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鑑賞*大仏の胸元広く夏木立

              小林恵津子

鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな
                        与謝野晶子
 仏像は、お釈迦様入滅後に弟子達が表した数多くの経典の教え(仏性)を人に似せて表現したものなので、男でも女でもない。それでも「菩薩」はお釈迦様の若い頃の姿で母の優しさ(悲)を、「如来」は悟りを開いた姿で父の厳しさ(慈)を表しているという。
 鎌倉の大仏様は阿弥陀如来で、歌の「釈迦牟尼」は誤りとされているが、それはさておき、本歌でもその「父性」を感じてか「美男」であると言っている。
 掲句は、木立に囲まれて大きく胸を開いた涼しげな露座の大仏様を描いている。季語に本歌取りともいうべき夏木立を引くことからも、着想は大仏様に父性を感じてのことと思わせる。
 俳句は総論ではなく各論である、と重次語録にある。歌には示されていない「美男」であること(総論)の所以を、句はその広く開かれた胸元にある(各論)と言っているようにも読み取れる。
 その大仏様、お顔は大きいし、猫背気味だし、衲衣がはだけて弛んだお腹も見えているし、決して美形とは言いがたい。けれど、衲衣からのぞく胸板は分厚くて、そこだけは救済を求める衆生の悩みを大きく受け止めてくださりそうな頼り甲斐を感じるのである。(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』平成十九年十一月号)

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