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水深800メートルのシューベルト|第890話

 曖昧に笑っていると、叔母さんは、僕の袖を引き、車を停めて降りて来たセペタに訊かれないような小声で言った。
「あの娘は機嫌が悪いみたいなのよ。ねえ、私、見たんだけど……、手紙が来てたのよ、アシェルに。覚えがないかしら? 女の筆跡だったわ。きっとそれが原因だと思うの」


 誰だろう? 彼女が言うからには、手書きの文字で宛名を書いたのだろうか、それとも中身を読んだのだろうか? その言葉を心で繰り返していると、いつの間にか近づいてきたセペタが片手をあげて叔母さんに挨拶をしているのが、目に入ってきた。

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