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鑑賞*鐘の音に続く船笛去年今年(2)

磯村光生                

近くのお寺の除夜の鐘に続いて横浜港の船の一斉の汽笛の音が聞こえた。
横浜港の新年を迎える汽笛は日本の音風景百選に選ばれている。

 鐘の音と船の音が年をつなぐ。
見方を変えればいろいろなものの交歓のように思えてくる。

 常に停泊する氷川丸を始め、港に訪れた船で働く人々と陸に住む人々との新年の交歓。
港を中心に海と陸とに偶然に居合わせる奇跡を歓び合うようでもある。

 また、新年に汽笛を鳴らす習慣の起源は明らかではないが、蒸気船の頃から汽笛で時の合図としていたという西洋文化と、梵鐘で仏教的な無常観を伝える日本文化との新年の交歓。

 そして、前年の煩悩を祓い終えた過去の自分と、汽笛を合図にまっさらな時を迎える自分との交歓である。

さて、この横浜港の船の汽笛はどこまで聞こえるのだろうか。
とある調査では約十キロメートルだという。
一方、除夜の鐘の聞こえる範囲は数百メートルだろうから、この二つの条件を満たす場所はそう多くはないと思われる。ましてや花火の音までとなると限定的であろう。

句は、横浜の音風景の中から、梵鐘と汽笛と花火の三つの音を揃えられる限られた場所の価値を見出した。
(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和元年九月号)

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