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2022年J2第41節横浜FC-ツエーゲン金沢「私達はまだ2019を超えていない」

その報を知ったのは、準備中の自宅でもなく、三ツ沢での待機列でもなく、新横浜のスタジアムでだった。2022年横浜FCはJ1昇格を果たしたのだと。こう実感のない昇格は、3度目となる昇格でも初めてのものだった。速報サイトを何度もリロードして岡山の敗戦を見て、そのスタジアムで眼下に広がっている天皇杯決勝とは関係ないことで喜びをかみしめていた。
甲府の試合になぜ足を運んでいたかといえばそれなりに思い入れのあるクラブだからだ。山梨は自分が学生時代を過ごした場所で1999年から開幕したJ2で甲府の試合は何度も足を運んでいた。チケットも当時は1200円くらいだったし、エンタメが少ない山梨県内の学生のコンテンツとして十分だった。車を運転できる友人に連れられてJリーグを見に行く。いつ見に行っても、負け試合ばかりで「阿井(達也)は元マリノスの意地見せろよ!」「吉田(悟)決めろよ」「堀井(岳也)しか望みがない」「小田切(道治)だけはワールドクラス」と今思えばリスペクトのカケラもない野次を飛ばしまくっていたけど、閑古鳥が鳴くスタジアムではそれが響き渡っていた。2002年は存続活動に横浜サポーターとして協力し、今はなき小瀬のサブグランドでサポーター同士でサッカーしたなぁとか。存続の危機を迎えたクラブが天皇杯優勝。感慨深い思いしかない。

横浜の試合が行われる前に、2つのメインイベントを経てしまい、個人的には満足感が先にきた。誰かと昇格の喜びを共有したい。戦いに向かう顔ではなかった気がする。

三ッ沢に着くと盛り上がってはいるが、どうも勝利への思いより宴の雰囲気が強い。仕方ないかもしれない。選手も岡山の敗戦を知っている。優勝への思いはあれど、個々人でこの試合への感覚は違うだろう。自動昇格は果たしたのだから。その中で、横浜は逆にちゃんとゲームをしていた方で、ゴールを何度も奪いに金沢を攻めて押し込んだが、逆に押し込んだところでボールを奪われてのカウンターで2失点。怒りたい気持ちもあるが、昇格というシーズン通しての大目標の達成がなされたことがその思いを微妙に中和する。

前節の目の前の試合ではなく3連勝で逆転優勝と言った空気ともまた違う空気が三ッ沢を覆っていた。

後半開始直後には3失点目を喫する。クレーベと田部井を入れてロングボールに活路を見出そうとした。後半開始から投入された山下も快足を飛ばしてペナルティエリアに迫る。長谷川のカットインのクロスから金沢のゴールネットを揺らしたのはクレーベ。後半21分だった。

山下のドリブル突破を止めようとした金沢・植村が引っ張り倒してこの日2枚目のイエローカードで退場。そのフリーキックをヘディングで金沢ゴールにクレーベが再びねじ込んで1点差に。昇格したことは関係なく、1点差になれば勢いは出るし、相手は一人少ない。金沢はどうしても1点を守ろうと守勢になり、最後は5バックプラス3ボランチに1トップでロングボールで逃げ切りを図るしかなかった。

横浜は和田を下げて中村俊輔と投入。DFのガブリエウも前線に残り、亀川と中村拓だけで守備を回して、中村俊が中盤の底でタクトを振るう。金沢が下がって守備をしているので、縦パスは思うように通るが密集したペナルティエリア内を崩すことはできないまま20分近くが経過。無限セカンドボール回収のハーフコートで金沢を追い込み、アディショナルタイムには中村俊が必死にダイビングヘッドを見せたがゴールは遠く横浜は2-3と敗れてしまった。


Hungry Tiger

「全てを奪い 奪いつくせ」これはとある横浜のチャントの一節であるが、そこまでに達していたか。試合前に昇格が決まって高揚感や満足感はなかっただろうか。それがあってもさらにまだ腹が減っているんだ。勝ち点を貪るんだと気持ちになれなかった。

「J1を最下位で降格すると翌年即昇格できない」横浜が2007年から08年にかけて自ら作り出していた悪しき伝統を止めることができたのはよかった。それでも本当にもう一つ上に行くことができるかどうかこの3連戦はその試練でもあった。

きっと来年も困難が待っているはず。一回傾いた流れは簡単に取り戻せないのは2021年で学んだこと。目先の一勝にどれだけ心血注げるか。岡山が敗れて横浜のJ1自動昇格は決まった。ただ、メインディッシュはこれからだというのにそれでお腹が膨れてしまった。

79

この数字を見てピンと来た方はいるだろうか。これは2019年に横浜FCがJ1昇格した時の勝ち点だ。タヴァレス監督解任後、監督には下平隆宏が就任し前半で見せた躓きを夏場に一気にひっくり返しての昇格劇だった。イバ、松尾、中山、斉藤光毅、レアンドロ・ドミンゲスと今考えたらチートのような圧倒的な攻撃力を携えて終盤大宮を逆転して昇格を果たした。
2022年のJ2も残り2節となり、横浜の勝ち点は77で昇格は決まった。しかし、それだけではまだ2019年を上回ってはいない。開幕から10試合負けなしで首位になっても、数字上後半戦で勝ち点を37得ていてもそこに達していない。

下平監督、野村という前回昇格した2019年の指揮官、2018年までのエースが立ちはだかった大分戦では2回追いつくも3度先行を許して敗戦。プレーオフ圏内に入りたいという意地が、目の前の試合ではなく3連勝で優勝だと大見得を切った横浜をあざ笑うかのようだった。

そして金沢戦も試合前に昇格が決まり相手を凌駕することより喜びが先にきてしまった。

今シーズンも残り1試合。そこで勝てば2019年に昇格した時の勝ち点79を上回る。シーズン最後を勝って終わりたい。2019年を超えたい。前回の昇格もよかったけど今回の昇格はもっと良いと数字でも言いたい。過去は乗り越えていくものだから。

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