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12回目で罪の意識に気付きました(道路交通法違反) 傍聴小景 #2

裁判ライターの「普通」です。

裁判傍聴をする理由というのはいくつかありますが、
わざわざ発信する理由というのは、それがなにかの抑止力や予防に繋がればと思っています。
そういう点で、今回の事例は皆さんにどのように映るでしょうか。

はじめに

罪名:道路交通法違反
被告人:30代前半の男性
傍聴席:10人

この歳になって、道路交通法違反系の裁判を傍聴する機会が増えました。
自分自身がその注意のためにというのはもちろんですが、周りの運転者にどんな人が潜んでいるかというのも事故防止に役立つのではと思うためです。

でも、どんなに注意しても、世の中には話が通じない人もいるわけで..

事件の概要(起訴状の要約)

・令和3年8月、被告人は無免許(期限切れ)であるにも関わらず、普通乗用自動車を運転した。
・またその運転中、車線を変更する際に後方から来たバスと接触したにも関わらず、警察に通報するなどせず、現場から逃走した。

どんな犯罪行為でも、聞けば驚きの連続ですが、その中でも個人的には「無免許」で運転している人が結構いることに特に驚きます。
今回の人は更新の期限切れでしたが、今まで教習所にも通ったことがないという無免許の裁判もたまにあるのでさらに驚きです。
パッとの考えなのですが、車は免許書をかざさないとエンジンがかからない仕組みとかにできないものなのでしょうか。タバコの自販機みたいに。

ダメですけど、運転の技術的な部分だったら免許無くてもできないことはないかもしれません。免許の更新時に技術的な部分も見られませんし。
ただ今回のような通報義務を無視して逃走したり、例えばケガをさせたかもしれないのに救護の措置を取らなかったりということがあると、やはり運転免許は「資格」であると強く感じます。

今回の被告人、その認識がとにかく弱いんです。

検察官による証拠や供述提示

被告人は当時、コインパーキングの集金の仕事をするために、車を運転していた。
免許の期限は令和3年1月までで、そこから事件の8月までずっと無免許だった。
今回、同乗していた仕事の同僚には、接触後に「逃げるぞ」と言ったが、同乗者に「警察に言わないと」と言われ、100m先のコンビニに停車。
そこから一人で現場に徒歩で現場へ戻り、バス運転手に「急いでるから」とだけ言いその場に残るなどせず、またすぐ戻って来た。
戻ってくるなり、「警察に無免とは言えない、ヤマモト(仮名・同乗者と違う会社の同僚)を替え玉にするぞ」と車を発進させ逃走した経緯が、ドライブレコーダーに記録されています。

ヤマモトさん..
それにしても短い間に整理しなきゃいけないポイントがいくつか出てきました。
・なぜ無免状態で運転していたのか
・なぜ事故を起こしたのか
・なぜ現場から逃走したのか
・ヤマモトがかわいそう!(なぜ替え玉にしようとしたか)

気になる詳細な部分を確認するのは被告人質問が一番です。

被告人質問(弁護人)

「免許の更新期限はいつだったのですか」
「令和3年1月でした」

「それに気付いてどうしましたか」
「もう過ぎていたので、ホームページを見たらコロナの特例で半年間猶予があると見て安心しました」

「でも、それはあくまでコロナの特例であるので、自分に当てはまらないと思わなかったのですか」
「これほど猛威を振るってるコロナに関わることなので、なんとかなるかなと思いました」

「結局、今回事故を起こしたのは8月です。その1月からの半年も過ぎてしまっていますよね」
「いつかしなきゃ、いつかしなきゃと思っている内に日が過ぎてしまいました」

このだらしなさは凄いです。
100歩譲って猶予の意味を勘違いしていた、200歩譲っていつかやらなきゃという思いはギリわかります。でも、過ぎちゃうのはダメだ。これ以上譲ったら、僕が別の事故にあっちゃう。

傍聴席には、恐らく被告人の母親と思われる女性が座っていました。
被告人は早くに結婚して家を出ていたので一緒には住んでいなかったのですが、その母親は自分の育て方が悪かったと思ってしまっているのか、ずっと下を向いています。

そのお母さんには本当に申し訳ないのですが、そのリアクションがいちいち大きいので、事件に対する感情ということでメモらせてもらいました。

「なぜ、車での集金業務をするようになったのですか」
同僚が、免許停止になってしまったんで」
「なんで、それであなたが運転することに」
「会社には無免と言ってなかったのと、まぁ大丈夫かなと思い」
「何が大丈夫なんですか?」
「バレなきゃ大丈夫だろうと」

お母さん、肩震えだしました。
子どものときはどうだったかわからないけど、こんなあっけらかんと、罪の意識がないことを話されると、それは辛いわな。

あ、あとお母さんのリアクションばっか見ちゃってスルーしそうになっちゃったけど、同僚が免停くらったせいみたいに言ってるけど、あんたそれ理由になってないからな。

「なぜ、そこまでして車に乗る必要があったのですか」
「業務委託として仕事を受けているので、それをまっとうしなければならないので」
「今回、三車線の一番右を走っていたあなたが、一番左の車線に一気に車線変更しましたね。なんで、こんな急な左折したんですか。」
急にナビが変わったんで

古き悪しき2chの時代には「QBK」なんて言葉もはやりましたがもうそれは時効なので、今後は「KNK(急にナビが変わったんで)」と交通事故防止のための標語にしましょう。
だらしない、事なかれ主義、責任転嫁、たくさん出てきました。正直、ここからどう弁護しようとしているのか想像もつきません。

「事故後、その場に留まらなかったのは何故ですか」
「逃走すればバレないかなと思い」

「いったん停まって戻ったのは何故ですか」
警察が来る前なら、内々でまとめられるかなと思ったので」

「その後、留まらなかったのは」
「行ったら、もう警察に連絡済みと聞いたので、もう内々に処理するのは難しいと思って」

お母さん、ハンカチを目に当てて泣き始めました。
なんとも難しいですね。30代の人の犯行ですから、親の育て方がとは思うつもりは全くありませんが、かなり性格的な部分がも出てしまっているので親としては反省してしまうんですかね。

「事故後、家族関係に変化はありましたか」
「離婚をして、住んでたマンションも解約しています」

「今まで、交通違反は何回くらいしてますか」
10~11回くらいでしょうか」

「今まで違反している分、無免許なのでより注意しなきゃと思わなかったのですか」
そのときは思いませんでした。捕まって、そう思いました」

お母さん、号泣。
12回も捕まらないと、交通違反の危機意識って芽生えないものなの?ってか、この人のことだからもっと違反の指導歴ありそう。と、思われるようになっちゃうんだよね。

「今回のように即裁判になったことはありますか」
「いえ、初めてです」

「今までも裁判を受けた経験はありますね。それは反則金を払わなくて裁判になったということですか」
「そうです」

「それは何回ですか」
罰金刑命じられた全部の回でです」

「なぜ払わなかったのですか」
いつか払わなきゃと思っているうちにですね

お母さん、2時間ドラマの最終盤みたいな泣き方をはじめました。役者には真似できない嗚咽です。
なんで、だらしなさエピソードが後半に行くにつれ増していくんだよ。M-1の理想的な構成みたいな人です。
裁判すらも抑止力にならないのであれば、もはや何がこの被告人を止めることができるのでしょうか

「今回、こういった裁判を受けて、重大な事態だということは理解していますか」
「はい」

「では、二度と犯罪を犯さないようにどうしますか」
今後はスケジュール帳を持って、しっかりスケジュールを管理します

お母さん、上を見上げて5分くらい動かなくてなってしまいました。「ちーん」という効果音がぴったり。最初マジで失神したんじゃないかとハラハラしました。

でも、この人の更正ってホントどうやったらいいんでしょうか。
悪い事とは多分辛うじて認識しているんですけど、優先順位のつけ方が狂ってるってことなんですかね。

あ、ちなみに替え玉にさせられそうだったヤマモトさんは、普通に被告人車内のドライブレコーダーの音声で、関係ないことがわかったので、特に巻き込まれることはなかったようです。

検察官も呆れ果てているのか、それ以上追求をしてくれなかったので、裁判官の質問というか、説諭に移ります。

被告人質問(裁判官)

「色々、後回しにしちゃうなど、しなきゃいけないことをしない悪い癖はあなた自身認識していますか」
「はい」

「あなたは仕事のために運転したというけど、その悪い癖って、仕事にも関わることだと思うんです。仕事はできるけど、交通ルールでは守れないは通じないと思うんです。
嫌なことは後回しにという気持ちは、同じ人間としてわからなくもないけど、後ろに回してもそれはなくならないんです。むしろ何倍にも跳ね返ってくるんです。
あなた今回のことがきっかけで離婚してしまったようだけど、自分に跳ね返ってるじゃないですか。
今回運良くケガ人などはいませんでしたが、左折時の事故なのであなたがケガしなくても、同乗者があなたのせいでケガをする可能性もありますよね。人がケガしたり、死んだりしねければわかりませんか?

お母さん、ハンカチを手に当てながら、ものすごくうなずいています。

それにしても裁判官って、とっさにこっちが言いたい事を綺麗に言葉にしてくれるからすごい人たちだよなぁと本当に思います。質問の場面としては「人がケガしたり、死んだりしねければわかりませんか?」までに11行使ってるのはコスパ悪いけど。

論告・弁論

論告
・常習的で極めて悪質
・規範意識が鈍磨しており、再犯の可能性は極めて高い
求刑 懲役十月

弁論
・当初は言い訳をしていたが、今は反省している
 (普通:どこが?)
・自業自得とはいえ、離婚しているなど社会的制裁を受けているともいえる

後日の判決は見ることができませんでした。

今後、この被告人が、どのように生活していくつもりかはわかりませんが、こんなだらしない人にも思いっきり泣いて悲しんでくれる親がいますので、この人には迷惑をかけない生活をしてほしいと切に願います。

交通ルールはもちろんだけど、自分も親に迷惑かけないようにしようと密かに思いました。

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