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2024年J2第26節横浜FC-V・ファーレン長崎「追い抜かせる訳にはいかない」

前半アディショナルタイムだった。長崎の縦パスが長崎エジガル・ジュニオに入る。ボニフェイスはマークをしていたが入れ替わられ、裏に走りこむ長崎マテウス・ジェズスにラストパス。このボールを受けた彼は、GK市川との1対1を迎えた。今シーズン、中盤の選手でありながら何度もスーパーゴールを決めている名手と対峙。
市川は少しずつ相手との間合いを詰める。そうしないとゴールのスペースががら空きのままだからだ。非常に良い間合いで詰めていくと、ジェズスの方がじれてシザースでフェイントを入れる。これは蹴る側からすると正面には有効なスペースがないことを意味している。
ジェズスは右にボールを持ち出して、市川を交わそうとする。市川も足を伸ばしてボールに触れようとするが届かず交わされてしまう。しかし、ボールは彼を交わそうと右に大きく出した為にゴールへの角度が狭くなった。ジェズスはボールを追いかけゴールラインを割ろうとする直前に右足でボールを角度のないところからねじ込んだ。長崎の先制点だと誰しもが思ったその時、ボニフェイスが身体を投げ出してボールをはじき出したのだった。市川が粘って時間を稼ぐ間に必死に戻ってきた。クリアした直後は大の字になって倒れていた。ジェズスが再びボールを回収するころには横浜の他の選手も自陣に戻り失点は免れた。
ゴールシーンはサッカーの花形だが、こうした失点を減らすプレーも同じく称賛されるべきである。市川が粘り、ボニフェイスが必死に戻ってゴールを割らせない。長身、身体能力、スピード、そして機器察知能力と、今期リーグ最少失点のチームの力を存分に見せつけた。


矛と盾

現在長崎はシーズンリーグ最多得点、横浜はリーグ最少失点。その2チームがぶつかるので焦点は、横浜が長崎の攻撃を凌げるか。試合開始から両チームとも相手の出足を窺うサッカーではなく、テンションが高い。
長崎は前線の外国人3選手と笠柳の4人でスピードと迫力で圧倒しようとし、横浜はそこを丹念にはじき出して厚みのある攻撃をしかける意図が見えていた。
長崎は前節水戸に敗れて、22試合で無敗がストップ。失点もスルーパスを通されてのもので、それを嫌ったかこの試合はボランチを2枚にして臨んだ。その分長崎は攻撃の厚みが消え、カウンター気味になったのは横浜には幸いした。長崎・ギリェルメが速くここをちぎられてのカウンターを見せられて、左サイドは前節に続き良い形のゲームメイクが出来ずにいた。

横浜はカウンターを食い止めて自分たちである程度ボールを持てている部分はあるが、ハイプレスをボランチが超えた先でのゲームメイクに苦心。少しのパスのズレ、ミスを拾われると前線にボールを持っていかれる。
チャンスらしいチャンスもカプリーニのシュートが精いっぱいで、後ろからのロングボールで裏のスペースを狙った攻撃は空砲に終わった。

そこはボニフェイス、ガブリエウ、そしてユーリが鬼気迫る守備で跳ね返していた。そして迎えた前半アディショナルタイムの長崎の絶好のゴールのチャンスを横浜が阻み後半へ。横浜にも長崎にもゴールはないが、それぞれの特徴をいかした首位攻防戦らしく前半から迫力のある試合となった。

またしても行方を阻むか下平監督

下平監督が横浜を率いていたのは、2019年途中から2021年春まで。その後大分の監督に就任し、2年前も対戦している。三ッ沢で試合をしたのは、リーグも佳境の第40節。横浜はこの試合で大分に敗れJ1昇格が持ち越しになり、大分はプレーオフ進出を確定させた。なぜか下平監督が敵将で来る三ッ沢での試合は熱いものになり、そして苦しむ。

しかし、この試合後半は横浜がゲームを支配した。前半から前線でのプレスを仕掛けた長崎は体力を消耗。それでも増山をサイドバックで起用するなど、狡猾に牽制球を差し込んだ。

ボールを握れるようになって横浜は決定機が増えたが、最後の最後を仕留めきれない。横浜は戦況を見極めながら慎重に交代カードを切るが、それでもゴールを奪えない。

ジョアン・パウロはよいアタッカーだが、前節のアシストもあってかカウンターで一人抜け出た時も最後は伊藤翔にパスを送りカットされ、その後自分で打っても良いことを促されるとボールを持ち始めたりとまだまだ順応途上。

長崎は、ファンマと加藤大を入れて攻撃的な姿勢を保つ。笠柳に代わって登場の松澤も左サイドからゴールを狙うがここは途中交代の中村拓海やボニフェイスがストップし決定的なシーンを許さない。

後半のボールを支配する横浜、耐える長崎の構図はそのまま変わらずタイムアップ。試合終盤は乱闘騒ぎもあり不穏な空気にはなったが、試合は0-0の引き分けとなった。

あの日立台を思い出す

引き分けに終わった試合だが、私はもっと誇りに思ってよいと思う。昇格を争う中で勝ち点差2の相手との差を縮めさせなかったのだ。しかも4月の対戦では点差以上に敗れた相手に後半試合を支配していた。価値のある引き分けといえば、2006年横浜が初めてJ1昇格したシーズンの終盤の日立台を思い出す。残り6試合で相手は柏。当時は52節まで試合があり、残り6試合で勝ち点差4。柏が横浜に勝つと自力優勝も復活する試合を3-3で追いついて引き分けに持ち込んだ。

並々ならぬ思いで挑んでくる相手と組みあってそれを退ける。これぞ首位争い、昇格争いをしているチームというものを長崎どころか他のチームにも見せつけた。得た勝ち点は1なれど、相手が横浜を上回れなかったという現実を加味すればそれ以上の価値がある。長崎のバウンスバック(敗戦からの反動)を警戒していたが、それをも上回った横浜の気迫。

そう易々と追い抜かせる訳にはいかない。なぜなら横浜が昇格するからだ。



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