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遠距離でも本当に好きだった話

幸せだった。
今も幸せだけど、また違った幸せがいくつもあった。

私のことを見る優しい目も
頭を撫でる大きな手も
子供みたいな寝顔も
私にだけくれる優しさも
全部好きだった。

好きというか寧ろ、愛だったのかも、と思う。

小籠包が上手く食べられないところも
スケートが下手なところも
たまに強がりなところも
全部愛しかった。

遠距離になるとわかっていながらも、それでも好きだから、と言われた。距離とかどうでもよかった。とにかく好きだった。恥ずかしくて言ったことないけど、愛していました。


遠距離は、最初こそ寂しいけれど、
会える日は特段に特別で、
久しぶりに手を繋げばその感触が嬉しくて、

幸せで、無敵だった。

会える時間を大切にしたかった。
限られた時間を、全て幸せな時間にしたかった。

だから喧嘩したくなくて、
嫌なことがあっても、怒れなかった。

拗ねたり注意したりはしてたから
私の気持ちを我慢しているわけではない。

寧ろ、自分の気持ちを波風立てずに相手に伝えられてて
あれ、自分ってイイ女じゃね、とまで思ってた。


だから面と向かって感情をぶつけたことも、ぶつけられたことも、なかった。

いつからか、
一緒の空間にいても放置されたり、
私のしたいことを覚えてくれなくなったり、

私への興味が薄れているなと感じる瞬間が多くなった。

それでも、私は彼と向き合う方法を知らなくて、話をしたら別れよっか、と言われそうで、勇気がなくて、

仕事とか勉強とか、他のことに逃げて考えないようにした。


と言いながらもやっぱり寂しくて
考えないことなんてできなくて。

久しぶりに会った1月、
寝ようとしている彼の腕の中で
「もっと私を大事にしてほしい」と呟いた。

言いたくなかった言葉を、言った。

「ごめんね」「気をつけるね」
そんな言葉が欲しかったのに。


「これが俺だからなあ」と無気力な返事が返ってきた。


ああもう終わりかも。やっていけないかも。

ベッドの上で、彼に背を向けた。

バレませんように、と思いながら、
もしくはいっそバレればいいのに、と思いながら、静かに泣いた。




実際に別れを切り出されたのは、それから1週間後のこと。


初めて彼から、今日話そうか、とLINEが来た。

電話とはいえ、初めて彼とちゃんと話す機会。

最初で最後なんだろうなと思いつつ、
深呼吸をして、電話に出る。

「もう別れた方がいいと思ってて」

彼はそう言って「別れるべき理由」をいくつか並べた。本心かどうかもわからないけど、私は意外と冷静に、うん、と相槌を打った。

「きなりは寂しがり屋だから、近距離の人の方がいいんじゃない」

私が寂しがり屋なのは、君にだけなんだって、知ってるくせに。

寂しいと思いつつ、会った時に特別幸せを感じる遠距離恋愛も、それなりに楽しんでいたんだけどな。


「ずっと遠距離はできないけど、きなりが東京に戻ってくる予定もないしさ」

今が楽しければ良くて、将来のことを考えるのが苦手な君が、今、将来の話で私を振ろうとしているのか。

私が将来のこと、ちゃんと考えて、迷ってるところだって、知ってるよね。
知ってるのに、そんなことが言えちゃうんだね。


話を聞きながら、心の中で色んな言葉が交差して
溢れ出た言葉は

『要は、冷めたってことだよね』

君は優しいから、最後まで肯定しなかったけど
君は素直だから、否定もしなかったね。

これからを話し合うこともできたのに、君はもう既に1人で、2人の間のことを決断したらしい。

最後まで、自分勝手だね。


全部が好きだったけど、
自分勝手なところは、少し嫌いだったかも。

『うん、分かった。今までありがとう。楽しかった。元気でね。』


最後の電話は、たったの3分だった。
終わる時はすぐ終わる。


そのまま夜の公園で泣き崩れて、
友達に電話をかけてまた泣いて、
翌日は泣きながら仕事して、
ご飯も食べられなくて、
ベッドに入ると彼の腕の中の感触を思い出して、また泣いた。

お互いに別れた方がよかったことは知ってるし、
1人でも楽しいのも分かるし、
月日が経てばいい人と出会えるのも知ってる。

頭では分かっているけど、心が追いつかなかった。追いつかなかった分、涙が出た。


他のことで気を紛らそうと思っても、全てが彼に繋がってしまう。
外にも中にも、彼との思い出がありすぎて、鮮明で、辛かった。


それでも段々と、別れている状態に慣れてきて、私と彼との関係を見直すことができるようになってくる。

彼と面と向かって話をする機会を作らなかったこと、よくなかったなぁとか

付き合ってから、好きになってもらう努力をしてなかったなぁとか


熱したものが冷めるのは必然だけど、
私ができることはたくさんあったということに気づいた。

気づいたときには、少し心が軽くなっていた。

時間の経過がそうさせたのか、
この思考がそうさせたのか分からないけれど、
なんとなく、心が追いついたようだ。



それでも、2ヶ月経った今でも、彼を忘れることはない。

まあ忘れなくても、いいと思う。
てか忘れられないわ、多分。

昔好きだった人。愛していた人。
幸せをくれていた人。

私にとって大切で、特別で、幸せな時間を一緒に過ごした。
そんな人と恋人同士でなくても、特別な存在であることは変わりない。

特別は、特別のままでいい。
私の気持ちは、私が大切にしてあげるのだ。


失恋して、私は少し大人になりました。
君はどうですか。


私と恋人だった期間が、君にとって良い思い出だったらいい。

そしていつか勝手に、幸せになったらいい。


その前に少しだけ、私と別れたことを後悔してたらもっといい。


なんてね、ありがとう、幸せでした。


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