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「疲れた」が口癖の友人の話。

すぐに「疲れた」と言う友人がいた。
彼女は虚弱体質という訳でもないのだけど、すぐに「疲れた」と言う人だった。

仕事帰りに待ち合わせれば、会うなり「はあ、疲れた」と言い、休日買い物に行ったら途中で何度も「疲れた」と言う。

さらに恐ろしいことに、一緒に旅行に行ったりすると「疲れた」を1日に何度も聞く羽目になる。
ちょっと歩いては「あ〜つかれた〜」と言い、電車を乗り換えては「つかれた…」と言う。それもちょっと不機嫌そうに、ボソッと言う。

私はそれを聞くたびに「お疲れ様」「ね、疲れたね」「大丈夫?休憩する?」と返していた。
でも、それに対して彼女からの返答は特になかった。
何回かに一回は「お茶しようか」という流れになったけど、ほとんどただ「疲れた」を受け取るだけだった。

ある時から、彼女はただ「疲れた」と言ってるだけで、別にすごく疲れているわけじゃないんだということに気づいたけど、「疲れた」と言われると何か返さなきゃいけない気がして、ちょっと面倒だなと思い始めた。

そしてある旅行先で、突然私の中の限界突破が起き、「あのさあ、疲れた疲れたって言わないでよ。私だって疲れてんのよ」と少しキレた。

確か道に迷ったりしてめちゃくちゃ歩いて、足が棒のようになっていて、それでもホテルに戻らなきゃいけなくて歩いていた時のことだったと思う。
必死に地図を見ている横で「疲れた」と言われてキレた。

彼女的には「疲れた」と言うことに悪気はなく、ただ口癖になっていただけだから、なぜ私がキレてるのかサッパリ分からなかったはずだ。

なのでその後も普通に「あ〜疲れた〜」を連発していた。

「ねえ、その「疲れた」って口癖?めっちゃ言うよね」と言ってみたこともあったけど、本人は「え?そう」てな反応だったし、私としては一度気になり始めたら気になるし、あんまり聞いてて嬉しくない口癖だし、他にも何かあって彼女とは疎遠になってしまった。

もう10年近くも前の話をなぜ急に思い出したかっていうと、先日会った別の友人が「いや〜!疲れたね〜!」と笑顔で言ったから。

その日、予約していたお店がなかなか見つからなくて、真夏の炎天下をだいぶ長い時間歩いた。
やっとたどり着いたお店で、「疲れたね〜!」と笑う友人を見た瞬間「疲れた」が口癖のあの子を思い出した。

もし、あの時の彼女がこんな風に笑顔で「疲れたね〜!」って言ってたら。
腹も立たなかったかもしれない。

そして気づいた。

彼女の「疲れた」には、私に対する優しさとか思いやりとか、そういうのが一切感じられなくて「なんでいつも私ばっかりフォローしてあげなきゃいけないのよ」って思って、私は腹が立ってたんだ。
「たまには私のことも気遣ってよ!」って、それで怒ってたんだ。
大事にされたかったんだね。私。

ということに10年越しに気づいた。長かったね。


「いや〜!疲れたね〜!」と、汗を拭いて笑う友人を見ながら「疲れたね〜!結構歩いたもんね!よかった!たどり着けて!」と私も笑った。
疲れていたけど清々しい気持ちだった。


今もあの子は日々「疲れた」を言っているんだろうか。
誰かがその「疲れた」を拾っているんだろうか。
今なら私はあの「疲れた」を気持ちよく拾えるんだろうか。
どうなんだろう。

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