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水深800メートルのシューベルト|第873話

「だから、お前、ちょっと泳いで俺たちを楽しませてくれや、そら」
 彼が押してくる手にはかなり力があった。嫌だ! 怖い、怖い。また昔のように息が荒くなりそうだ。二十二にもなって、こんな目に遭うなんて、軍隊はなんて理不尽なのだろう。いや、ロバートの残忍さは、いいひと揃いの原子力潜水艦ではとびぬけて酷いものなのだ。運が悪かっただけだ。


 押されたはずみで足を滑らせ、尻もちをついた。そのまま真下に見える濃紺に白い泡が立つ波の中へと引き摺り込まれそうに思えた。慌てて近くの何かに縋って掴まろうとした。しかし、近くにはロバートの足しかなかった。

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