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第104回天皇杯全日本サッカー選手権大会2回戦横浜FC-ヴァンラーレ八戸「働き方改革」

残業代で食っている。そういう言葉を耳にしたことがある。基本給が低いので、残業代をベースに乗せる事で生活できるレベルの給料にしている意味だそうな。数年前まで、ボーナス無し年俸のみの仕事だった自分にとってはその感覚がわからないでいた。深夜残業以外は特に残業代なしなのでわかりやすくて仕事をいかに効率良くするかが求められたし、個人の裁量も大きかったからそれがしやすかったので、相当な繁忙期でもない限りはフレックスだったので定時退社どころか、この日のようにウィークデーのゲームでは朝7時頃から働き15時過ぎには業務終了なんて日もあった。今思えばとんでもない会社で働いていたなぁと、三ツ沢での「残業」を見ながら思い出していた。


非効率な展開

サッカーはゴールの数を競うスポーツである。そう考えるとゴールに向かってボールを運ぶのが一番効率が良さげに思うが、それを阻もうとする相手がいるのだから真っすぐ運んでも跳ね返されてしまう。だから、左右の幅を使ったり、複数の選手がボールに絡んで相手とのギャップを作りだそうとする。遠回りのようで、近道。近道のようで遠回り。サッカーの魅力はそこにもある。ただ、遠回りしているだけのように映るサッカーは魅力的には感じないだろう。それでもまだ、全員が同じ方向を向いて相手を圧倒しているのであれば良いのだが、個々の動きに連動性がないと退屈なものになってしまう。

例えば裏のスペースにボールが出ても、三田は独力での突破を図ってロストするシーンは幾度となくあった。彼にすればボランチでポジションを失い、出られるところでアピールしたい思いがあるのは理解できるが、思いは空回りし味方を上手く使えないでいた。違う見方をすれば、周りが三田との連携を欠いていた。
橋本はルヴァンカップの岡山戦で見せたような左サイドからの鋭いクロスは鳴りを潜めサイドで蓋をされると戻す選択肢しかないように見えた。前半なのでリスクをとってでもゴールを目指す選択肢を選ばなかったのは消極的だった。
左のセンターバックに入った杉田は、ルヴァンカップ名古屋戦よりもゲーム勘は戻っているように見えたが、プレスに怯んだり、前に持ち上がったけど上がる前にどうするか判断が悪く結局作り直したりとチーム全体でゴールを意識する以前に組み立てが出来ていなかった。

櫻川はクロスにフリーでヘディングをしたが、突き上げるように頭を出した結果ボールはクロスバーを大きく超えていってしまった。確変は終わってしまったのか。

八戸は愛媛と同じく前線からのプレスでサイドに誘導して押し込んでくるが、ここで横浜はしっかりといなしてゲームを作れず横浜はストレスの高い前半となってしまった。後半も残っているのに、前半から感じてしまう残業感。チームなのにまとまっていない。

年代ごとに求められる働き方

後半になって輝きを見せたのは中村拓海だろう。リーグ戦の群馬戦でも1人少なくなった後のスタミナは目を見張るものがあった。サイドバックだけでなく前線にまで顔を出してプレスをして相手をけん制する姿に成長を感じていた。この試合でも中村は途中からセンターバックに配されながらも、機を見て前線に顔を出す、サイドにボールを散らす、裏に預けるとチームが上手くいってない時程頑張るプレーヤーになりつつある。その彼のパスから試合が動いた。

後半13分右サイドの彼のパスを受けた三田が左足を振ったミドルシュートはゴールに突き刺さった。いわき戦でも見せたシュートの意識の高さと左足の技術をこの試合でも再現した。彼はボランチに拘りがあるようだが、守備に難しさがあり、攻撃の技術があるからもう1つ前中心で起用しても良いと思うが、自身の意識の高さが連携の邪魔をしている気もする。
これはサッカー選手に限らずだが、理想を追求するのと現実に落とし込んだ時とのズレの調和はマネージメント層はどこでも苦労する。三田のプレーの選択肢は周りも上位カテゴリーにいる選手たちなら当然かもしれないが、今はJ2でありさらに出場機会の少ない選手たちだとそれを感じ取れないのかもしれない。

いつか城彰二が横浜にきて「俺はこんなところでやる選手じゃない」という言葉を奥様に咎められるエピソードは有名であるが、J1でリーグ戦通算300試合以上出場している三田の意識の高さや経験はチームに還元できているのだろうか。リーグ戦現状3位のチームをどう昇格に導いていくのか、特に若い選手をどう引き上げていくのか。プレーだけで比較すると、若い選手の方が先があると言われてしまう。彼がFC東京や神戸、仙台で見てきたものをもっと伝えて欲しい。味方のミスに声を荒げる彼ではなく、叱咤激励の為に声を出す彼を見たい。それこそが中途採用で入社したベテランの価値の一つであると私は考えている。

それでも残業はやってくる

「ノー残業デー」最近この言葉も定着している。水曜日や金曜日に設定している会社が多いと聞く。建前は心身とも健康であるために長時間労働防止と言われているが、残業代による人件費高騰を抑える意味もあるとかないとか。とは言っても、発生する時はしてしまう。

後半26分には一気に3枚替え。三田もその後足を攣って松下と交代。フレッシュな選手を入れて試合を締めにかかった。が、それで終わってくれないのが一発勝負のトーナメント戦。

後半43分八戸・妹尾にゴールを割られ失点。1-1となり延長戦へ。退勤時間迫る中でのトラブル発生では残業せざるを得ない。

深夜残業回避へ

追いついた方が流れを得やすいが、この試合では横浜はそうはさせなかった。同点にされて延長戦になっても横浜に悪い流れはなかった。後ろは岩武が八戸・サンデーをきっちりと塞ぎ、中野は左でもボールを保持できるし、小倉の負傷交代後はボランチに入ったが推進力をいかして中盤を支配。

そうした中で生まれたのは横浜の逆転ゴール。延長後半4分。髙橋が落としたボールを室井が右足一閃。ゴール上段に吸い込まれていった。シーズン当初から負傷に悩まされて出遅れ、ルヴァンカップから復帰してリーグ戦でもポジションをつかみつつある室井がここで逆転弾。週末のリーグ戦に向けて本人もチームも弾みがつく一撃となった。

その後は二度と同点を許さず横浜が延長戦で八戸を振り切った。PK戦まで進んでいたらどうなっていたことか。深夜残業なんて好んでするものではない。

チーム力を高める

カップ戦はリーグ戦よりも優先順位が落ちてしまうのは仕方ないし、さらにルヴァンカップと違って八戸はカテゴリーが下。そうなると起用する選手も控えメンバー中心になりやすい。選手個々の事情や向いている方向性が違えば前半のように連携がまるでなくチームとして戦えていない状態になる。

勝利して一つになる。ゴールして一つになる。チャンスを作って一つになる。ピンチを切り抜けて一つになる。そうした良い状態をどう作り出せるか。組織として良い状態、選手個人として良い状態。選手にとってのウェルビーイングとは何か。良い状態を作り出し、維持する事で効率良い勝利を得られるのではないか。そう考えさせられた120分だった。

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