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「五百羅漢さざゐ堂の景」−狙いがどっちかによって技量が異なる、、−『江戸名所道戯尽』

今日は論文3本と2冊の本を読み進めることができました。
去年の今頃とは大違いに1日にみる活字量が爆増しています。笑

ただ読むスピードが早くはないのでそれが難点です。
効率は良くない気がするのでもっと集中力上げていかないと、、と焦ってしまうことがあります、、。

そんな集中力の向上を願う今日も広景。今回は『江戸名所道戯尽』の「二十六 五百羅漢さざゐ堂の景」です。

◼️ファーストインプレッション

長い竿を持った男性が木に向かって指しているかと思いきや、柿の木によじのぼっている男性の髪の毛に引っかかっている。
まるで悪魔のキャラクターのような日本の角を生やしているみたい、、笑

柿の木によじ登って柿を泥棒しているこの男性をとっ捕まえようとしているのか、柿を落とそうとしていた時の事故なのか。

それをみる女性の口元は心なしか笑っているように見えるので前者、逮捕の瞬間にも見えなくもない。

後ろの景色に見られる建造物は五百羅漢寺ですね。以前北斎『富嶽三十六景』でも、広重『名所江戸百景』でも見たことのある建物です。
現在は目黒区にありますが、江戸時代当時は江東区大島・住吉の真ん中にありました。
ここは絵にも描かれている通り高台にあって、お堂に螺旋状の階段をもつ三匝堂というお堂があるために「さざえ堂」と呼ばれていたことは上の2作品を見たときに調べました。

参考書日野原健司さんの『へんな浮世絵 歌川広景のお笑い江戸名所』によると、この竿を持った男性が「鳥刺し」という職の人で、このように長い竿を用いて小鳥を捕まえる人のことであるらしい。

この職業について深掘りしてみたいと思います。

◼️鳥刺し

この鳥刺しが竿の先端に「とりもち」という素材を付着させているらしい。
知らなかった。

『日本大百科全書』によると、

とりもち/鳥黐
鳥類を捕獲するために用いる「もち」。モチノキ、イヌツゲ、ソヨゴ、ヤマグルマなどの樹皮を水漬けして腐らせ、洗って残った植物ろうを搗 (つ) き、よく練ってつくる。いっそう柔らかくするには、植物油で煮て練る。保存するには水に漬けておく。粘度が高いため、鳥類の翼につくと羽ばたきができなくなる。おもにカモや飼い鳥用の小鳥の捕獲に用いられ、竹のひごや藁 (わら) に塗ったり、水草の繊維でつくった縄に塗って、地上、樹枝上、水田の中、池沼の水上などに設置する方法で長らく各種鳥類の捕獲に使用されてきた。鳥類をもがき苦しめさせて残酷との理由で、1971年(昭和46)以降、狩猟用としては禁止され、現在は、有害鳥類の駆除、飼い鳥の目的で捕獲する場合などに必要のあるとき、環境大臣から鳥獣捕獲許可証の下付を受けて使用する定めになっている。

現代は使用にも許可が必要な素材ではあるものの、調べていると野良猫がこれに引っかかって怪我を負っている画像が出てきたので許可なく使用する人もいるのかな、、。

かなりネバネバしたもので、想像しやすいのはゴキブリホイホイの付着部分。
それくらいの粘着度を持つ素材を竿の先端につけて鳥を捕まえるのが鳥刺しですね。

『日本国語大辞典』には、

(1)細い竹竿などの先端に鳥黐(とりもち)を塗りつけ、小鳥を捕えること。また、その人。特に、小鳥を捕えてそれを売るのを業とした人。
*三十二番職人歌合〔1494頃〕三番「右 とりさし 春は又ところも花の千本にみせをくたなの鳥のいろいろ」
*運歩色葉集〔1548〕「鳥指 トリサシ」
*俳諧・千鳥掛〔1712〕「鳥さしも竿や捨けんほととぎす〈芭蕉〉」
*雑俳・川柳評万句合‐宝暦一〇〔1760〕天二「鳥さしの捨た落葉が足に付」
*江戸繁昌記〔1832~36〕五・鳶烏雀犬鶴「時に看る、承鳥人(〈注〉トリサシ)竿を執り、悄々伺ひ去る。雀等認得て錯愕、決飛す」
*玉突屋〔1908〕〈正宗白鳥〉「鳥差しが鳥を狙ふやうな態度でキューを突出した」

このように載っておりました。今回は少し面白そうな例文があったのでそちらも掲載。

例文三つ目の芭蕉の句
「鳥さしも竿や捨けんほととぎす」
という句は「鳥刺しも竿を捨てるほど美しい時鳥である」という意味なのかなと考えました。
美しいなのか、鳴き声を聞いていたいなのかはわかりませんが、その時鳥の存在を崩したくないと思った鳥刺しについて歌ったものだと思います。
鳥刺しは狩猟の一環として鳥を捕まえていましたが、やはり鳥ならばなんでもいいのではなく、美しく心惹かれるものにはその行為は怖気付いてしまうものなのですね。

その一つ下の句についても見てみます。
作者は不詳ですが、
「鳥さしの捨た落葉が足に付」
という句。
今回の絵のように鳥に向かって竿を刺したところ、鳥を捕まえた鳥刺が鳥に付いていた落ち葉を取ったところ、その落ち葉が近くにいた人の足に付いてしまったという状況。きっとこの落ち葉にはトリモチが若干付着していて足に付いてしまったというオチがある光景を歌ったものなのでしょう。

鳥刺しを描く浮世絵ってほとんどないんだろうなあと思っていましたが、意外とある!
まずはこちら。

二代目歌川広重『新板鳥さし双六』です。
一番下の真ん中に鳥刺が描かれています。そこからピンクの番号が出たところに移動する仕組みなのですね。
ここの鳥刺しは自分より遥かに長い竿を掲げて走っているようにもみられます。
ここに描かれる鳥たちは日常的に良く見る鳥やあまり見かけない珍しい種もいますので、全て実際に鳥刺しが捕獲できたものとは限らないと思いますが、インコや鶴も捕獲の対象として描いていることに驚です笑。


こちらのページを参照したときにはこんな絵が。

国立国会図書館 蔵

葛飾北斎『今様櫛[キセル]雛形』です。
この作品群はキセルに描く、というか木目のところに掘るデザインをたくさん集めた画集です。

なのでイメージがしやすいのはこちらの写真かもしれません。↓

このように縦長にキセルの形にはめて、デザインしているということなのです。

そのデザイン案の一つがあの鳥刺しのデザイン。

『富嶽百景』の一つになっていてもおかしくはないデザインですね。
凧なのか鳥なのかわからない何かを鳥刺しは標的にしています。

やはり竿は彼の身長の二倍はゆうにありあそう。
コントロールを間違えると人を殺しかねないものですね。
なので今回の絵の鳥刺しは非常に腕のある人間というか、運のある人間というか。
目標を定めていたならばお見事だし、標的を気にしていなかったならば頭を刺していない運の良さがあると言ったところでしょうか。

鳥は空の生き物なので、陸の生き物を捕まえるのとでは訳が少し異なることがこの鳥刺しという職業を知って、気づけました。

今回見た『今様櫛[キセル]雛形』、面白そうだなと思いました。
他の北斎の作品と比べたり、『北斎漫画』のように画譜にして活用できたり、まだまだ可能性がある作品群だとわかった収穫です!

今日はここまで!

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