見出し画像

火葬研究の第一人者に聞く最新火葬場事情 第2回 コース料理や一般人利用可能のカフェも!明るくオープンなヨーロッパの火葬場、なぜ日本とこうも違うのか?

一般社団法人火葬研の代表理事である武田至さんに、最新の火葬場事情を伺うシリーズ。第1回では、ヨーロッパの火葬場における先進的な環境対策についてお話をいただきました。第2回となる今回は、火葬場のデザインやサービスの違いにスポットを当て、なぜ大きな違いが出てしまうのか、価値観や文化の違いを紐解きながら詳しく解説いただきます。

洗練されたカフェのような会食室(ハーグ・ダウナー火葬場/オランダ・デンハーグ)

日本では火葬場に「暗い雰囲気で、近寄りがたい場所」というイメージを持つ人が多くいます。実際、日本における従来の火葬場は、死を扱うため忌避施設として、避けられてきた歴史があり、居住地から離され谷地などの見えない場所につくられてきました。仏式の葬儀が多かったこともあり、儀式を重んじる仏教寺院のような厳粛な雰囲気を重視したデザインの火葬場から、イメージの向上のため、ホテルのような明るいデザインの施設へと転換を図ってきましたが、完全にマイナスイメージを払拭するまでに至っていません。一方のヨーロッパ、とりわけベルギーやオランダにおいて、とくに新しい火葬場は明るく開放的な雰囲気を持っています。特に地中海沿岸に比べ、晴れる日が少ないベルギーやオランダは明るい建物を好む傾向にあります。大切な人が亡くなり滅入っている時に、暗い空間はより気持ちが落ち込みます。火葬場でも一面ガラス張りで外の景色が見渡せる葬儀式場を設けていたり、外観から火葬炉まで全てが真っ白でクリーンなイメージを醸し出していたりと、日本では想像できないデザインの火葬場があります。オープンな火葬炉室とし、死をデザインするということで、建築家が火葬炉設備も建物に合わせてデザインします。

白いキューブの形の火葬場(ハイモーレン火葬場/ベルギー・セントニクラウス)
外観デザインに合わせて火葬場内も白一色(ハイモーレン火葬場/ベルギー・セントニクラウス)

デザインだけでなくサービスにも、日本と違うところがあります。ベルギーとオランダの火葬場では、火葬炉と葬儀式場の他に、火葬中に食事ができるカフェや会食室があり、それだけなら日本でも同じですが、例えばベルギーの火葬場ではフルコース料理が出てくることもあるほど、食事に力を入れています。ワインが自由に選べたり、ビールサーバーがあったりと、サービスはさまざまです。教会から火葬場併設の式場での葬儀に変化しており、葬儀の後に参列者が食事をし、語りあうことがグリーフケア※の一環として重要視されているためです。

もちろんヨーロッパの人々にとっても人の死は重く辛いものです。しかし、火葬場や墓地は明るくオープンで、そこにまず日本との違いを感じます。日本は死を忌み嫌い、避ける傾向にありますし、火葬場に関わる職業を蔑視する傾向が長きにわたってありました。しかしヨーロッパでは、そういった職業差別はみられません。火葬場のマネージャークラスになると、経営やサービスに関する修士課程を修了していないと求人に応募できないほどです。それほど、大事な家族を喪った遺族への接遇が重要視されているということでしょう。

※グリーフケア:大事な存在との死別を体験した人の心に寄り添い、見守り、希望が持てるよう支援すること

なお、なぜオープンな火葬場としているのか。第1回の記事でも言及しましたが、ヨーロッパの火葬場には、宗教上の理由から埋葬を行ってきた風土のなかで「このままではお墓が足りなくなる。国土を有効活用するために衛生的で合理的な火葬を選ぼう」と叫び、今の地位を勝ち取ってきたという歴史があります。「火葬では死後に復活できない」「死後に焼かれてしまうのは不安」と迷う人々に、明るくオープンな火葬場を見せることで「やましいことは何もやっていない」と暗に訴えている。そんな側面もあります。ノルウェーのオセロには、外から柩を燃やす炉室の中を見ることができる火葬場があるほどです。

美しく明るい火葬場は働く人のためでもある

ヨーロッパの火葬場は、外観や利用者のための空間が明るく美しいだけではありません。働く人の空間も大事にされています。作業通路に絵画が飾ってあったり、職員の休憩室にカフェがあったり、利用者が立ち入らない炉室にステンドグラスがあしらわれていたり。イギリスには、場長が事務所にお菓子をたくさん用意してくれ、自由に食べて良いとしている火葬場もありました。

火葬場に限らず、日本は労働者のための空間を重視しない傾向があります。利用者のための空間が整えられているのに対して、事務室は狭く殺風景というのは、官民問わず多くの施設で見られるケースです。一方で、ヨーロッパは働く人のための空間をしっかりデザインする。ここにも、考え方の違いがみてとれます。

合理性を重んじ歴史を重視するヨーロッパ、死のタブーから抜け出せない日本

ヨーロッパには、合理的な考え方をする一方で、今に積み重なる歴史を大事にする風土もあります。使われなくなった火葬場の歴史を残すため、文化施設やレストランにリメイクするケースや、古い墓地をそのまま公園にするケースもあります。「火葬場だった施設でお茶なんて、気味が悪い」という考え方ではなく、「この施設が火葬という形で地域貢献してきたから今がある」「良いもの、歴史あるものはそのまま引き継いでいこう」という考え方を大事にするのです。

閉鎖となった古い火葬場を活用した複合文化施設「サイレント・グリーン・クルチュアクウァルティーア」内のカフェ。予約しないと入れないくらい人気がある(ドイツ・ベルリン)

日本では死をタブー視するため、古い火葬場はすぐに取り壊し、なかったもののように振る舞います。火葬場の建物を残しカフェにするなどといった考え方は、なかなかとれません。

壮大な景色に思わずカメラを向ける火葬場が、日本に完成!

今回ご紹介してきたように、ヨーロッパの火葬場にはお別れの場としての美しさ、クリーンな明るさ、癒しを与えるおもてなしの空間を大事にデザインされたものが豊富です。日本の火葬場は儀式をするのにふさわしい荘厳さのある空間が好まれてきましたが、今後は変わっていっても良いのではないかと考え、火葬場設計のアドバイスをしています。

というのも、日本の喪主は忙しすぎるためです。看取りが終わればすぐに葬儀の打ち合わせがあり、火葬までノンストップで動かなければなりません。葬儀が終わるまでは睡眠が十分に取れませんし、常に緊張感の中にいます。

最後のお別れをする火葬場を、喪主がゆったりとした気持ちで故人と向き合あえるよう居心地のいい空間にしたい。遺族が安らげるようにしたい。そう考えながら、癒しの場としての火葬場を提案しています。また火葬中も故人と向き合えるよう、炉前と待合を一つにユニットとした平面計画の提案など、それぞれの想いで自由なお別れができる空間となることにも配慮しています。直葬が増えた現在に対応するよう、自由なお別れが可能となっています。

そんな考え方が実を結んだ火葬場の1つに、2021年に供用を開始した静岡県の伊豆の国市斎場があります。伊豆の国市斎場は、市民の方々と話し合いを行い、癒しと明るさの火葬場をとアドバイスして生まれた火葬場です。待合室や炉前ホールに大きなガラス窓が設けられており、富士山を望めるようになっています。

「伊豆の国市斎場 梛(なぎ)の杜(もり)」から見える富士山。通常、火葬場施設内を撮影する人はあまりみられないが、ここに訪れた人の多くはカメラをこの富士山に向ける(静岡県)

また、2018年に竣工した埼玉県入間郡越生町の「越生斎場」では、もともと火葬中に炉前に行き焼香する習慣があったことから、火葬炉の上にガラス張りの吹き抜けを設け、2階の待合室からいつでも火葬炉が見えるよう設計しています。また待合室とは別に、落ち着いた雰囲気のラウンジも設けました。日本の火葬にも開放感や癒しをと、日々設計の提案を行っています。

越生斎場の告別・収骨室。吹き抜けガラスから自然光が入る。真上は待合室(埼玉県)
越生斎場のアルコープ。待合室から抜け出て、ここで一人静かに故人を偲ぶこともできる(埼玉県)

まとめ

閉鎖された空間の火葬場は息が詰まるもの。風通しの良さそうなヨーロッパの火葬場を見れば、そんな日本人の固定観念は根こそぎ取り去られてしまいます。光と緑に囲まれた火葬場なら、深呼吸すらできそうですね。看取りから葬儀までの疲れをしっかり癒す火葬場が次々と建てられるようになったら、死を過剰に忌み嫌う日本人の感覚もやわらいでくるのではないでしょうか。


武田 至さん プロフィール

一般社団法人火葬研 代表理事
1965年生まれ。博士(工学):建築計画・火葬場、一級建築士、日本建築学会会員、日本建築家協会会員。火葬炉プラント建設の専門メーカーで火葬炉の設計・施工を経験した後、1999年に設立した火葬研究協会の理事に就任。協会が一般社団法人化した2009年より現職。火葬場に関する豊富な知見と建築士としての経験を活かし、火葬場の計画、設計、業務のためのアドバイザーとして活躍している。ワークショップを通じた住民参加の火葬場づくりへの協力、火葬場に関するセミナーや施設見学会、海外の火葬場研究者との交流も行う。

一般社団法人火葬研 代表理事 武田 至さん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?