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デジタル時代のセカンドブレイン仕事術(その2) - クリエイティビティとは何か?

前回の記事では、AIやデジタル化時代を生き残るには、独自の視点と解釈を持つクリエイティビティが必要だという議論をしました。

しかし、クリエイティビティとは何か、どうしたらそれを開発できるのか。

その条件を明らかにする必要があります。

次の5つから検討していきます。


1. 特異な関係性をみつける

創造性とはオリジナルな視点から生まれる」とよく言われます。

本当にそうでしょうか?

もしそうであれば、普通の才能しか持たないほとんどの人にとって、クリエイティビティを諦めなければなりません。

ここに1つのヒントがあります。

認知心理学者のナンシー C. アンダーソンは、「創造性の高いクリエーターは、関係性を理解し、複数の情報間での連携性やつながりを見つけることに長けている」とThe Atlantic紙に投稿しています。

様々な既存の仕組みやシステムを分析し、そこから新しいつながりを見つけて行くことが創造性につながっていくというのです。

これには、2つの実例を考えてみます。

ニクラス・ルーマン

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一人目は、ドイツの社会学者で、社会システム理論で世界に認められたニクラス・ルーマン(1927年12月8日 - 1998年11月6日)です。

彼は、「知的生産の技術」の著者である梅棹忠夫氏とちょうど同じ時期に、ヨーロッパでカード方式の情報システムを開発活用していました。

ルーマンの情報システムは、規定のアルファベット順のカテゴリ分類を拒否しました。そしてこれは、カード全体を一つのプロジェクトとして扱う、セマンティクス指向の無限のカードシステムでした。

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また、インデックス番号と符号による独自のメタ情報を管理します。パーマネントID番号で、参照リンク付けをし、枝分かれし上流と下流の関係も持つ画期的なものです。

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さらに、現代のインターネットにも共通するハイパーテキストのような仕組みを持っていました。

ルーマンの言葉によれば、これは彼の第2のメモリー(Zweitgedächtnis)であり、また読書メモリー(Lesegedächtnis)でもありました。

それは、思考を持ったパートナーとして、実際にコミュニケーションしていたというのです。

ルーマンの画期的な「社会システム理論」と関連する著作は、この既存の情報を分析したカードシステムから発想を得ています。


レオナルド・ダ・ヴィンチ

もう1人は、レオナルド・ダ・ヴィンチです。

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ルネサンス期を代表する芸術家であり、「飽くなき探究心」と「尽きることのない独創性」を兼ね備えた人物とルネサンス期を代表する芸術家であり、「飽くなき探究心」と「尽きることのない独創性」を兼ね備えた人物

と、Wikipediaで評されています。

彼のダ・ビンチノートは非常に有名です。7,000ページ以上のノートが現存しますが、地政学、植物学、解剖学、音楽、軍事工学、天文学など多岐にわたります。

これらは、身の回り全ての世界の現象に関する探求と実験を目的としていました。

分類などに整理されずに、移り変わる様々な分野の関心に従って進んでいったと言われています。

例えば、モナリザの微笑みの描写のために、数え切れないほどの唇の筋肉や口の骨格を研究しメモにしながらデッサンしていました。

このノートの整理については、最小限の枠組みしかありませんでした。その多くは乱雑で彼個人の使用のみに作成されていました。

独自の速記手法で書かれていたり、一部は考えるスピードに筆が追いつかなかった形跡があるようです。

これら2つは、どちらもクリエイティブな極端な例です。

いずれも、既存のシステムや現象を注意深く分析し、それを記録してつながりを見つけて、新しいアイデアへ結びつけようとしていました。

2. 体現できる実物モデルを作る

クリエイティビティのもう一つの特徴は、アイデアを手に触る実物にすることができる能力です。

私たちは頭の中の概念的なアイデアではなく、目の前にある実物と触ることのほうが容易に理解できます。

National Research Councilの書籍「Learning To Think Spatially」は、ワトソンとクリックが実物モデルを使うことでDNAの構造を発見できたとしています。

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外部の構造物として目の前に体現することで、二次元のダイアグラムでは見ることのできなかったアプローチベクトルを発見できたのです。

実はこれには、AIは必要ありません。また、少なくとも現時点では、コンピュータの能力的にも、人間の脳の想像力の方が勝っています。


3. 長期間にわたってアイデアを育てる

これには、ノーベル賞科学者たちの頭の中をのぞいてみることにします。

これは、「スローバーン(slow burn)」というメソッドで、長期間にわたって研究を継続した結果として到達できるノーベル賞のような成果をもたらします。

例えば、リチウム電池の発明して吉野彰氏の研究は、当初は導電性ポリマーでした。しかし、その研究は壁に突き当たりました。

その後に方向転換をして、いくつもの基礎研究の分析と試行錯誤の実験からつながりを発見し、2019年に受賞したノーベル化学賞のリチウム電池の発明へと発展していきました。

ノーベル賞物理学者でありMITの教授であったリチャード・P・ファインマンの次のように語りました。

あなたは12の問題に対する質問を常に頭の中に持ち続けなければいけない。いずれにしても、ほとんどの場合はなんの答えも得られない。新しいテクニックや回答を目にしたとき、この12の質問に照らし合わせて何か得られるか試してみるんだ。でもときどきはヒットがある。そして人々は言うんだ「一体どうやってそんなことができたんだ?あなたは天才だ。」

Ten Lessons I Wish I Had Been Taught, Gian-Carlo Rotaより翻訳

大きな革新的研究成果は、このような革新的な命題に答えるべく、長い期間にわたって積み重ねた研究成果(ナレッジ)の上に初めて可能になります。

例えば、私たちが読書をするとき、それがその後どのような成果に結びついていくのかをあらかじめ予想することは、ほとんどありません。

日頃のノートを取る行動も、業務日誌や個人的な日記も、その後のプロジェクトでどう使うかを前提にしたものとして捉えられていません。

1つのプロジェクトからの成果や反省点など、次のプロジェクトにどう生かすかなどもこれに当たります。

私たちには、システム的なアプローチで捉えて創造性・クリエイティビティを改善していくようなプロセスは皆無と言えないでしょうか。


4. ユニークな解釈と視点を可能にする材料を提供してくれる

この記事のシリーズの冒頭で、テクノロジーに代替される職種とされない職種があるとお伝えしました。

テクノロジーに代替されない、今後将来にわたって必要とされ高い価値を生み出す新しい革新的な考え方を生み出すアプローチが、今、必要です。

新しい視点やアプローチを可能にするアイデアを取り出すために必要な整理された知識のシステムが前提です。

そしてこれには、現在のデジタルデータが氾濫する環境で多種多様で大量のデータを保存、整理し、すぐに取り出す方法を提供してくれるツールが必要なのです。


5. 共鳴によってアイデアを生む機会を増やす

大量にデータを集めるだけでは、新しいアイデアは生まれません。

爆発的に増殖するデジタル情報から、必要な知識を半自動的に集め、自分自身の12の質問に共鳴する情報を広範囲に集めていくプラットフォームが必要です。

そしてこれは、集めた知識を日々のプロセスと並行して要約・凝縮する、断片化した知識を俯瞰して考えることを可能にする場所とならなければなりません。

集めた時、当初は見えなかったものが、長い期間を経て見えてくるときがあります。自分自身のキャリアを通じ、その場所を提供してくれるツールが必要なのです。

クリエイティビティ - まとめ

しかしそれは、デジタル情報が氾濫する環境では、これまでの紙の情報カードでは不十分です。

これには、ニクラス・ルーマンやレオナルド・ダ・ヴィンチが生涯にわたって作り上げた創作のためのノートを、半自動的にデジタルベースのナレッジシステムにしてくれるものが求められています。

それは、一体どのようなものでしょう?

次回、でそれ詳細をお伝えしたいと思います。


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