歳時記を旅する1〔春昼〕前*春昼の種火ひつそり湯沸器
土生 重次
(昭和五十三年作、『歴巡』)
「春昼」は季語としては大正七年以降に成立したとのこと。
歳時記では「春の晝間は明るく、閑かに、のんびりと眠たくなるやうな心地がする。」(新歳時記 虚子編 昭和九年)とある。
それよりも前、泉鏡花に『春昼・春昼後刻』(明治三十九年)という小説がある。
散策をしていた者が、ほかほかと春の日がさす中、立ち寄った山寺で住職から薄命の才子佳人の交情のいきさつを聞かされる。
次に散策者自身が、その話の女主人公に会うことになる。
物語は夢の世界と現実の世界がお互いに重なり合いながら展開してゆく。
句は、湯沸器の小さな小窓にガスの種火の青い炎が音もなく小さく揺れている。
外出や就寝のときに、種火を消したかどうか気にしていた昭和時代の昼さがり。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和二年四月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」より)
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