彼(ゲイルさん)は、ずっと何も言わない僕に当惑していたようだった。すると、鞄からメモ帳を取り出し、ペンで素早く何かを書きつけると、紙片を破って僕に突き出した。
「これ、連絡先だ。気が変わったり、困ったことがあったら連絡すればいい」
その紙に手を伸ばすと、バンッと叩くように先にそれを掴み取った手があった。
向こうに行きかけたママの手だった。
「余計なことをしないで、ゲイル。アシェルは母親を捨てたのよ!」
ママは、それをクシャと握り潰すと、通りがかりの墨色の帽子を被った店員に渡していた。
第230話へ戻る 第232話へつづく