見出し画像

『星雲仮面マシンマン』に注釈を施し、1984年を多少語る(前編)

みなさんは『星雲仮面マシンマン』をご存知でしょうか。日本テレビで1984年に放送された等身大の特撮ヒーロー番組です。戦隊ヒーローや仮面ライダー、メタルヒーローとは異なり、後続作品の出現によって長期シリーズ化することがなかったため、当時の視聴者か特撮クラスタ以外の知名度はさほどないような気もします。

さて、執筆者はこの『星雲仮面マシンマン』を、〈Stay Home〉を遵守していた数ヶ月の期間を利用して視聴し、全36話を完走しました。視聴媒体はAmazonのprimevideoの内部に開設されている有料チャンネル「マイ☆ヒーロー」です。天本英世がレギュラー出演しているという関心で見はじめたのですが、全話を見終えたいま、私の経験していない1984年という年の空気をぞんぶんに吸った心地よさに胸が高鳴っています(隙あらば自分語りというやつですが、執筆者は平成一桁の生まれです)。そこで本投稿および後編では、同作のあらましや感想を述べつつ、画面に現れる1984年の風景に注釈を施すという〈カルチュラル・スタディーズ〉ごっこをやってみたいと思います。今回投稿する前編は梗概や私感を述べることに終始していますので、すでに作品をご存知の方やお忙しい方は後編に飛んでいただければと思います。

(1)作品のあらまし

『星雲仮面マシンマン』は1984年の1月から9月にかけて日本テレビ系列で放送された特撮ヒーロー番組です。制作は東映。原作者は石森章太郎で、キャラクター原案やアイキャッチのイラスト、主題歌の作詞を担当しています。以下、ストーリーを説明するにあたって、出演者は登場人物名の後ろに括弧書きで示します。

主人公はニック(佐久田脩)という宇宙人です。大学の卒業論文で太陽系の惑星の文化を調査するために地球に降り立ちますが、折しも〈テンタクル〉という組織が悪事を働いている場面に遭遇し、星雲仮面マシンマンに変身して場を収めます。そのとき助けたのが週刊誌のカメラマン・葉山真紀(塚田聖見)で、健は真紀に惚れ、高瀬健と名乗って当面地球で過ごすことに決めたのでした。以後、テンタクルが騒動を起こすたびに、地球の友人たちに隠れてマシンマンに変身します。

テンタクルの首領はプロフェッサーK(天本英世)で、アンドロイドを製造するなど非常な科学力を持っていますが、政治的な野望を持っているわけではなく、単に子どもをいじめて日々を過ごしています。子どもアレルギーの彼は、子どもが泣くのを見るとアレルギーが治まるのです。彼のアンドロイドのうち最高傑作である鉄人モンスは、プロフェッサーKのおこないは科学力の無駄遣いだと嘆きながら、Kのために末端アンドロイドを使ったり人間の悪人を買収したりして、手を替え品を替え子どもを困らせます。マシンマンは、テンタクルの首領の存在にも到達できないまま、毎度現れる怪人と対峙してゆくのですが、アンドロイドの場合は破壊し、人間の場合は特殊な波動を使って改心・自首させます(このプロットが本作の特徴です)。

中盤でマシンマンはついに鉄人モンスの破壊に成功し、傷心のKはスペインに旅立ちます。すると今度はKの姪のレディM(湖条千秋)が来日し、宝飾品や美術品の強奪を目的とする〈オクトパス〉を組織します。また来日するやいなや、おじ譲りの子どもアレルギーを発症し、子どもいじめの活動もおこないます。実働するのはスペインから同伴したトンチンカン(大島宇三郎)という男です。そのほか、レディMに友情や恋慕を抱く各国の犯罪者が来日して協力します。スペインにいるKおじさまも、アンドロイドの設計図を送ってくれたりします。

終盤、再起したKが帰国し、オクトパスとテンタクルの共同戦線が組まれるあたりがクライマックスです。二人は真紀の弟・勝(大原和彦)とその友人・美佐(秦暎花)を誘拐し、奴隷とすることで恒常的な健康を得ようとします。マシンマンは本部に突入し、トンチンカンを改心させることに成功しますが、KとMはマシンマンに破滅させられることを拒み、肉体を蒸発させてしまいます。煮え切らない結末を見届けたマシンマンは、卒論を提出するために一時帰星する、というところで本作は幕を閉じます。

(2)感想

■徹底した子ども路線

本作の作劇は基本的に、悪の組織が子どもをいじめるというパターンの上に成り立っています。そのいじめとは、女の子に髭を生やすとか、くしゃみがとまらなくなる焼き芋を食わせるとか、不愉快な音を聞かせるとか、生死を左右しないものが大部分です。真紀の弟である勝を中心とする小学生グループが、そうした被害に遇するというのが各回の発端となっています。いわば本作は、「大きな物語」を知らない子どもたちの視点で繰り返される、不幸な「終わらない日常」の到来の物語なのです。この特徴は、マシンマンが生身の敵を殺さずに改心させるという設定とも大きく関わっているはずです。また、子ども相手に躍起になるKやMのみならず、真紀の勤め先の『週刊ヒット』編集部の面々の言動がカリカチュアライズされているのも、作品のトーンを方向づけているでしょう。

■真紀=塚田聖見が美人

真紀を演じる塚田聖美は、当時20歳の若手女優。というか、本作以前には『クイズ・ドレミファドン!』のアシスタント歴こそあれ、女優としての実績はなかったようです。この塚田がなにせシュッとした美人で、高瀬健と真紀が回を追うごとに何の説明もなく親密になってイチャイチャしてゆくのを眺めるだけで価値があるというものです。おそらく年上とおぼしい高瀬健のあまりの非常識ぶり(なにせ宇宙人なのです)にあきれながら、細かいことを抜きにして引っ張ってゆく話の早さは、本作の見所の一つかと思われます。もっとも、繰り返しになりますが、何の説明もなく二人がどんどんいい感じになっていくのは、「ガキの出し物じゃねえんだぞ」と思います。いやついさっき徹底して子ども向けなのが面白いと書いたばかりなんですが。

■悪役のクセ

テンタクル編の首領プロフェッサーKを演ずる天本英世は言わずと知れた怪優ですが、レギュラーで出演していたの特撮番組は本作のほかに『仮面ライダー』があるばかりではないでしょうか。天本のしわがれ声を聴き放題なのがありがたいです。第8話「野球少年の秘密」では『仮面ライダー』で地獄大使を演じた潮健児と再共演していて、垂涎ものでした。

ただし話の筋自体は、オクトパス編になってレディMが首領になってからの方が起伏に富んでいたように思います。というのもテンタクル編では、マジで天本英世が怪人を使って子どもをいじめるだけなのです。オクトパス編に入ると、強盗計画という別の路線も加わり、またレディMを慕う各国の珍奇な犯罪者が来日してMとハイソに交流するという場面も出てきます。宝塚出身の湖条千秋が、ちょっと豪華すぎるくらいの雰囲気で画面を圧倒してくるのもコミで、ついつい最終話まで見入ってしまいました。

各回の悪人も、たまらない助演陣です。丹古母鬼馬二、青空球児、団時朗など、配役にクセがあります。第12話「子供が消えていく」にマジシャン役で出演した滝雅也は、『秘密戦隊ゴレンジャー』でもマジシャンを演じていました。最終回直前にモモレンジャーを苦しめたヨーヨー仮面の役です。第24話「対決! 忍者泥棒」でオクトパスに買収されかける老人を演じているのは、『バトルフィーバーJ』にて、降板した潮健児の代役でヘッダー指揮官を務めた石橋雅史。見落としていましたが、一昨年末に長逝されたようです。

(3)作品解釈の展望

後編では、『星雲仮面マシンマン』が孕む作劇上の特色を、画面に映り込む1984年的な表象に注釈をつける形で考えてゆきたいと思います。

本作は、敵組織のしょうもない子どもいじめをヒーローが止める(その合間合間にヒロインとの恋愛がいつの間にか進行する)という大枠を説明するだけでは、画面の奥行きに気づきにくくなっています。次回は、マシンマン、真紀、勝、プロフェッサーK、そしてナレーターの立ち位置を整理することで、その奥行きを空想してみます。

後編

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?