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いつも、父と2人だった。

幼い頃から父と2人で出かけることが多かった。

私がまだ小さかった頃、そうまだこの日本が「週休1日」だった頃。
仕事で毎晩帰りが遅かった父は、母に「いつも子供の面倒を見ているのだから、日曜日ぐらいは自分の好きなことをしなさい」と言い、ほぼ毎週末、ひとり娘の私を外へ連れ出してくれていた。

行き先のレパートリーは3つ。
大きな公園、アスレチック、ショッピングモール。

「知子、今日はどこに行きたい?」
「アスレチック!!」
「よーし!いくでー!」

ほとんど毎週、そんな感じだった。

たまに母がお弁当を作って3人で公園に行くこともあったけど、それは本当に特別な日だった。

だいたいいつも2人だった。
そして行った先では、一緒に全力で遊んだ。

アスレチックで、タイヤにまたがって滑車で滑るやつ(あれの正式名称なんて言うんだ)に乗ったり、公園でボール遊びをしたり、フリスビーを投げたり、ときには池に落ちたり(帰ってから母に2人で怒られたよね)。

そして公園の帰りには、三角屋根が目印の喫茶店に寄り道をするのがお決まりだった。

父はコーヒーを飲み、私はプリンを食べる。
私が人生で初めてブラックコーヒーを飲んだのも、その喫茶店だった。
びっくりするほど苦かったけど「平気だよ」というふりをした。
笑いながら父がミルクと砂糖を入れてくれたっけ。

今思えば、週に1日しか休みがないのに、よくやってくれてたなあと思う。
もし私が子供を産んでたとして、同じことができるかと言われたら無理だ。
「頼む〜今日は休ませてくれ〜」って言ってたと思う。
楽しい思い出を作ってくれて感謝しかない。


小学校の高学年からは、週末も部活があったりして毎週のように出かけることはなくなったけど、たまには2人で三角屋根の喫茶店に行ったりした。

もちろん思春期だったり反抗期だったりで「お父さんクサイ!」みたいな時期もあった。でも、それでも、2人で出かけることに抵抗がないまま私は成長した。


高校1年生の時、教科書の答えが全部載ってる「ガイド本」的なものが欲しくて、都会の大きな書店へ一緒に行ったことがある。
父がどこかへ行くついでに、車に乗せて連れて行ってもらった。

その書店で、たまたまクラスメイトたちと遭遇した。

彼女たちは私が父と来ているのを知り「え…お父さんと来たの…?」と、めちゃくちゃドン引いていて、それを見たときに「お父さんと2人で出かけるのって、普通じゃないのかも」と気づいた。

たぶん、「ちょっと恥ずかしい」という気持ちも感じた。
でも、だからと言って「もうお父さんとは一緒に出かけないからね!」とはならなかった。


普通の女子というものは「お出かけはお母さんと」するのかもしれない。
一緒にお買い物、とか、お出かけ、とか、旅行、とか。

うちも、もちろんゼロではない。
一緒に買い物も行くし、母娘で旅行に行ったこともある。
でも父との外出の方が、圧倒的に多い。

それはなぜか。
うちの母が、出不精だからだ。

旅行やイベントごとにあまり興味がない。
花火も花見も紅葉も海も山も、全然、興味が、ない。
だったら家にいたい。そういう人なのだ。

私と父はイベントごとが好きな性質で、外から花火の音が聞こえたら「お!はじまったぞ!」とソワソワするけれど、母は「ふ〜ん、お母さんテレビで野球見とくわ」みたいなタイプだ。

最近では、初詣すら数年に一度しか行かなくなった。
「寒いから」とか「今日は腰が痛いから」とか言って「よろしくお詣りしといて〜」と言われる。

結果、新年早々、父と2人で出かけることになる。まあいいんだけどね、気楽で。

別に、父になんでも話せるとかそういうわけでもない。
恋愛の話なんてしたこともないし(母にもないけど)、深い悩みを相談した事もない。

大体いつも父の仕事の話とか、最近のニュースとか、昔の話とか。父も年だから、何度も同じ話をしたりするけど、まあそれも一興。

程良い距離感が良いのだと思う。多分。


そして、明日も父と出かける。
最近、父の趣味である登山に付き合わされているのだ。

さすがにもう大人なので「お父さんと…?」と言われることもなくなり、逆に「親孝行だね」と言われたりする。

そう言われるたびに、子供が大好きな父に孫を抱かせてあげられなかった罪悪感がちくりと疼く。
これで親孝行になるのなら。いくつでも一緒に山を登るよ。


…と、父をものすごく善人のように書いたけど、娘の私より若い愛人がいたりしてまあまあ破天荒な部分もあったりする。
それはまたいつか。

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オカダトモコ 旅が好きなライター / カメラマン
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