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水深800メートルのシューベルト|第231話

彼(ゲイルさん)は、ずっと何も言わない僕に当惑していたようだった。すると、鞄からメモ帳を取り出し、ペンで素早く何かを書きつけると、紙片を破って僕に突き出した。

「これ、連絡先だ。気が変わったり、困ったことがあったら連絡すればいい」
 その紙に手を伸ばすと、バンッと叩くように先にそれを掴み取った手があった。
 向こうに行きかけたママの手だった。

「余計なことをしないで、ゲイル。アシェルは母親を捨てたのよ!」
 ママは、それをクシャと握り潰すと、通りがかりの墨色の帽子を被った店員に渡していた。

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