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俳書紹介 広渡敬雄『全国・俳枕の旅62選』

全国・俳枕の旅 62選 広渡敬雄 
二〇二四年 東京四季出版

 芭蕉が『奥のほそ道』で歌枕の地を訪ね、それらのあるものは俳枕とされて、既に三百年超の歴史がある。
  「俳枕は殆ど歌枕と重なり、俳枕のみは底が浅く空しい」との批判があるが、著者は、芭蕉による俳枕の性質の経緯と発句の本質から、俳枕は、俳句の詠まれた場所とその自然を第一義とした場合があってもよいのでは、という。
 本書は全国の名句の生れた「名所の地」六十二か所を俳枕とし、その地にゆかりのある俳人を取り上げる。
 例えば「横浜と大野林火」。写真とともに横浜の地の紹介があり、横浜に因む俳人の句、林火の「白き巨船きたれり春も遠からず」をはじめ十二句の紹介。次に林火の略歴の紹介。その中には、林火を知る俳人など九人の評が引用されて人物像が多面的に浮かぶ。林火の句も二十八句載る。
 俳枕の紹介ではあるが、著者の言うとおり、取り上げた俳人の「入門書」的な意味合いもある。
 著者は、平成二年「沖」入会、能村登四郎に師事。現在「沖」蒼茫集同人、「塔の会」幹事。句集に『遠賀川』『ライカ』『間取図』、著書に『俳句で巡る日本の樹木50選』など。
 本書を携えて、全国の俳枕の地を訪ねたくなる一冊。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和六年九月号「俳書紹介」)

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