、そして藤枝、沼津だが磐田と藤枝の間には大きな差がある。旧制志太中学校(現藤枝東高校)がサッカーを校技と定めたのが1924年で、そこからサッカーのまちを掲げて今年で100周年を迎える。蹴球都市の誇りは、こうしたところから来るのだがそれだけでファンが激増する訳でもなく、後塵を拝しているは現状である。

横浜も神奈川県だけでJクラブが6つも存在するし経済圏が近い東京や千葉、埼玉を含めると静岡とは違った厳しさがある。神奈川県内に目を向けると川崎、マリノス、横浜と続く。あれだけ貧乏といわれた横浜が今や県内三番目の規模のクラブなったのは感慨深いが、それでも上位2クラブとの差は中々簡単には縮まらない。横浜に限っても2番手。横浜ダービーではお互いのホームでは無敗という興味深い成績ではあるが、規模からすると差があるのは現実である。

ともにいえるのは、県内第三勢力同士の戦いである。ポジション的に、上位クラブと同じことをしていても勝てない。勝てなくとも存在感をどう出して差異化を図るかは生き残り戦略として重要である。横浜は会費がクラブの強化費に充てられるクラブメンバー制度はほかのクラブと大きく違うし、最近ではマスコットのフリ丸を前面に出す活動もしている。そしてほかのクラブと圧倒的に違うのは、富士通や日産のような企業のサッカー部が源流ではないところだ。そうした部分をどう共感してもらえるのだろうか。
強いクラブから離れた人の受け皿になろうとするのか、独自路線を貫くのか。第三勢力に共通した悩みのように見える。
横浜は元J1といわれる反面、ファンの数が少ないと揶揄されるが、これでも増えてきた方である。藤枝総合運動公園サッカー場のアウェイゴール裏は多くの横浜サポーターで埋め尽くされていた。

無駄な汗などないと信じて

キックオフから試合を支配したのは横浜だった。相手が決定的なボールを出そうとするタイミングでユーリがタックルでこれを防ぐ。左右の山根、中野が相手のサイドの選手にしっかりと対応してペナルティエリアへの侵入を許さない。サイドから入るボールをことごとくカットし、前半与えたシュートはわずかに1。
攻撃に目を移すと粘る藤枝守備陣をあざ笑うかのようなボール運び。井上は相手に影をも踏ませぬしなやかさで身体を上手く入れ替えながら相手のプレスを交わす。カプリーニは相手の嫌なところでボールを受けては攻撃のタクトを振るった。藤枝の指揮官にとっては絶望的な内容に映っただろう。

前半20分、ファウルのリスタートから素早くユーリがボールを出すと、そのパスを受けた中野が左サイドを突破。グラウンダーのクロスに合わせたのは小川。体を開きながら綺麗にボールを流し込んだ。実に3年ぶりのゴールとなった。

さらにその4分後の前半24分にはカプリーニのクロスをまたしても中野が折り返すと走りこんだのは小川。GKがキャッチする手前でボールをゴールに流し込んだ。

3年前の広島戦でも小川はロングボールに走って合わせてGKを抜いて無人のゴールに流し込んでいた。四方田監督になり昨年5月以降5-4-1のサッカーをするにあたり、2シャドーはとにかくスプリントとスタミナが求められた。1.5人分をスライドしながら走ってスペースを消したりプレスを仕掛け、攻撃になれば裏のスペースに走りこみ起点となる。昨年はそれでも勝てなかった。彼自身もコメントしたが、終盤の湘南戦でクロスに合わせるもゴールを決められなかった。その湘南戦で敗れて実質降格が決まった。

今年もまるで猟犬のように走るが、チャンスにも滅法弱かった。長崎戦ではゴールエリア正面のヘディングも枠を外すミス。長崎戦はここから流れを失い長崎に先制を許して敗戦。勝った試合でも負けた試合でも、勝利を目指して身を粉にして走り続け、このチームで一番汗を流した男の汗は無駄ではなかった。

前半2点リードして折り返すが、一抹の不安がある。愛媛戦もそうだったが、「これは勝てる」「これはやれる」と思ったらひっくり返される。今の順位は3位。リーグもこれから残り半分。何も決まっていないのに、緩んではいけない。それが不安だった。が、その不安は的中した。

翻弄

藤枝が後半からウエンデルを投入すると流れが一変。左サイドからゲームを作られると、後半6分藤枝シマブクから裏のスペースに飛び出すウエンデルにパス。追い付いたウエンデルのクロスに合わせたのは矢村。GK市川からするとどうやっても届かないような逃げていくシュートを決められて失点。後半開始から横浜はボールをよい形で触れないままでの失点で、これは後半苦労するだろうと思っていた矢先にこの失点すら吹き飛ばすプレーが起きる。

後半9分カプリーニがサイドにパスを送ると山根が飛び出していく。そこにいたのは藤枝GK内山。山根の進路を妨害する形で彼を倒してレッドカードが提示される。DOGSOの観点からはやや距離もあり、DFも中に2人ほどいて得点機会阻止としては厳しいが、VARがないJ2では退場は翻らない。
むしろ内山のやや無謀な飛び出しを察知して縦にやや大きめのトラップをして、ボールを逃がしてGKと接触して退場に追い込む山根の狡猾さが目立った。

今度は数的優位に立った横浜。藤枝が3-3-3のような形にしてシマブクを下げたことも横浜にはよい方向に働いた。それでも後ろからゲームを作ろうとする藤枝に、前線の3枚を一気に交代させて櫻川というターゲットを明確にして10人相手にジワジワと圧をかけていった。

試合終了間際の後半40分には、山根が自陣でボールを奪い櫻川にパス。櫻川はオーバーラップする山根にパスをして、彼が飛び出すと内側にクロス。相手DFの足に当たりながら、追いついた室井に渡る。室井は交代出場のGK北村の股を抜くシュートを決めて1-3として試合を決めたのだった。

比べなくても あなたはあなた

藤枝戦の翌日朝から横浜方面に帰られる方を尻目に藤枝観光に向かった。三日月堀が有名な武田軍が作った田中城と、旧街道沿いの寺に。締めは朝ラーでさっぱりと冷やしラーメンを食べる。

藤枝駅付近の寺のうちいくつかは松で有名な寺がある。大慶寺の松(通称久遠の松)は支柱で支えないといけない程大きな巨木であるが、正定寺の大願のマツはやや小ぶりではあるが植えられたのが江戸時代というから大切にされてきた。小見出しの言葉は、正定寺の入口に書かれていた言葉であるが、松で大慶寺と比べなくてもいいんだよとも取れ、中々深い言葉である。

第三勢力の横浜にも通ずるものがあった。川崎やマリノスを意識するのは重要だけれども、そこと比して自分たちを貶める必要はない。蹴球都市の誇りが藤枝の胸にあるなら、横浜にも市民が立ち上げたクラブの誇りがある。自分たちなりの戦い方や生き方がある。J2でもまだ第三勢力だ。

試合終了後に選手が挨拶してフィールドを去っていく。この日、岩武がウォームアップ中に負傷し中村が急遽試合開始から出場することになった。水曜日には天皇杯で延長含めて120分フル出場し、中2日で90分プレーするタフネスさにゴール裏は彼にチャントを送っていた。

普段なら勝利時に歌う「横浜なら手を叩こう」も気恥ずかしいのかなんとなくアリバイ参加するようなクールな彼が、ブーイングすらヘッドバンドを指先でグルグル回して時が過ぎるを待っている彼が手を挙げて応えた。

彼は微かに微笑んでいるように見えた。


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