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高い専門性を持つということは、時に相手との溝を深めてしまうことがある

こんにちは。おかだこうへいです。

とのむらさんと課題図書を設定し仕事を楽しくするTipsを学ぼう!という取り組みも早3回目。今回の課題図書は宇田川元一さんが書かれた「他者と働く」になります。
ちなみに、とのむらさんが書いたものはこちらになりますので、合わせてご覧ください。

▶課題図書

「他者と働く」 著者:宇田川元一

HRアワード2020 書籍部門 最優秀賞受賞をされており、チームで働く人たちには必読とも言える本になります。
日々、チーム内で分かり合えないと感じるときには読み直し、相手を理解するということや対話の重要性を感じています。

▶他者と働く in Hospital

私たちの仕事は「他者と働く」ことで成り立っています。そしてその「他者」はたいていの場合に役割や価値観が異なります。業種によっては資格や専門性も異なるのではないでしょうか。
この他者との異なりが良く作用した場合にはそれぞれの強みが発揮されるチームになるし、悪く作用すると対立が生まれてしまいます。

医療業界には『チーム医療』という言葉があり、様々な職種が関わり合って患者さんに向き合うため、一見すごく良い響きに聞こえますが、実際に機能しているものは少ないのではないでしょうか。

理由としては、

①様々な職種にはヒエラルキーが存在する
②ヒエラルキーの順に発言や意思決定力が決まる
③同じ階層内でも専門性の違いによって議論や対立が生まれやすい

医師の指示のもと、ぼくたちコメディカルはそれぞれの専門性を発揮するわけですが、上下関係や優劣が生じてしまった途端に対話が難しくなります。

例えばリハビリを例にしてみると、

理学療法士
「この患者さんは家に退院してからも転ぶリスクが高いので、手すりや段差部分の工夫をして転倒予防に力を入れよう。」

作業療法士
「でも、100%転ばないなんてことはないんだから、もし転んでしまった時のために床から立ち上がる練習をした方がいいんじゃない?」

理学療法士
「いや、環境整えておけば転ばないから!」

作業療法士
「・・・」

これは実際に病院であった会話なのですが。理学療法士と作業療法士がそれぞれの知識や経験則をもとに患者さんの方針について話し合っているものの、理学療法士による一方的な意見から、対話ではなく討論となってしまい作業療法士の視点が無視された結果となっています。

これはあくまでも一例ですが、似たような場面は日常茶飯事的に起きています。(以前ぼくが勤めていた病院だけだと信じたいですが...)

以前、このようなことをTwitterに書き込んだところ、「他者と働く」の著者である宇田川さんから貴重なリプライをいただきました。

私たちが持つ専門性を武器として振りかざしすぎると、相手との溝を深めてしまうということ。

▶︎対話に向けた4つのプロセス

本書のなかでは、対話のプロセスを「溝の橋を架ける」という行為に例え、説明されていました。

①溝に気づく
②溝の向こうを眺める
③溝を渡り橋を設計する
④溝に橋を架ける

で、この4つのプロセスを一言で言い表すならば「視点を変える」ということだとぼくは思います。

さっきの理学療法士と作業療法士の会話の例に戻りますが。理学療法士として患者さんのバランス能力を評価し、それに適したご自宅の環境を整えることで転ばずに生活することができる、と自分の専門性を活かして提案しました。恐らく今までの経験や学んできた知識として、この解は正しいと思い込んでいるのかもしれません。そして、この思い込みが視点を狭めてしまい、相手との溝に気づけない理由となります。

もしここで、相手の作業療法士の視点に立つことができれば(たしかにいくら環境を整えても転んでしまうことはあるかもしれない。そう言えばあの患者さんも自宅に手すりを付けたけど、また転んで入院になったな...)という、新たな気づきが生まれるかもしれません。

じゃあ、どうやって視点を変えるか。ポイントはこの2つだと思います。

①自分のことを俯瞰する
②相手の言葉や価値観の背景を探る

専門職として自分の得意な領域の知識や技術を身につけていくと、良くも悪くも自信を持ちます。その自信が誤った方向に働き「自分のやっていることは間違いない」と思ってしまうと視点が自分だけに固定化されてしまいます。

そうならないように自分のことを俯瞰する。(あれ?今までの経験ではこうだったけど、それでいいのかな?)と客観的な視点になることで、自分の判断基準や価値観を脇に置きフラットな気持ちで問題を向き合うことができます。この状態が対話のプロセス①②に当てはまります。

そして次に相手の意見に耳を傾け、これまたフラットな気持ちで取り入れる。その際、相手がどうしてそのような判断に至ったのか、相手が大切にしている価値観は何なのかを探るような雑談や対話ができると、相手の視点に立つことができます。これが対話のプロセス②③になります。

理学療法士
「この患者さんは家に退院してからも転ぶリスクが高いので、手すりや段差部分の工夫をして転倒予防に力を入れよう。」

作業療法士
「でも、100%転ばないなんてことはないんだから、もし転んでしまった時のために床から立ち上がる練習をした方がいいんじゃない?」

理学療法士
「たしかに100%転ばない人なんていないね。でも、その練習しておくとどんなとき役に立つの?」

作業療法士
「もし患者さんが転んでしまっても、床から立つ方法を知っていれば焦らずに対応できるじゃない?」

理学療法士
「なるほど〜。たしかにそうだね!」

視点を変えられるようになると、このような感じで対話することができ、新たな答えに辿り着くことができます。

冒頭でも述べた『チーム医療』を成り立たせていくには、このようにお互いの磨き上げた専門性を一度脇に置くということが必要になります。今まで築き上げてきた知識や技術を脇に置くというのは少し勇気がいるかもしれません。が、その少しの勇気を出すことで新たな視点を得ることができ、結果として患者さんに違った視点で関わることができるようになります。

「他者と働く」ということは、相手に興味を持ち、相手のことを知ろうとすることから始まります。コロナ禍でコミュニケーションをとることが難しい今だからこそ、そんな関わり方がチームを強くするのかもしれません。


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