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先達手の足跡を辿る【2015.02 貴船山・鞍馬山】

寒気の流れ込む京都盆地よりもまた一段寒い京都北山、貴船山へと向かった。叡山電鉄というローカル列車に揺られながら、京都の町中の景色から雪の被った山並みへと風景が変わっていくのを眺める。この日は、大学1年の時に鳥取砂丘で出会った友人との山行だ。もう何回目かの雪山になるが、友人と来るとまた、一面真っ白な景色に佇む気持ちも違ったものになるだろう。それはきっと孤独とは別のなにか、だろう。


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駅に降り立つと、スロープに霜が降りていた。薪ストーブの煙が風でなびいている。奥山らしい生活の香りがする。朝日はまだ傾いたままで、橙色の町並みが目に優しい。つんとした寒さの中、私たち二人は貴船神社へと向かうバスを待つ。

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麓にある貴船神社は、近年観光地として人気のある場所だが、貴船山はハイカーでに賑わうような山ではない。針葉樹に囲まれた北山らしい山。雪で埋もれた道も多く、地形図を眺めながら慎重に歩を進めていく。先行者がいると、足跡がはっきりしていてありがたい。

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途中から足跡がなくなった。違うルートに分かれたようで、ここからは何の足跡もない純白な雪道に新しい足跡をつけていく。創造的な登山。時間が経つにつれて気温が上昇していき、雪解けした雪の塊が、ばっさばっさと頭上に落ちてくる。静かな雪原とはほど遠い、春の動き出す音で騒がしい雪山。

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私と砂丘、二人だけの足跡に。いつからか動物たちの足跡が交わり、離れ、また交わりを繰り返していた。それはそうだ、登山道を歩くのは人間だけであって、動物には道など関係なく、縦横無尽に駆け巡る能力があるのだった。ただ不思議なのは1匹だけ、私たちとまったく同じ、登山道に忠実なルートを辿る先達手がいたこと。彼の通り道に登山道が重なっているのか、はたまた彼が登山道を道として利用しているのか。もうひとつの人生がたしかにここを通ったのだ。

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貴船山を下山した後、今度は鞍馬山に登りついた。鞍馬山は貴船山とは一転、森林遷移の最期の段階にあたる極相林として知られる。老熟した森林は陰樹と呼ばれる耐陰性の強い木々で構成され、暗くて大きな森が目の前に広がる。山がひとつ変わるだけで、これだけ森林構成が変わってしまうのが山面白い。

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下山した後は、鞍馬温泉という露天風呂に入った。シャワーを浴びる時間が何かの拷問のように寒く、また湯船の温かみが尋常でないほど身体に沁みこんだ。いままで浸かった湯船のなかで、このときの湯が指折りに気持ちよかった。このとき浴びたシャワーは、いままで浴びたシャワーのなかで指折りに寒かったけども。


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