「す、すみません」
僕は怖くなって咄嗟に謝り、電池を外そうとしたが、彼はピアノを取り上げて頭の上にかざした。
「これが、ベーリング海での演奏だったら、俺たちはとっくに沈められて、深海魚の餌になっている。お前の下手くそなピアノのせいでな」
潜航中――つまり出航したら帰港するまでずっと――は音を立てるな、会話は小声でしろとは、配属されるときに何度も注意を受けていたはずなのに、電池を抜き忘れて、電源も入っていたなんて……。ドビーにこってりと絞られ、艦長のクリストファー中佐からは戒告処分を受けた。その苦みが舌の奥から湧いてくるようだった。
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