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水深800メートルのシューベルト|第1025話

 僕は先に食べ終えていたので、トレーを持って立ち上がると、坂になっていた床が揺れて急に水平になったので、体を投げ出されそうになった。周囲でコップや皿が落ちて立てる乾いた音や、「うわっ!」「シット!」という不意を突かれた時に反射的に出る声が漏れていた。いつも突然傾くことに慣れている乗組員も、この乱暴なトリム調整は想定外だったようで、恥ずかしそうに落としたコップを拾う二等水兵と目が合った。坊主頭で僕より若い男は、発令所で見たことのある顔だが、僕を見ると、遠慮がちに頷いてから目を逸らしていた。話をした事もないが、少し先に配属された僕に対して、怒られるのではないかと怯えているのかもしれない。

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